掲示板ネタ
たぶん甘いと感じます?




結局のところ









辻政信閣下とVV殿下

そしてマリーベル殿下とクララ姫殿下を伴い集中治療室に戻ってきた私は、四人の方々が責任を取るという言葉を信じて名無しの事務次官の人工呼吸器を取り外した

酸素を送り込んでいた呼吸器を外したことで、元より細かった彼の呼吸に合わせて酸素濃度が低下を始める

「つ、辻閣下っ、」

私は焦る。医師としての経歴に傷が付く事を恐れてではなく、一医者として患者の死を早めてしまう行いに手を貸してしまっている事を自分で許せないからだ

確かに現状患者が助かる確率はほぼ、いや0だ。しかし、まだ患者には、名無しの事務次官には命がある。私は医者だ。例え1分1秒でも命を長らえさせることが可能なのならば、その手段をこそ考じなければならない

であるからこそ、これを、この様な呼吸器を外すような方法を認めるわけには

しかし辻閣下は「ご安心ください」とだけ言って丸眼鏡の奥で光る目をにこやかにした後、こちらを気にすることなくマリーベル殿下に指示を出していた

「さてマリーベル皇女殿下、いやここは永遠の眠りに落ちつつある姫を助けにやってきたブリタニア王国マリーベル・メル・ブリタニア王子と呼ぶべきでしょうか」

彼の御仁はおかしな事を口走りながら、殿下へと手渡していた小瓶の中身を口に含むようにとだけ伝えると

「では王子。眠り姫に愛と目覚めの口づけをお願い致します。むろんご説明は不要かと存じますが、口の水はしっかり姫に飲ませてくださいよ」

衝撃的な頼み事をしていた

「辻閣下っ、マリーベル殿下はブリタニアの皇女」

「しーっ! 先生はお静かに・・・さあ王子様。貴女のプリンセスがお待ちです」

口移しで水を飲ませる。聞いた皇女殿下は目を白黒させながら、それでも口に含む水を飲み込まず吐き出すこともなく、彼女は患者に歩み寄ると、顔を近付けて

「ーーーん」

患者、名無しの事務次官に口づけながら、口に含んだ水を彼の口に送り込んでいった

「う、ぅぅ・・・んく」

殿下より送り込まれた水を、名無しの事務次官は苦しそうに表情を歪ませながらも飲んでいく。無意識下の反射的な体の反応ながら、確かにその水を飲み干した

すると

ピーっ、ピッ、ピッ、ピッ・・・

「ば、馬鹿な?! そんな!これは一体・・・?!」

一瞬にして呼吸が安定し始め、心拍数も平常値にまで上昇してきたのだ
医学的に起こり得ない現象がいま起きた。如何なる薬の投与を行おうとも速効性を以て容態の回復を促す事など不可能だ
それがどうだろうか。いまにも消えそうな命の火がまるで炎のように燃え上がっているではないか

「あ、あの、ツジ卿これは?」

口移しで水を飲ませた事に羞恥したのか赤い顔でマリーベル殿下が辻閣下に訪ねた
少し隣に視線を移すと、クララ姫殿下が口に手を当てて驚いた顔をした後に、熊も殺せそうな目でマリーベル殿下を睨み付けていた
いまにも飛び掛かりそうなところをVV殿下が抑えておられるが皆一様にこの現象に付いては驚愕を以て捉えている様子であった
その中にありやはり冷静さを崩すことがない辻閣下は更なる先を促していた

「思った通りの効力です。そして、やはり玉城くんは玉城くんだという事ですね。さあ次はクララさん貴女の番ですよ。眠り姫に貴女がお持ちの水を今のマリーベル殿下のように口に含み彼へ」

「お、お兄ちゃんに、きききっ、キスするの?」

「キスではありません。救命行為です。ですのでお二方共にカウントなさらないでくださいよ?」

「は、い」

「う、うん・・・じ、じゃあ、お兄ちゃん・・・行くね?」

クララ姫殿下も同じ事を行うよう促されると一転して耳まで真っ赤になってしまった

ボンっ!

そんな音でも聞こえそうなくらいに赤い顔で手にした小瓶の水を口に含み、マリーベル殿下とは反対側へ回ると手で自らの髪を抑えながら名無しの事務次官に口づけをした

「んーーー」

そして口に含む水をマリーベル殿下同様、名無しの事務次官に飲ませていく

「んっ・・・く、・・・んく・・・んく」

またもや彼は口に入った水を飲み干していった。すると安定していた心拍数、呼吸、脈拍、すべてが正常値のままに進み始めたのだ。それどころの話ではない。青白く冷たさを感じさせていた彼の肌には命溢れる色艶が戻り始めていたのだ

「い、一体これはどういう?」

私は問いかけずにはいられなかった
現代医学を真っ向から否定しにかかった丸眼鏡の権力者に。すると閣下は一瞥もくれることなく大したことはしていないとだけを口にした

「なんてことのない裏技ですよ。精々彼にくらいじゃないですかねこれが効くのは。もちろん他にも効果の見込める方は探せばいらっしゃるでしょうし、該当人物がいればご提供差し上げますが」

「マサノブ。君は、君はこうなる事を、シンイチロウの容態が瞬く間に改善の方向へと向かわせられるだろう事を確信していたのかい?」

「いいえまさかそんな事があるわけがないでしょう? 流石にこの即事性は想定の埓外でしたよ。ですけれどね、まあ結果オーライです。この後はそうですねマリーベル殿下とクララさんで彼の手でも握っていてあげてくださればきっと帰ってきますよ。叶わぬ夢、らしくない夢に逃げてしまった臆病な眠り姫は、迷うことなく貴女方二人の王子の下へとね」

「お兄ちゃん・・・」

「兄様・・・」

長年の夢も、追いかけてきた恋も、成就し結婚まで進んだところで何もかもが喪われちまった

いまここには好きなあいつはいない

娘を頼むよと泣いていたあいつの親父もいない

俺たちの期待の星、玉城くんの未来にと祝福してくれていた同窓生たちもいない

式その物を挙げていた教会も消えて

俺はいま、羽根つきマントにドレスの女に左手を

黒スカートのワンピースに背の低い少女に右手を

二人の女に両手を引かれて夜みたいに暗い場所を歩かされていた

「なあ、おまえら何なんだよ。何なんだよいったい! いきなり結婚式ぶっ壊して俺のこと連れ出してよォ! いったい全体どうしようってのよなあっ!!」

左手を繋ぐドレスの女が言った

「どうもこうも。ただ兄様を本来の在るべき場所へと連れていく。その為にわたくしたちは参りました。心のずっと奥の奥、深層心理の更に深くより参上した次第です。そしてわたくしはわたくしが幸せになるためにこんなくだらない場所から貴方を連れ戻す。貴方の幸せを犠牲にしてでも連れ帰ります」

右手を繋ぐ少女が言った

「ここわね。お兄ちゃんがいるべき場所じゃないんだよ。こんなところにいたらお調子者でうざったくってギャンブル好きな駄目男たるお兄ちゃんがいなくなっちゃうから。そんなことになっちゃうとさあ、クララが養ってあげられなくなるの。そんなの困るんだよね~」

聞いていると滅茶苦茶な理由ばかりだ。俺は俺なりに真面目一筋に勉強頑張って

東大入って
官僚んなって
結婚もして

これからだったのに

なんでこんな名前も知らねーわけわからんやつらに人生をぶち壊しにされにゃならんのだ

「てーかなんだよおい。さっきから聞いてりゃおまえらの言う理想の俺ってただのクズヤローじゃねーかよ。調子ん乗っちゃあ嫌われて、好きな子に告白すりゃきもがられて、高校卒業して受験失敗して、また受けては失敗して、またまた受けては失敗して。挙げ句の果てにゃギャンブル三昧。無職歴も数年ニート歴も重ねて世話になってるおじさんとやらには迷惑ばっかかけて。俺がそんなのだったら自分で自分を殺してやるぜ」

聞けば聞くほど最悪だぜ

受験失敗はまあ仕方ねー。俺だってギリで合格したんだから大きなこと言えねーしな

でもなんだよこいつらの知ってる、こいつらが幸せになるために必要な俺ってのは

博打狂いの借金ヤローで言ってる事がころころ変わって一貫性もなし。唯一は官僚や政治家を目指し続けたってとこだきゃまあそれなりじゃねって思ったがよ。叶わない夢追いかけ続けて知り合いのおじさんに助けてもらってりゃ世話ねーぜ

家賃未払いに親に迷惑もかけっぱなしの仕送りなし

いまは飲み屋の店員として働いてせこせこした生き方しながらまた博打

貯金は0で家賃3万のアパート暮らし

金に困れば大家のおじさんに助けを求めて半同居人化してぐだぐだ生きてる

単なるクズを通り越して天井突き抜けてるアホたれじゃねーか

「どうせんなやつぁ誰からも嫌われてんだろ? 自分で自分を冷静に見つめる機会でもありゃ直ぐに気づくだろーぜ。家族からも好きなやつからも友達からも身近なやつらからも誰からも好かれてねーアホでクズでいい加減なバカヤローだってな。ハハッばっかじゃね? 俺がそいつならマジで死にたくなるわ。つーかよ切っ掛けさえありゃ死ぬこと選ぶね。誰も彼もに嫌われて生きる人生なんてクソじゃん」

思いの丈ってほどでもねえ。正直に思ったことをぶちまけてやった。まあな、ぶちまけるもなにも普通に考えるだろそんなクズには近づきたくもねーってさ

とまあ、そんなわけで俺は頑張って努力して自分で自分を支えながら真面目に生きていく。そんな生き方を断然選ぶね。嵌め外しても精々休み前にちっとばっかし飲み過ぎに注意くらいだぜ

部下だって抱えてんのに上司の俺が駄目人間じゃ示しがつかんわ

そんなの、この変な女どもも分かってる事な筈だってのに

俺の考えが分かったのか羽根つきマントのドレス女が正確な人間像を語りだした

「ええ、ええ、わたくしの知る玉城真一郎とは、馬鹿で阿呆で借金まみれで底抜けのお調子者なだけに人様に迷惑ばかりかけてはまともに反省もできず反省しても精々三日もあれば綺麗さっぱり忘れている最低最悪を絵に描いて額縁に入れて飾り付けた様なわたくしの知る人間の中では最底辺を這いずって生きているお方ですわ」

ドレス女に黒スカートワンピースの小さい少女が続く

「そうそう、言ってる事だってコロコロコロコロボールを転がしてるみたいに変わるし一々ひとの気にしている事ばっかし口走ってはからかってくるしでもう存在事態が限りなく構成物質"うざい"でできたような鈍感にぶちん駄目男なんだよねー。ほんとも死んじゃえばいいのにってくらいの馬鹿の王様」

辛辣だった。まるで容赦の欠片もねー散々な罵りようで聞いてる俺までムカッ腹の立つクズだった

なら俺もなんか適当にあげつらってやるかなと言葉にしようとしたんだが

それを許さないとこっちの口を塞ぐようにして二人は更に続けていた

「ですが」

「だから」


それがなにか?


は? え? いやそれでなにて。こっちが聞きた

「わたくしは幼き日にある国のある公園のあるベンチにて泣いておりましたところをうるさいと怒鳴り散らされました。その方、いま思えば体面をお気になさっただけなのでしょう。わたくしを相手におどけながら笑わせてくださり、わたくしのお話し相手を勤めてくださいましたの。その際にお互いの夢を語りながらどちらが先に夢を叶えるのか夢をこの手に掴むのかを勝負しようとわたくしを鼓舞してくださり、挫けそうだったこの背中を押してくださいましたわ。最後にお別れのとき、なにを思い至ったのか存じ上げませんがその方は日本のお菓子である金平糖をわたくしにくださり、あばよなんて格好つけて去っていきました」


「わたしはね。ずっと地下の研究施設でいつもと変わらない毎日を兄弟姉妹の皆と過ごしていたんだ。そんなときにパパがある国へ連れていってくれてね。パパは用事でわたしはひとりある公園で待っているように言い聞かされてその公園に行ったんだよ。そうしたらなんかあるベンチに座ってはぁ、はぁ、ってため息ついて下向いてる変なお兄ちゃんに会ったの。ちょうど桜が満開な季節でね。沢山の花見客が楽しんでる中でひとり空気をぶち壊しにしてるから気になっちゃってお兄ちゃんの足下まで歩み寄ってから下から見上げてみたんだよ。そしたらあっちいけって追い払おうとしてきたんだけどおあいにく様。わたしは人の言うことなんて聞かないからそのベンチに座って話しかけ続けた。叶えたいけど叶わない夢があるんだって。叶えたいけどその入り口にも立てないんだって。そんなお兄ちゃんはね? 必要もないのに見知らぬわたしを助けて大怪我しちゃったよ。誰かに助けられたの初めてだった。だってわたしは何だって一人でできちゃうもん。でまあ大怪我しちゃったお兄ちゃんは救急車に運ばれて病院に連れてかれちゃった」


「思えばあの出逢いこそが」

「あの出逢いがさ」

「わたくしの」

「わたしの」


初恋だった


「なんだよそれ。そんなクズにおまえら恋してんのかよ・・・? おまえらもアホの同類だったってわけかよ。はは、こいつはお笑いだぜ」

「ええ」

「うん」

あまりもの馬鹿馬鹿しさ

その場しのぎだったりくだらねー勢いだったりそんなテキトーな事しかしなかったアホに真剣な顔で恋してると二人は言い切りやがった

「ですので」

「だから」

兄様が

お兄ちゃんが


"自分を否定する理由に私たちを使うなんて絶対に許さない"


「わたくしと兄様のお約束は再会を果たしたあのときにわたくしの勝利で幕を閉じたのです。そして新しいいまが始まりました。それを兄様の勝手で終わらせるですって? おふざけも大概になさいませ」

「わたしはお兄ちゃんがいればなーんにもいらない。お金がほしいならぜーんぶあげる。仕事したくなーいって言うならわたしがお兄ちゃんを養ったげる。でもさぁ、勝手に嫌われてるとか思うなんてふざけんなぁ!!」

そんなふざけた理由で逃げようと言うのなら鎖に繋いで逃げられないように一生監禁してあげる

「・・・・・・おまえらさぁ。言ってて恥ずかしくねーのかよ。二人してそんだけ綺麗なツラしてたった一人に尽くせるくらいに愛情深い良い性格しててよ、そんな最低最悪のアホなクソヤローを好きになってるとか、そのアホ上回る馬鹿だろ」

「ええ、馬鹿ですもの。馬鹿を掴まえるにはこちらも馬鹿にならざるを得ませんもの」

「自覚はあるよ? 自分が馬鹿を甘やかせる駄目男製造器だって」

ですが

でもね



"好きになっちゃったんだから仕方無いよ"

「・・・・・・ああマジもんの馬鹿でアホだわテメーら。なあ、おまえら俺を連れてくつってたよな? 俺の望んだ理想的な俺の生活も未来も幸せも全部ぶち壊しにして」

「はい、わたくしは兄様の幸せを否定します。わたくしマリーベル・メル・ブリタニアの名に誓いわたくしはわたくしの幸せを叶える為にも兄様の幸せを犠牲に致します」

「わたしクララ・ランフランクはこの名に誓ってお兄ちゃんを生涯甘やかすよ? 理想的な格好いいお兄ちゃんなんて超カッコ悪いしそんなクソ喰らえなお兄ちゃんなんて要らないもん」

「ああそうかいそうかいそうですか。理想の俺はおまえらには不必要な俺ですか。俺の幸せはおまえらの不幸せですかよ。・・・・・・そこまで言うんだったらよぉ・・・テメーら俺の幸せを奪った責任取れんだろーなぁ!!」

「ええ元よりそのつもりです」

「責任取って精々ぐーたらな日常生活を堪能させたげるもん」

なんだよこいつら即答かよ
やっぱこいつら馬鹿だわ

だったら

だったら責任取って精々俺の面倒看やがれよな

どうなっても俺の責任じゃねーかんな


はあ、疲れたわもう

ばいばいな。俺の理想

ばいばいな。俺の幸せ

俺以上のアホ二人に掴まった俺を助けてくれる誰かさん

いねーかなぁ

二人とも良い女なんだが色気が足りてねーんだよ

はあ、嫌だ

嫌だ嫌だ理想と正反対の人生なんて

はあ、嫌だわ

ホントは信じてたなんて主張をひっくり返されて嫌だわぁ

白み始めた暗い世界の向こう側が見えてきた
そこは理想も何もかも喪ったアホな俺が生きてる世界
俺は俺以上のアホ二人に両手を掴まれたまま、そのくだらねーつまんねー世界へと引き摺り戻されていった


「う・・・?」

気がついたとき、そこには知らない天井が見えていた
なんかスゲー幸せな夢を見ていた気がするんだけど、よく思い出せねー

「やあおはよう玉城アホ一郎。目覚めはどうだい」

見知った顔が寝起きの俺を出迎えてくれた

「さい、あく。腹痛てーし笑ってる癖に般若の形相に見える子供みてーなじじいがお出迎えとかもっかい寝てーよ」

「ああどうぞお好きに寝てくれてもいいよ。ただしその子たちから逃げようだなんてのは全面的に却下だ。借金を踏み倒したとしても、それだけは僕も許さないからね」

誰かいるのは分かってた

俺の左手を握り締めたまま安心したように眠る薄紅の腰まで届いてる長いサイドポニーテールの女マリーベル・ランペルージ

俺の右手を握り締めたまま幸せそうに眠る薄ピンクの膝裏まである長い髪をした小柄な少女クララ・ランフランク

「なにやってんだよこの色気からっきしの足りない女どもは」

マリーはボンっキュっボンっな俺の好みの体つきだが如何せん色気が無い

クララは胸も膨らんできて妙に妖しい色気を感じさせる事はあっても理想体型にはまだ遠い

つーかこの二人を妹分以上に見れねーよ

「さあね。知るもんか。人の娘と姪を泣かせてくれた駄目駄目男になにかを教えてやる義理なんて持ち合わせちゃいないんでね」

なんのこっちゃ。意味分からんわ

「まあ要するにアホを上回るアホからは逃げられない。魔王クララと大魔王マリーベルからは逃げられないってことさ」

「説明プリーズ」

「却下だと言ったろ。君はおとなしく二人の王子に守ってもらってればいいんだよ。ああもー娘と姪がこんなアホに入れ込むだなんて僕こそこの現実が悪夢だよ」

なんかよーわからん事をぶつくさ言いながら記憶に無い病室みたいな部屋から大家のじじいは出ていった

「マリー、クララ、・・・相変わらず色気ねーなあおまえらは」

嫌いじゃねーけどさ

おまえらは俺なんかのこと本気なのか?
クララは日ごと好き好き光線を送ってくるけど本心はどうなんだ

ランペルージグループ社長令嬢のマリーベルはなんで俺なんかに構ってんだ

しかしまあなんかさ、幸せな夢を見ていたところをおまえらがぶち壊しにしてくれたような気がすんだ
その幸せな世界にはクララもマリーもいなかった

「理想が叶おうがおまえらごいない世界なんざ何の価値もねーかな」

本心からの一言。こんなのこいつらには聞かせらんねーな
勘違いさせるだけだし、おまえらにゃもっと理想的な男が必ず現れ

そこまで考えたとき背筋をゾッとした何かが駆け抜けていった。なんかもう見つけてるから要らないって声がこいつらから聞こえたような気がして


「マサノブ待たせたかな」

「いいえ、久しぶりにビルの屋上の風を満喫しておりましたよ。季節柄寒さ一辺倒ですが、我が身を以てして季節を感じるのもまた一興。玉城くん目を覚ましましたか?」

「いまさっきね。開口一番で僕の悪口にクララとマリーの貶しから入ってくれて思わず殴り倒しそうになったよ」

「ふ、玉城くんらしい。ですがその変わらぬ玉城くんらしさが今回は命を救った。もちろんマリーベル殿下とクララさんの御協力あってのことですが」

「そこが分からないんだ。どうして君は命の危機にあるシンイチロウが助かると見込んだのか。それもほぼ100%助かると考えたのか」

「まあそうですね、魔法の種明かしをしましょうか。玉城くんは死を望んでいた様子でした。ここまでは分かりますね」

「ああ」

「しかしてその要因は誰からも嫌われている自分は生きる価値がないと彼自身が思い込んだが故のものです。しかしながらあの場にはそれを反転させられる高い可能性を持った二人の女性がいらっしゃいました。そうマリーベル殿下とクララさんです」

「どうして確信を持ったんだい」

「これも分かりきった答えとなるのですが、お二人のお気持ちは本物です。それに触れ続けていた玉城くんはきっと深層意識に刻んでいた筈なのです。マリーベル・メル・ブリタニアとクララ・ランフランクの名をね。あの水は夢見ドロップ、ドリームドロップの改良品に過ぎませんでした。しかしあれをマリーベル殿下とクララさんが愛情を込めて飲ませるとき、きっと彼の深層心理を呼び覚ます筈だと考え至ったわけです」

「ちょっと分からないな。深層心理を呼び覚ますといったってシンイチロウは理想的な夢でも見てそれを現実と捉えて眠り続けていた可能性だってある。もしもそうであるならば深層心理に刻まれているかも知れないマリーベルやクララの存在にすら気づかない事も考えられたはずだよ。だけど君はシンイチロウが最悪の容態にあると聞いて確実性を抱きあんな賭けを"助からない賭けを行った"つまり君にはシンイチロウが助かると確信していたことになる。その根拠はなにか。僕が知りたいのはそこなんだ」

「ふふ、残念ながらそこは大日本帝国の魔法使いとして機密事項に抵触致しますのでお教えする事はできません。ただそうですね。玉城くんは生来にして悪運が強い。試しにいま銃弾でも撃ってみましょうか? 100%当たりませんよ。至近距離からでもね。その悪運の強さは意識を喪い死の淵にあってもなお健在だとの確信を私は抱いていました。いえ、彼を知り尽くしているからこそ追い詰められている彼は無敵状態にあったと言い切りましょう。だからこそ勝ち目の無い賭けを行ったのです。如何に彼でも通常化においては単なる一般人に過ぎず、手術費用と入院費用に苦慮する事は目に見えておりましたのでね。それに」

「それに?」

「マリーベル殿下とクララさんならば世界のすべてを敵に回して否定してでも玉城くんだけの幸せなんて認めないだろうと考えたわけですよ。その執着心・独占欲・依存性・狂的な愛情のどれ一つ取っても深層心理に彼女たちが潜んでいるのなら彼だけの幸せなど受け入れたりしないと。彼の幸せが自らの幸せを邪魔するのならば世界ごと壊して彼を引き摺り戻すくらいはやるだろうと考えたわけです。類は友を呼ぶと言いますがマリーベル殿下とクララさんは類いまれなる才能と聡明さをお持ちの方々ですが、こと色恋には阿呆を越えた阿呆である。まあ結論から申し上げるのならば、結局のところ恋は盲目であるということです」

「はぁ、なるほどね。つまりシンイチロウを救ったのはマリーベルとクララの強すぎる愛情に、結局のところマサノブ、君の魔法であったという事かい?」

「まあ知識がないと使えない大日本の秘奥技ですので」

「それには僕ら兄弟も昔助けられたよね?」

「教えませんよ? 魔法とは秘匿されるべきものですので。ああ、それと正確にはあなた方を救ったのは信じる力です。あなた方ご兄弟は嶋田さんを信じきりました。嶋田さんのお言葉を信じきりました。周囲にいるあなた方のお味方を最後の最後まで信じきりました97年ブリタニアクーデターをあの程度で収められたのはこれまた結局のところあなた方自身の信じる心だということをお忘れ泣きように」

辻の話に耳を傾けていたブリタニア皇兄ギアス嚮団嚮主VVは、吹き荒ぶ寒風の中、彼方に昇り始めた太陽の光に目を細め、黒いマントと踵まで伸ばされた淡い金髪を靡かせながら終始ご機嫌な様子で微笑んでいた

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最終更新:2018年04月07日 10:49