526: 弥次郎@外部 :2018/01/03(水) 20:30:08
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 「国家改造」9 -流す水にご用心-






《大日本企業連合、足尾銅山への指導強化へ》

大日本企業連合 大日本帝国統治委員会は、足尾銅山の鉱毒被害及び公害(注釈)の被害を抑えるため、足尾銅山に対する指導をより強化していくと発表した。

(中略)

鉱毒被害を受けた土地および鉱毒による健康被害を受けた患者についても今後漸進的に治療および対処を行うとのこと。
大日本帝国統治委員会の長間英治報道官は神崎代表の言葉として「帝国の重要な資源を提供する鉱山として足尾銅山は操業しているが、断じて帝国に害をもたらすものではあってはならない。それ故に、今後は対策を強化し、臣民への被害を抑えていく」と伝えた。
これまでの対策では不十分であるとの判断を下した経緯については今後の日企連詳報の特集及びラジヲ放送で公表していくとのこと。


      • 日企連詳報より抜粋








      • 大日本帝国愛知県 堀留処理場



「写真で見るのとは、やはり印象が違うなぁ」

如月技研と、日企連傘下の水処理業者の社章を付けた日企連社員達は、眼下に広がる巨大な水槽--活性汚泥法による、
好気処理の行われる曝気槽を眺めていた。彼等の基準で見れば、途轍もなく古めかしい方法。史実世界側では最先端にちかい処理方法と施設。
堀留処理場、後の堀留水処理センターは、1930年に熱田処理場と同時期に稼働を始めた、この国での最初の活性汚泥法の導入を行った水処理場であった。
活性汚泥法。即ち、下水菅を通じ集められた下水の有機物を好気性微生物を含む汚泥によって処理するという方法だ。

しかし、この時代において、1930年代においては極めて歴史の浅い処理方法であった。
実用レベルに至ったのはアメリカやイギリスにおいて1910年代のことであり、研究自体も実用化まで30年近くを要していた。
当然ながら、後進国であった日本においてはその研究は難航しており、参考となる資料も書籍一冊からスタートという苦境から始まった。

しかし、それを押してでもやらねばならない理由は、それだけ水処理という問題は切迫していたためだ。
化学肥料の導入によって肥料として使われていたし尿はさばけなくなり、し尿の河川への放出は水質の悪化や悪臭につながったのである。
当時でも使用されていた「散水ろ床法」などでは汚水の処理には限界があった。さらに、し尿の海洋投棄による処理も、魚網や漁獲物に付着してしまって漁師などからの反発もあって限界を迎えつつあった。
それを問題視してこれの導入に踏み切ったのである。その苦労と長い努力の果てに、眼下の施設が完成したのだ。

同時にこれはいくつかの欠点を抱えていた。
まず、曝気槽には好気性微生物が処理する際に必要となる空気を送り込むのであるが、送り込むには膨大な電力が必要となるのである。
未だにこの時代の日本の発電量など高が知れているため、これを各地に作ったところで電力供給は追いつかない。
確かにこれは第一歩である。しかし、これだけではまだまだ足りないのが実情。既に化学肥料の導入が各地で始まっている以上、この愛知のみならず、日本全国で肥料となっていたし尿が問題となりうるようになるのだ。

勿論、日企連としてはこのし尿もメタンガスなどを精製する際の材料となるので順次集める予定である。
だが、それを抜きにしても水処理能力を高めておくに越したことはないのだ。いずれは特定工場から排出される工業廃水の処理の問題が出るのだから。
日本の四大公害病と呼ばれる公害の内、水俣病 イタイイタイ病の3つは工業廃水が原因であるし、アオコ 赤潮は動植物にとっても危険である。
ともあれ、人が生活を送るうえで廃水というものは必ず発生し、その処理を怠れば巡り巡って人間に影響が返ってくるのである。
そんなわけで、彼等は知恵を絞ることにしたのだ。

527: 弥次郎@外部 :2018/01/03(水) 20:30:56
「やはり活性汚泥法の研究を進めるべきであるかな?まだまだ未熟なところがある」

「うーん、でも、稼働し始めたばかりだから、ここから問題点をね、洗い出してもらうのがいいじゃない?」

「嫌気処理を早くに研究を始めるのもいいかもしれんぞ?処理効果が低いとはいえ、設備を小さくできるし電力消費も小さいのだから」

「いや、如何に省電力といっても限界がある。せっかくAC用ジェネレーターがあるのだから、電力消費が大きくなるのは目をつむれるのでは?」

「きれいな水さえ確保できれば発電量が上がるからな。思い切って電力を喰う活性汚泥法でも構わんだろ?」

「いや、ここは膜処理と言う方法もあるぞ。丁度、ラインアークで試された新型を試したかったんだ。ねじ込もう」

「施設管理を行う人間が死ぬからやめて差し上げろ。オーバーテクノロジーはかえって迷惑だぞ」

「かといって、このまま汚れていくのを黙って見ていろと!?」

「うるせぇ、凝集剤ぶつけんぞ!」

「おぉん?担体投げ返すぞ!」

「待て待て」

議論がヒートアップしかけたところで、一人が止めに入った。

「兎も角、排水処理の研究はあらゆる方向で進めていきましょう。
 それに、足尾鉱山の問題も解決しなければなりません。改善しなければ指導も入るでしょうが、0にはできなくとも、0に近づけることはできるはずですからね」

「そうだな……とりあえずは、この水処理場の改良をするべきかな?」

「ここはまだ稼働開始から間もないからな……いきなり改良を加えるのは難しいだろう。
 今後建設が行われる処理場にはここでの実証データや、あっちでの蓄積を元に改良を前提にするのが一番だろう」

「渡良瀬遊水地の方には鉱毒除去の実験が始まっていると聞く。鉱山や鉱山跡の地域にももっと広めていくべきだな」

「そうだな。幸いにして鉱山を持っている財閥に関しては色々と交換条件を持ちかけることができる。
 それで迅速な対応を要求することとしよう」

「数年後には大学の設置も検討されていますからね……こっちだと、専門学校でしたっけ?」

「そもそも尋常小学校の後からの進学が大変だからなぁ」

「・・・・・・」

生まれる沈黙。
大日本企業連合では、旧制度における高等教育、日企連支配下に18歳(場合によっては22歳)までが受ける通常教育が施行されて久しい。
国家時代に合った選択の自由こそある程度残っているところもあるが、基本的にはかなりの期間をかけて日企連では人材教育を行う。
技術の進化と社会制度の変容は、それを教え込む過程において非常に時間を要するものとなった。
逆に言えば、各家庭の状況などを勘案したうえではあるが、そこまできちんと企業の責任を以て教育を受けることができるということであり、史実昭和時代の教育制度とは進化の度合いが余りにも違うということである。

故に、日企連社員たちにとってみれば尋常小学校で最終学歴が珍しくはない世界において、感覚のズレに苦しむ羽目になった。
通常の研究を行う段階においては、まだいい。その時代で一級の能力を持つ人々がいるのだから、何とか合わせられる。
だが、平均では?無作為に人を選び抜いてその平均的な知識の差を比較した場合では?当然ながら、日企連の方が上である。
今後は史実側の社員たちの質を向上させねばならない。日企連社員よりはるかに多い、史実の人間達を、である。
技術を教えながら、さらに知識の植え付けである教育を行い、さらに既存の仕事もこなさせる。どう考えても、オーバーワーク。
フォローを行う自分達にかかる負荷は、いかほどだろうか。

「教育は時間がかかるな…」

「給与の内と思って、頑張りましょう」

「そうだな。数年じゃない。十数年、数十年の仕事なんだろうし」

そんな彼らの上空を、測距装置を搭載したヘリがフライパスしていく。
上空からの撮影だ。さらにこの後行われる地盤調査と史実の資料との照らし合わせの後で、拡張工事が予定されている。
ここからだ。この土地を皮切りに、この日本列島はさらに変貌を遂げていくことになるのだ。
彼らの視線は、すでに遥か未来を見つめていた。

「ついでに旨いものを食いにいこう!しっかりと休暇は確保されているし」」

「あ、私、いいところの情報集めてありますよ!」

「いやいや、名古屋城行くに決まっているだろう」

「エビフリャー・・・きしめん・・・ういろう・・・天然モノとかいくらになるんだろうなぁ!」

おまけに、休暇で食べる史実の食べ物も見ているようである。
こちらが本命ではない……はずである。

528: 弥次郎@外部 :2018/01/03(水) 20:32:08
【ワード解説】


〇活性汚泥法
現代の水処理において主流となっている水処理方法の一つ。
物理的処理・生物的処理・化学的処理のなかで、生物的処理において用いられている。
高い効果を発揮しているのだが、作中でも述べたようにこの活性汚泥法の曝気(エアレーション)には膨大な電力を消費している。
他の工程の分と合わせると、下水処理場の電力消費はかなりのもので、日本全体の下水処理場の使用分だけで
原発数基分に匹敵すると言われている。関連設備や並行して行われる処理のため、初期費用およびランニングコストは高い。
よって、インフラや土台となる産業や工業が発達している国での採用が多い。


〇散水ろ床法
水槽に石・砂利・砕石をろ材として詰め込み、そこに上から処理水をシャワーのように撒いて、石や砂利の表面の生物膜によって処理を行う方法。
上から撒いてろ材で吸着して下で回収する一種のろ過。微生物を利用するという原理は活性汚泥法とほぼ同じ。
活性汚泥法と異なりエアレーション(曝気)の設備を必要としていないため、電力事情が乏しくても動かすことができる。
また、原始的ともいえる構造の為、設備の建設や維持が低コストで済むという利点が存在する。つまり当時の日本向け。

反面、処理場から漏れる悪臭がひどくなりやすく、床バエが発生し、さらに処理しても処理後の水が濁っているなど効果は良いとは言えない。
まさしく3Kのお仕事である。また、物理的処理において沈殿させることができない浮遊物質(SS)が
処理水の中に残り続けてしまう。現代日本においては学術目的を除けば殆ど採用しているケースはない。
一方で発展途上国などでは導入がたやすいために採用されていることもある。



〇活性汚泥
分かりやすく言うと、細菌 菌類 原生生物などが大量に含まれて固まっている汚泥のこと。
これが現代の水処理の根底をになっている。条件が悪くなると活性がおちてしまい、処理が滞る可能性がある。

実は利用している人間もこの汚泥の中にどんな種類の微生物が含まれているかを同定しきれていない。
DNAの分析を行ってもまだ未知の配列が見つかっており、人類にとって有用な菌が含まれているかもしれない。
恐らくではあるが、AC世界においても運用されていると思われる(今後の技術発展で消える可能性もありうる)。
コジマ汚染に適応した微生物とかコジマ粒子をため込む微生物が含まれていそうなので、日企連世界側からは持ち込みはしていない。


〇海洋投棄
影響がないところに捨ててくればいいよね?という処理方法の一つ。
しかし、上記のとおり捨てたところで影響は確実に還ってくる。
自然界に放出されれば理論上は無限倍に希釈されるが、狭い範囲で見ればそれほど希釈されていなかったりする。
その影響は公害病となって人間に悪影響を及ぼすことが多い。結局は自業自得って奴である。


〇足尾銅山
日本における鉱毒事件の代名詞ともいえる鉱山。
当時、まだ操業中である。故に日企連(夢幻会を知らない面子)の顔も真顔である。

529: 弥次郎@外部 :2018/01/03(水) 20:33:22
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに書いてみました。
AC関係ない!なんじゃこりゃ!

日本列島に限らず、この手の公害には対策を打つに越したことはありません。
AC世界の惨状を見た後で史実を見れば、当然必死になるかと…

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最終更新:2018年01月08日 13:29