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日墨ルート
1930年12 月ブラジルサンパウロ州州境付近
「よし、止まれ」
反サンパウロ州連合軍の将校が部隊に停止を命じた。兵たちは銃を持ちつつ休息に入った。
「そういや、お前知ってるか?この辺りだと最近山賊が出るんだってよ」
「おいおい、俺たち相手に攻めてくる山賊がいるかよ?」
「いや、それが…反サンパウロ軍ばかり狙われてるって噂だ。」
「おい、そりゃ敵じゃないのか」
会話を続けられたのもそこまでだった。
「敵だ」
兵士たちは敵襲に対して応戦するが敵は密林のなかから撃っており、なかなか仕留められない。
業を煮やした将校が部隊に一台しかない急造装甲車を前に出したが直後爆発した。
流石に装甲車をやられては反サンパウロ連合軍の部隊も総崩れとなり、潰走した。

「終わったな…しかし、このおもちゃも案外役に立つじゃないか」
反サンパウロ州軍が潰走したのを見た襲撃部隊の隊長は自らが持つ筒状の物体を見ながらそう言った。
彼が、おもちゃと呼んだ筒はまさに画期的な兵器だった。
きっかけは支那出兵時に目撃した日本陸軍の重戦車だった。米墨国境で彼らと向き合わざるを得ない米陸軍は対策を迫られた。
いくつもの対戦車砲が試作された後、ある技術者が閃いた。
「既存の対戦車砲の強化ではなく歩兵部隊に軽量かつ簡便な対戦車砲を持たせてみるのはどうだろうか?」
たしかに戦車の脅威に最も曝されるのは歩兵である。ということで研究は進められ、そのメンバーの中にはロバート・ ゴダードもいた。
ゴダードは他の技術者が従来の砲の形にこだわったのに対し、自身の得意とするロケット工学を応用した全く新しい対戦車火器を作り上げたのだった。
そうして、作り上げられた兵器はブラジルに送られたというわけだ。
「しかし、こいつが3年前に有ればな」
隊長は残念そうにそういった。彼はアフリカーナーだった。
移民後すぐに米軍に志願し、その後提出したボーア戦争におけるコマンド部隊の活躍に関するレポートが上層部の目に止まった為、
その実証を目的としてここに送り込まれたのだった。
ボーア戦争でイギリス軍を苦しめたコマンドはブラジル人の血を吸いながら再び芽吹き、後にアメリカで大輪の花を咲かせることになる。

1931年1月9日ブラジル、サンパウロ州州都サンパウロ郊外の飛行場
「残念です。ミッチェル閣下。我々には帰国命令が出ました。」
「気にすることはないよ。すでにサンパウロ州州境は突破されたからね。直に我々も帰ることになるだろうな。」
「全く陸軍の連中は…」
「いや、彼等はよく頑張ってくれているよ。我が国のパットンや貴国のロンメル、それにロシアのトゥハ…何とか」(注)
「そうですか、しかし…」
「ヘルマン、準備できたぞ」
ゲーリングが話を続けようとした時、奥からウーデッドが満面の笑みで現れた。
「そうか今行く、閣下少しこちらに…」
そうして、ゲーリングに連れられてアメリカ義勇軍の格納庫へと進む。
「一体何だと…これは」
「少し遅めのクリスマスプレゼント『破損して廃棄することになった』AEG社製の試作爆撃機です。」
ウーデットがイタズラっ子のように笑いながら言う。
「自分たちが何をしているのかわかって…」
「わかっています。これくらいで我々の夢が叶うのならば安いものです。閣下、必ずやリアシュエロ撃沈を」
いつになく神妙な顔つきでゲーリングが言う。
「それにいざとなったらスウェーデンにでも逃げますよ。」
「そうか、わかった。君たちの覚悟とともにこの機体確かに受け取った。私達の夢の為使わせてもらうぞ」
こうして、予想外の増援を得たアメリカ義勇軍航空隊はリアシュエロ撃沈のため出撃することになる。

注 これらの名を聞いた夢幻会では、史実でのビッグネー厶勢揃いな状況に驚愕した。

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最終更新:2019年08月03日 09:32