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銀河連合日本×神崎島 帰還―――東北の仏様――――


岩手県山田町

山田町の沖合に停泊している複数の駆逐艦と一隻の戦艦、そして町を見下ろす高台に未だ工事中の町の見つめる複数の人影があった。

「以上が山田町の現状になります。」

案内をしてくれた町役場の職員が山田町の現状を説明していた。
そしてそれを聴き艦娘達はそれぞれの思いを呟いた。

「まだ完全に復興出来ていないんだ…。」
「うん…。」
「ホント、あの時を思い出すわね…。」
「あまり思いつめては駄目よ?」

特Ⅲ型、暁型駆逐艦「雷」「電」
神風型駆逐艦「神風」
金剛型戦艦「霧島」

他の艦娘達が建造地や終焉の地を最初に訪れる中で四人が最初に選んだのは岩手県山田町であった。
それには理由があった。

平成23年3月11日

忌わしき東日本大震災である。


「まるで、関東大震災のようです…。」

関東大震災当時横須賀にいた榛名は映像を見るとそう零した。
大正時代を生きた艦娘達は関東大震災を思い出さずにはいられなかった。

しかし、一部の駆逐艦は別の感想を持った。

「三陸地震の再来だわ…。」

雷はそう零した。

昭和8年3月3日、奇しくも同じ月に同じ東北で同じ様に津波を伴い発生した地震である。
死者、行方不明者の総数は東日本大震災に及ばないがそれでも紛れもない大災害である。

神風、雷、電は当時東北で救助に当たっていたために良く覚えていた。
霧島も追加の救援物資を釜石や宮古へと届ける中で目に映った現地の惨状を記憶している。
それと重なるのだ東日本大震災で発生した惨状が。

雷と電は東日本大震災のことを知ると最初に訪れる地に山田町を希望した。
かつて自分たちが救援活動で訪れた場所がどうなっているのか心配になったのだ。
当時東北の別の地域で救援活動していた神風も同調し、当時救援活動の母艦をしていた霧島が引率を申し出、
四隻で山田町を訪れることとなった。


四人が見た山田町は未だ工事が続き、更地も各所に見受けられた。
その姿がかつての三陸地震と重り、雷達の表情に影を落とした。
福島県では原子力発電所がメルトダウンを起こし大量の放射性物質を拡散させ、
未だ収束の見込みは立っていないという話だ。

「東北は大丈夫なのですか…?」
「電…。」

電は東北の未来を思わずにはいられなかった。
三陸地震で更地となり、大戦で灰となった東北は立ち直り復興したが、
またこのようなことになったのだ。
優しい電には辛すぎることであった。

「こんな光景、もう見たくなかったわ…。」
「神風、大丈夫?」
「大丈夫よ…、霧島さん。少し気が滅入っているだけだから。」

更地となった大地。
それは神風に三陸地震以外の忌まわしい記憶も思い出させた。
爆撃と艦砲射撃により灰と瓦礫で覆われたかつての日本の姿だ。
終戦まで生き残り、復員船として多くの日本人を帰国させた神風はそんな光景をいろんな場所で見たのだ。
そして暗い顔で自分から降りていく国民達、自分達が国を守れなかった結果を見せつけられ打ちのめされた。
その記憶が蘇るのだ。

霧島はそんな駆逐艦達を心配していた。
かつての大戦と深海棲艦との戦争を乗り越え、乗組員の凄惨な記憶も受け継ぐ艦娘達は精神的に強いが
それでもやはり一人の優しい女性でもあるのだ。
悲しい記憶に重なる光景はそんな心を容易く傷つける。
どうしたものかと悩むが打開策は見出だせずもどかしい。

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「皆さん…、どうか下を向かずに顔を上げて下さい。」

目を伏せがちにしていた雷達は顔を上げた。
そこには微笑みを湛えた役場の職員がいた。
そして海の方を指さした。

鮮やかな色が美しい山田の海を彩っていた。

何十隻もの漁船が色鮮やかな大漁旗を掲げ、山田の海を航行していたのだ。

「綺麗…。」

艦娘の誰かが言葉を零した。
その言葉を聞いて職員は笑みを深くした。

「漁師の皆さん、昭和の津波で三陸を助けてくれた艦娘さん達が来ると聞いて東北中から集まってくれたんですよ?」

それを聞き、

霧島は熱くなった目頭を抑えた。
神風は鼻をスンスンさせている。
雷は目を潤ませた。
電はもうえぐえぐと涙を流していた。

「そして言わせて頂きたい。東北は滅びぬ!何度でも蘇る!」

風に力強くたなびく大漁旗、それは東北の強さを現しているように見えた。
霧島は涙を拭い目に決意を浮かべた。

「すみません職員さん。私達漁師さん達の所へ向かいます。今の私達の姿を見て欲しいから。」

その姿を見た職員は満足そうに霧島達の姿を見つめる。

「どうか皆さんの姿を見せてあげて下さい。東北の皆の励みとなりますから。」

「はい!雷、電、神風!さあやるわよ!」
「雷様の本気見せてやるわ!」
「なのです!」
「二人に負けないわよ!駆逐艦はスペックじゃないんだから!」

四人は海へと駆けて行く。
職員はその後姿を見送った。

地元の歴史が好きな職員は雷達のことをよく知っていた。
山田町では昭和三陸地震の時に駆逐艦が助けに来たのを「地獄で仏様に会った様な気持になり目に涙を光らして
感謝の意に満たされた」と当時の新聞に書いてあったのを覚えている。
また、電がフルスピードで被災地へと急行したこと、乗組員が自分達の食事を減らして被災者へ提供したことも知っている。
そんな艦の艦魂様だ。仏様や救いの神に見えてもしょうがない。

「あれだけ優しい娘さん達だ。仏様に見えるのも無理はない。」

海を見下ろせば、雷達が霧島を先頭に山田の青く澄んだ海を白波を引きながら駆けていた。

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以上になります。
戦争以外にも艦達が頑張ったことを忘れないで欲しいものです。
転載はご自由に。

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最終更新:2018年12月07日 09:57