みんな見たかもしれない不思議な夢









パチン

音が聞こえる

パチン

鋏で木を切る音が

パチン

切られているのは小さな枝

パチン

切られているのは盆栽

パチン

切っているのは小さな少年

パチン

足首まで伸ばされた淡い色をした金髪で、黒いマントを着た少年

パチン

少年の姿をした、初老のはずの男

パチン

「なあ」

パチン

「なに?」

パチン

「あのさぁ」

パチン

「だからなに?」

パチン

「これはさぁ、夢の事なんだけどさぁ」

パチン

「また事務次官に俺はなる!かい? それとも総理大臣に俺はなる?」

パチン

「ちげーよ」

パチン

「ふん、無謀な夢についての皮肉を言っても怒らないんだ?」

パチン

「その夢じゃねーからな」

パチン

「だったらどんな夢かな」

パチン

「胸くそ悪い夢だ」

パチン

「気分悪い夢かい?」

パチン

「ああ、あのな・・・・・・」

パチン




おっさんが死んでる夢なんだ



パチ・・・

切られている枝葉に食い込んだ鋏が止まった

「・・・・・・」

無謀な彼の、玉城真一郎の夢ではない。ひとが見る夢の話に盆栽を切る少年の姿をした初老男性の手が止まった

「頭からだくだく血ィ流してどっかの洞窟みたいなとこで死んでんだよ」

珍しくも真面目な顔で話すその夢の話に、少年姿の男V.V.は黙って耳を傾けた

「胸くそ悪ィ夢なんだ」

玉城の話は続く

「豪華でデカイ車の下で腹を刺されたルルーシュが死んでんだ」

いつも玉城を無視するか腹を据えかねて怒るかする黒髪の少年も耳を傾けた

「KMFの操縦席みたいなとこでキューエルが沸騰して体爆発して死んでんだ」

いつも玉城に厳しい目を向けているヴィ家の親衛隊副隊長のキューエルが耳を傾けた

「クララがさ、胸と顔と拳銃で撃たれて死んでんだ」

いつも玉城が大好きだと彼への好意を隠しもしない桃色の長い髪の少女クララが
玉城へ後ろから抱き着いたまま耳を傾けた

「マリーがさあ、デカイKMFみたいなやつの上で胸刺されて死んでんだ」

クララを玉城から引き剥がそうとしていた紅色をした長い髪の少女マリーベルが手を止めて耳を傾けた

「ユフィがさあ、機関銃で日本人殺しまくった後で黒仮面に胸撃たれて死んでんだ」

日本茶を淹れていた長い桃色髪の少女ユフィの手が止まり耳を傾けた


「死んでるのかどうかわかんなかったんだけどさ、時々ここに来るモニカとかいうラーメン好きな金髪ねーちゃんがよ、KMFみたいなのの操縦席で爆発に巻き込まれてたんだ」

話に耳を傾けていたユフィが急須の蓋を取り落とす

「 俺の大切なダチとかダチっぽいやつらもよお、何人も何人も死んでんだ」

いまV.V.邸にいる皆が耳を傾けていた

「ナナちゃんは死んでるルルーシュに抱き着いて泣きじゃくって、コーネリアは辛そうにしてて、ダールトンのおっさんもとっくに死んでてメガネやろーも失明して俺の大切なやつらがみんなみんなヒデェめにあったり死んでたりすんだよォォっっっ!」

ドガァァァっ!!

膳を叩きつける大きな音がした
拳を叩きつけた玉城の手の皮膚が裂けて血が滴り落ちる

「・・・・・・真一郎」

植木鋏を置いたV.V.が彼の傍に歩む寄る

「んでなんか俺はダチを裏切ったりルルーシュを裏切ったり信用してなかったりしてヘラヘラしてやがんだ! 日本もあんたらの国も滅茶苦茶な事になってんのに俺は俺以上のテキトー野郎ないい加減野郎なんだよ!なんであんなヘラヘラしてやがんだよ!なんで簡単にダチを裏切ってんだよ!わけわかんねーよクソ野郎な俺ぇっ!」

振り下ろした拳を玉城は握りしめて声を震わせ泣いていた
泣きながらその拳で自分自身を殴ろうとしていたそのとき

「真一郎!」

「お兄ちゃん!」

「真兄様!」

V.V.がクララがマリーベルが、それぞれ玉城の肩や手を押さえて止めた
名前をあげられたルルーシュもナナリーもキューエルもユーフェミアもいつになく厳めしい顔つきで涙を流している、始めてみる彼の取り乱す様子に、心配そうな意外そうな顔で見つめていた

「あっ・・・?」

V.V.に握られた手
強く抱き締めるクララの腕
肩を抱くようにしてくるマリーベルの手

それぞれ違う三つの温もりに玉城は呆けたような声を漏らす

「真一郎、それは夢・・・ それは夢なんだよ。君の目の前にはいま誰がいるかな? 鬱陶しい説教ジジイの僕がいるだろう? 僕は死んでるかい? 生きているよね」

無表情と呆れ顔の多いV.V.が珍しくも微笑みながら玉城を落ち着かせている

「君の後ろから抱き付いてるのはクララで、君の後ろから肩を抱いてるのはマリーベルだ。あっちにはほら、ユーフェミアもルルーシュもナナリーもキューエルもみんないるしみんな生きているよね。ユーフェミアがお休みなだけでコーネリアやダールトンだって職場で元気にしているよ。みんないる、君の友達だってそうさ。誰か亡くなったって連絡でもあったのかい? ないよね? だから大丈夫だよ。だからね、それは、夢なんだ」

「ゆ、め・・・?」

「そう夢。君が始めた夢の話だ。夢は夢。現実じゃない。夢は夢でしかないんだ。きっとひどい夢を見たんだね。大丈夫、大丈夫だからね真一郎。僕なんて殺されたって死なないしぶとい爺さんなんだからさ、ね?」

子供ではないが、子供らしい笑顔で玉城を落ち着かせているV.V.ははたと気付いてポケットを探っていた

(・・・正信にもらったあのドロップがない)

菓子の皿に間違えて入れていたのかも知れない不思議なドロップがなかった

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最終更新:2018年03月25日 12:12