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銀河連合日本×神崎島 帰還 呉の空


広島県江田島

少年は年の離れた兄に連れられ最近出来た異星の友人と共に三人で江田島に旅行に来ていた。
少年の両親は共働きであり、幼い頃より年の離れた兄が面倒を見てくれていた。
何処かへ遊びに連れて行ってくれるのもいつも兄であり今回の旅行も兄が旅行に行くので着いてくるか?と言われて着いてきたのだ。

そして呉の海を見渡せる丘の上の公園へと三人はやって来た。
兄はどうしてもここへ来たかったそうだ。
そして公園の一番奥へとやって来た。
大きな石の柱がある、兄曰く留魂碑だそうだ。
兄は線香に火を付けると留魂碑の前に煙草の箱と一緒に置いた。

「曾祖父さんの戦友のみなさん今日は曾祖父さんを連れて来ました。」

兄は懐から半年ほど前に亡くなった曾祖父の遺影を取り出すと慰霊碑の前に置いた。
そして少年と少年の友人に手を合わせ祈るように言う。
何を祈れば良いんだろう?そんな少年の問いに兄は苦笑しながら平和が続くように祈ればいいと言った。

何分か祈りもう一度留魂碑を見上げると何か書いてある事に気づいた少年の友人は何と書いてあるのかと少年に問う。

「アレはなんて書いてあるんデスカ?」
「えーと、ぐんかんぼうな?」
「軍艦榛名出雲戦歿者留魂碑な。」
「慰霊碑じゃないの?」
「うーん、由来は正確には分からないけど西郷隆盛の獄中有感か吉田松陰の留魂録かなあ?」
「どういうのなんデスカ?」
「願くば魂魄を留めて皇城を護らん。
 身はたとひ武蔵の野辺に朽ぬとも留置かまし大和魂。
 という漢詩という詩の一部と留魂録という書物の冒頭の言葉だね。」

兄は苦笑しながら補足した。
そしてその下の碑文も読んでくれた。

「民族の興隆は栄えある歴史の伝統により推進せられる。
 その歴史は殉国の人々の尊き生命の集積がその根幹となっていることを忘れてはならない。」
「どういう意味?」
「教えて下サイ!」
「大きくなったら分かるよ。」

兄は二人の頭を強く撫でながら笑った。
そしてどうしてここに来たかったのか話してくれた。
戦艦榛名は少年の曾祖父が乗っていた艦だということだ。
曾祖父は生き残ったが晩年もう一度戦友に会いたいと病床で兄に零していたそうだ。
そして江田島のあの場所をもう一度訪れたかったいうのが最期の言葉だった。
せめて曾祖父の遺影だけでも一緒に連れて来たかったと兄は言う。

「それに今日は彼女達が帰って来ているからな…。」

兄は二人を連れて公園から海が良く見える場所へ移動した。
今日は快晴で遠く呉の街までよく見える。
麓を見れば船で着いた小用の港が見え多くの人々が集まっていた。
その沖合、かつて呉の空を守らんとした戦艦榛名が大破着底し、今はただ穏やかな波が姿を見せるその場所はいつもと違っていた。

金剛型戦艦三番艦「榛名」

彼女がそこに居た。

440: 635 :2018/11/22(木) 19:17:02 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp

「ここからだと良く見えるな。」
「あ!あそこの大きな船って知ってるよ。長門と大和だよね?」
「あちらはイセサンとトネサンでしたヨネ?」
「よく調べたなあ。」
「長門と大和はすぐ分かるよ!」
「イセサンは見分けやすいデスし、トネサンは喉におサカナの小骨が刺さりやすいという話で覚えてマシタ。」
「その覚え方はどうなんだろ。」

そう、今日の呉は旧日本帝国海軍に所属していた艦艇達が訪れているのだ。
先日行われた東京条約調印式を終えた後複数の艦艇が自分に縁のある土地を訪れているのだ。
旧呉海軍工廠にて建造された艦艇もいるがそれ以外の艦艇も見受けられる。

榛名、伊勢、利根この名前と呉と聞いてピンと来る方もいるだろう。
昭和二十年呉空襲、正にその時この地にいた艦達である。

自分たちがいる江田島から見える範囲だけでも榛名を含め何隻もの軍艦が見ることが出来た。
現在ではどの国も保有していない戦艦もいるのだ。
本土側の呉ではいつもの数十倍もの人が押し寄せて大変な事になっているそうだ。
江田島にも多くの人が訪れているがそのほとんどは戦艦榛名を見るために港に集まっているので
この公園は静かなものだ。

「じゃあ一旦留魂碑の所に戻ろうか、線香の火も消さなきゃならないし。」
「そしたらお昼だね!」
「お昼はカレーがいいデス!」
「この近くにカレーやってるとこあったかな?」

そうして留魂碑の所に戻ると一人の女性が膝をつき碑に向かい手を合わせていた。
そして少年たちに気がついたのか立ち上がりこちらを向いた。
濡羽色の長い髪に巫女服の様な装束を身に纏い、スカートにブーツというまるでアニメから出てきたかの様な出立ちだった。
なにより目を引くのがその容姿だ。
少年の短い人生の中でこれ程の美人に終ぞ会ったことがなく、少年と異星の友人は共に見惚れていた。
その中、兄だけがその女性を見て驚愕していた。

「観光の方ですか?」
「い、いえ、留魂碑にお参りの為にここまで来まして、先程線香と煙草を供えさせて頂いたところです。」
「っ!有難うございます。ではどうじてここに?」
「…曾祖父がかつて戦艦榛名に乗っていまして、せめて一目だけでも戦友と榛名を見せてあげたいと思いまして。」

そして兄は曾祖父の遺影を女性に見せた。
女性の目が大きく開かれる。

「曾祖父は戦友にもう一度会いたいと申してました。」
「曾祖父様は?」
「半年ほど前に…。」
「そう、ですか…。」
「それから榛名が最期を迎えた江田島へもう一度来たかったと。」

兄が女性に遺影を手渡すと女性は遺影を抱きしめた。
そして女性の目尻から涙が溢れた。
少年はそれをとても美しいものだと感じた。
一頻り涙を流すと女性は花の様な笑顔を見せた。

441: 635 :2018/11/22(木) 19:18:09 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp

「みっともないところを見せちゃいましたね。」
「いいえ…、あの、貴女は艦娘の。」
「はい、高速戦艦榛名です。貴方の曾祖父様がかつて乗っていた。」
「良かった。間違っていたらどうしようかと。」
「うふふ。」

そんな話をしている二人を他所に少年と友人は混乱していた。

「(艦娘ってあの!?)」
「(僕も実際見たの初めてデスヨ!!)」
「(ヤルバーンの人ならいつでも会えるんじゃないの?)」
「(そんなの出来るのヴェルデオ司令やフリンゼだけデスヨ!!)」
「(フリンゼって誰!?)」

そして兄と榛名の話は進んでいく。

「もしよろしければ艦まで来ませんか?」
「ええ!いいんですか!?」
「はい!出来れば曾祖父様の話を乗組員にしていただけたら皆も喜びます。」
「お安い御用です!ああ、これで曾祖父さんの願いを叶えられる。」

グー

そんな中、お腹が鳴る音が周囲へ響き渡る。
しかも二つも。
兄と榛名が目を向けると少年と友人が恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
それを見て二人は笑いだした。

「あちゃー、この後お昼の予定だったから。」
「では艦の方でお昼もいかかがですか?今日はカレーですよ?」
「え!兄ちゃん船に乗れるの!?」
「カレーデスカ!食べたいデス!」

恥ずかしそうな顔から一変、戦艦に乗れてカレーも食べられると聞くと二人して食いついてきた。
そんな二人を見てさらに榛名が笑った。
来てよかった。兄はそう感じた。

「すいません。行く前にもう一度だけ手を合わさせて下さい。」
「ええ、私もご一緒してよろしいですか?」
「勿論。」

四人で再び手を合わせた。

『ありがとな。榛名にまた会えて良かった…。皆にも宜しくな。』

曾祖父の声が聞こえた気がして兄ははっと顔を上げた。
横では榛名が涙ぐんでいた。

少年と友人はなにやら再び混乱していた。

「今の声何なのデスカ!?」
「曾祖父ちゃんの声がした!?」

そんな少年達の姿を見てしんみりとした空気も吹き飛び兄は変な顔になった。

「お前らな、少しは空気読め!」

兄の絶叫が呉の空に木霊し、少年達を追い掛け始めた。
キャーキャーと少年達は逃げ回る。

そんな姿を見て榛名は微笑んだ。
その光景がどれだけ尊いかを榛名は知っているからだ。
そしてあの時と同じ様に呉の空を見上げた。
空を覆う不吉な影達が榛名の目に再び映ることはなかった。

442: 635 :2018/11/22(木) 19:19:57 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp
以上になります。
カレーの反動でしんみりとした話が書きたくなった今日この頃。
転載はご自由にどうぞ。

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最終更新:2018年12月02日 17:25