486 : ホワイトベアー sage 2023/05/07(日) 22:14:38
日米枢軸ルート 第30話 改訂版

天候や電波障害の助けもあって『ハートリプール襲撃』を成功させたドイツ帝国海軍であったが、イギリス海軍の慎重さによって本来の目的であるイギリス巡洋戦艦部隊の撃破には失敗した。

しかしドイツ地中海艦隊やエムデン戦隊の活躍に加え、『ハートリプール襲撃』でイギリス海軍を手玉に取れたことはドイツ海軍の士気とヴィルヘルム2世の海軍への信頼をこれ以上ないほど高め、彼らは再度のイギリス本土攻撃を実施することになった。
それも今度は一度に三つの沿岸都市を攻撃目標と定めたより大胆なものをだ。

攻撃を担当するのは『ハートリプール襲撃』と同様に『リュッツォウ級大型巡洋艦』4隻と『フォン・デア・タン級大型巡洋艦』3隻と『アルブレヒト・フォン・ローン』級大型航空母艦4隻を主力に、
小型巡洋艦(軽巡洋艦)4隻、大型水雷艇(駆逐艦)20隻中心とした35隻の高速艦からなる第一偵察艦隊である。

さらに、ドイツ帝国海軍は第1偵察艦隊が誘導してきたイギリス海軍部隊を撃滅するための後衛として戦艦22隻を主力とする大洋艦隊125隻をドッカーバンクに展開させた。

対するイギリス海軍であるが、当時の彼らは戦艦94隻、巡洋戦艦12隻を有する世界最大の戦艦保有数を誇っていた。
だが、その半分がインド洋(エムデン戦隊対策)か太平洋(東洋艦隊対策&日本対策)に持っていかれていたからこそドイツ海軍はこのような博打に打って出れたのだ。

しかし、イギリスもただ黙っているだけではない。彼らはロシアや日本、アメリカなどの同盟国や友好国の助力を受けてドイツ海軍の暗号書類を入手、解析をおこなうことでエニグマと呼ばれていたドイツ帝国軍の暗号の解読に成功していた。

この成功とこれまで行ってきた無線解析などを通してドイツ帝国海軍の動きを大まかながら把握できていたイギリス海軍本部は、
これまでのこれ以上ドイツ帝国海軍に好き勝手させないためにドイツ帝国海軍の攻撃目標となっていた三都市全てに戦艦を含む護衛艦隊をつける様に命令する。

海軍本部からの命令はドイツ海軍に大打撃を与える絶好の機会を潰すだけでなく、戦力の分散になるとグランド・フリート側は難色を示した。

だが失態続きで後がない海軍本部はこれを無視、ドイツ帝国海軍の攻撃目標となった三都市に護衛艦隊を派遣させる。

同時にイギリス海軍は本土への接近を許さぬと言わんばかりに出せる限りの哨戒艦艇と通報艦を北海に展開させた。

イギリス海軍の哨戒艦艇は老朽化が進んでいた水雷艇駆逐艦を転用したものや中小型漁船に少しの改造を施した艦艇が大半で、ドイツ艦隊を捕捉できても生きて帰れぬ可能性が大きかった。
それでも彼らは『ハートリプール』の惨劇を再びおこさせないために率先して北海に出撃していった。

実際、ドイツ海軍1偵察艦隊を捕捉したイギリス海軍の哨戒艦艇はドイツ海軍駆逐艦によって抵抗する間もなく撃沈されてしまう。

しかし、彼らは最後の瞬間まで義務を果たし続けていた。
このときの北海には電波障害は発生しておらず、沈むその間際に発したドイツ艦隊捕捉の報とその位置は無事にイギリス本土に届いた。

ドイツ第1偵察艦隊の最も近くにいたのはスカーボロ防衛のために派遣されていたウォレンダー中将指揮下の艦隊であった。

この艦隊はイギリス海軍の最新鋭戦艦であるキングジョージ5世級戦艦『キングジョージ5世』『センチュリオン』『エイジャックス』『オーディシャス』の4隻のキングジョージ5世級戦艦を主力に、
装甲巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦12隻からなる強力な水上打撃部隊で、彼らは今までの借りを返すべく哨戒部隊の報告にあった海域に舵を取る。

また、これに前後して南方からは『グロリアス』『フォーリアス』の2隻の改装空母と軽巡洋艦や駆逐艦など45隻の中小型高速艦艇からなるハリッジ戦隊が、
北方からはライオン級巡洋戦艦『ライオン』『クイーンメリー』、『タイガー』、インブィンシブル級巡洋戦艦『ニュージーランド』を有する第1巡洋戦艦戦隊を中心とした高速艦隊が第一偵察艦隊を目指して急行し、スカパ・フローからグランドフリート主力が出港していた。

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487 : ホワイトベアー sage 2023/05/07(日) 22:15:13
厄介なことにこの時戦場となった海域はやや靄がかかって視界が悪かった。
北大西洋ではありがちな気候なのだが、これにより英独双方の空母と航空戦力はその活動が制限されてしまう。

更にいまだレーダーをどちらの陣営も実用化できておらず、目視に索敵を頼らざるを得ないという状態でこうした気候は双方の索敵能力を低下させてしまい、ドイツ艦隊とイギリス艦隊は双方が気づかぬまま接近してしまっていた。

11月16日7時25分、第一偵察艦隊の前衛を務めていた軽巡洋艦『フランクフルト』が大型艦3隻を中心としたイギリス艦隊と接触、ドイツ艦隊はイギリス艦隊に先駆け目標を捕捉することに成功する。

イギリス艦隊も『フランクフルト』の存在を即座に察知したため猛烈な砲撃を受けることになった。
これによって『フランクフルト』は撃沈することになるのだが、それでも沈む前に後方の第一偵察艦隊主力にイギリス艦隊の位置を通達した。

報告を受け取った第一偵察艦隊司令部はイギリス艦隊との距離があまりに近いことに驚愕し、防御に不安を抱える空母群を後方に退避させる。

ただ、第1偵察艦隊主力はウォレンダー中将
が指揮するイギリス艦隊を巡洋戦艦部隊と誤認したため、これを撃破しようと砲撃戦に打って出てしまう。

両艦隊の距離が20kmをきったとき、ドイツ艦隊が最初に火蓋を落とした。
35.6cm砲24門、38cm砲18門による先制攻撃イギリス海軍は吹き上がる水柱と霧の奥に見える艦影から第一偵察艦隊の巡洋戦艦群を認識、ただちに反撃を開始した。

合わせて『キング・ジョージ五世』からは急行している各部隊にドイツ艦隊と戦闘を開始した旨を通報する。
この通信は平文で放たれたこともあってドイツ側もキャッチしていた。
目の前の敵艦隊が巡洋戦艦部隊ではなく『キング・ジョージ五世級戦艦』を主力とする艦隊であること、時間をかければかけるほど敵が有利に、自らが不利になることを彼らも把握する。

相手が巡洋戦艦部隊ではなく、イギリス海軍の最新鋭戦艦である『キング・ジョージ5世』級戦艦を中核とした主力艦隊と知ったヒッパー提督は直ちに撤退を決断するが、
すでにイギリス艦隊との距離は詰められていたため容易に反転を行う訳にも行かず、ドイツ艦隊は退却可能な隙が生まれるまでイギリス艦隊との砲撃戦を余儀なくされた。

砲撃戦自体は双方ともに視界の悪さから砲撃が相手に命中しなかったためしばしの間膠着状態が続いた。
状況が動いたのは『センチュリオン』が第八斉射を行った時で、うち1発が『デアフリンガー』に命中したことで状況は一気にイギリス海軍に傾く。

当時の巡洋戦艦は『戦艦に巡洋艦並の高速性をもたせた艦艇』ではなく、『巡洋艦に戦艦並の攻撃力を持たせた艦艇』であった。

そのため基本的に戦艦と比べると防御力は低い。
ドイツ海軍の巡洋戦艦もそれは同じで、『センチュリオン』の放った砲弾は『デアフリンガー』の後部甲板に命中すると艦尾側の主砲塔のバーベットまで貫通し装填室で爆裂してしまう。

『デアフリンガー』の乗組員たちが文字通り命を対価に迅速なダメージコントロールを行ったことで後部火薬庫の爆発という最悪の事態だけは免れることができた。

しかし、『デアフリンガー』は控えめに言っても戦闘の継続が困難なほどの損害を受けてしまい、さらにいくら数で勝ろうと防御力で劣る巡洋戦艦が戦艦と正面切って殴り合ったために他の巡洋戦艦も損傷が目立ち始めてきた。

加速的に拡大する被害を受け、これ以上の戦闘は危険だと判断したヒッパー中将は当初の目的に従いイギリス艦隊をハイシーフリート主力が展開する海域まで誘導するべく、
イギリス艦隊の旗艦であった『キング・ジョージ5世』に攻撃を集中させこれを落後させるとドッカーバンク沖に向かって撤退を開始した。

第一偵察艦隊と砲撃戦を繰り広げたウォレンダー艦隊は艦隊旗艦であった『キングジョージ5世』が集中的に攻撃を受けてしまい大破、完全に戦列から離脱していた。
さらに相手の方が足の早いこともあって追撃を行うことはできなかった。

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488 : ホワイトベアー sage 2023/05/07(日) 22:15:49
変わって第一偵察艦隊の追撃を行ったのは第1巡洋戦艦戦隊を中心とした高速艦隊であったが、幸運なことに彼らはドイツ偵察艦隊の捕捉に成功するものの、濃霧によってこれを見失ってしまう。

猛将と名高いビーティー中将はさらなる追撃を臨んだが、大洋艦隊主力が出撃しているとの情報を知っていたイギリス海軍本部とグランド・フリート司令部は現状でも十分勝利宣言を下せるとして、ドッカーバンクに入る前に追撃艦隊に帰還させてしまう。
これによってドイツ海軍が実施した巡洋戦艦部隊を使ってイギリス大艦隊をドッカーバンクに誘導、大洋艦隊と共同で大艦隊に打撃を与えるという作戦は巡洋戦艦1隻を大破させてしまうという損害を出した上で失敗という結果に終わることになった。

海戦後にベルリンに届いた巡洋戦艦部隊が負った損害の報告はドイツ帝国首脳部に大きな衝撃を与えた。
何しろドイツ海軍は今回の戦いで大型艦の損失はなかったが、巡洋戦艦1隻が大破、3隻が中破という大損害を負ってしまい、事実上半壊状態に陥ってしまったからだ。
事態を重く見たウィルヘルム2世は以後水上艦隊の運用に大きな制限を課し、以後ドイツ海軍水上艦艇の動きは低調化していくことになる。

対象的に活動を活発化させたのが海戦に勝利したイギリス海軍であった。
彼らはこれまで殴られ続けた報復として12月に入るとドイツ帝国本土への直接攻撃を計画する。

この時のイギリス海軍は日本から回航されたばかりの最新鋭の26,100トン級空母である『アークロイヤル』級航空母艦『アークロイヤル』『イラストリアス』が実働状態で、
ハッシュドクルーザーを改装する形で就役させていた改装空母『グローリアス』『フューリアス』『イーグル』も意地で実戦配備にこぎ着けていた。
『アーク・ロイヤル』級航空母艦は約80機の航空機を搭載可能で、『グローリアス』ら改造空母群も50機近い航空機を搭載可能としている。
その艦載機総数は300機近くで、ドイツ海軍空母航空部隊に匹敵していた。

これら5隻の空母は第1・第2巡洋戦艦戦隊に属する巡洋戦艦8隻とハリッジ戦隊に属し、いち早く防空艦として改装されていたC級軽巡洋艦4隻と嚮導駆逐艦8隻、駆逐艦18隻の護衛の下に北海に出撃する。

12月25日、ドイツ帝国海軍の主要拠点の1つであるフィルヘルムスファーフェンを総数約100機近い航空部隊が強襲。
このときのイギリス海軍の主力攻撃機は『中島 NZ Mk Ⅲソードフィッシュ』であった。
これはイギリス海軍の仕様要求に答える形で日本の航空機メーカーである中島が開発した艦上攻撃機で、複葉機ながら雷撃から急降下爆撃までできる万能攻撃機であった。

低水深での魚雷使用ができず航空爆撃のみでの攻撃のみであったため撃沈艦こそ出せなかったが、イギリス海軍航空部隊によるウィルヘルムスファーフェンの港湾機能に大きな被害を与えることに成功した。
ただでさえ第一偵察艦隊が打撃を受けている最中に行われたウィルヘルムスファーフェン空襲はヴィルヘルム二世を恐怖させ、ドイツ帝国海軍を潜水艦による通商破壊戦に踏み切らせることになる。


翌年の1915年からはドイツは中立国はもとより同盟国であったオーストリアの抗議をはねつけてイギリスとアイルランド周辺の海域を交戦地帯と定め、ドイツ海軍はイギリス本土を封鎖すべく潜水艦を使った無制限通商破壊作戦を開始した。

ドイツ海軍はウィルヘルム2世からの命令で動きが制限された水上艦艇に変わって、多くの潜水艦を北海や大西洋に出撃させ、協商国の海上貿易や海上輸送を妨害するために中立国船舶への無警告攻撃すら始めてしまう。

当然、中立国船舶への攻撃は外交問題にまで発展しないわけがない。さらに日米から莫大な物資を輸入しドイツに転売していたオーストリアも大激怒。最終的に対ドイツ貿易の制限すら公然とチラつかせ始めたため、ドイツ帝国の政治家や外交官も無制限潜水艦作戦に本格的に反対に回っていった。
中立国は当然として、同盟国であったはずのオーストリアや国内からの予想外の猛反発を受けたヴィルヘルム二世はそそくさと方針の転換をドイツ海軍に命令し、以後暫くの間ドイツ帝国海軍潜水艦部隊は攻撃は中立国の船舶を攻撃する際には浮上した上で通常の水上艦艇と同じ手順でこれを行う羽目になる。

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489 : ホワイトベアー sage 2023/05/07(日) 22:16:24
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最終更新:2023年09月26日 23:20