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銀河連合日本×神崎島 ネタ 言の葉は
志貴島の日本の國は事靈の佑はふ國ぞ福くありとぞ
柿本人麻呂
はじめに言があった。言は神と共にあり、言は神であった
ヨハネによる福音書
阿賀野艦
身は南海に
沈めども
永久に護らん
秋津洲ねを
第十戦隊旗艦巡洋艦阿賀野慰霊碑に刻まれた歌
宮古島平良港
大型クルーズ船が停泊中以外は閑散としている平良港は人で溢れかえっていた。
いくつもの屋台が並びまるでお祭りのようだ。
港の沖合、伊良部島との間の泊地には何隻もの大型のクルーズ船が停泊している。
機動力のある提督やら大陸との緊張が高まってる中でも商魂逞しい船会社と命知らずな物見遊山の暇人達が大勢来ているのだ。
まあ、実戦配備中の神崎島艦艇を近くで見れるのは国内でも数少ないからしょうがない。
両親と共に平良港へと来た少女は見たこともない港の様子に興奮しっぱなしだ。
その少女の手には父が作ってくれた丸くディフォルメされた軽巡阿賀野の模型が握られている。
両親はそんな娘の様子を見て苦笑している。
そして人の波を掻き分けていくと、
父から貰った図鑑で見た水雷戦隊を率いるための高速性を持つスマートで洗練された艦体
友人が見せてくれた写真の秋月型よりも大きな主砲
現代的なレーダーを装備しながらもかつての塔型を思わせる艦橋
南海の紺碧の海と空を背に
阿賀野型軽巡洋艦一番艦 阿賀野が静かに停泊していた。
周辺には阿賀野を囲むように第十戦隊の駆逐艦達が停泊し、目を移せば別の埠頭には補給艦神威が同じ様に、
沖へと伸びる防波堤を兼ねた岸壁には航空母艦隼鷹がその姿を見せていた。
かつて、少女が生まれるはるか昔、此処ではない何処かであっただろうその光景に
少女は暫し佇む。
「行きましょうか。」
「うん!」
母の言葉に少女は阿賀野へと歩き出した。
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軽巡洋艦阿賀野上甲板 第一主砲塔前
大勢の子供達と保護者達が第一主砲塔前に集まっていた。
これより艦娘阿賀野との握手会が行われる。
『阿賀野姉に会うために来てくれたみなさん、こんにちはー!!』
「「「「こんにちはー!」」」」
司会は阿賀野が心配でついてきた能代だ。
子供達は能代の声に大きく返事をする。
人数は男の子、女の子半々ぐらいだ。
『今日は一杯思い出を作っていって下さいね!』
「「「はーい!」」」
『阿賀野姉ェ!みんな待っているからい加減降りて来てよ!』
「ちょっと能代!?そこは全員で私の名前を叫んで貰う所じゃない!?」
能代が第一主砲の後方、第ニ主砲塔の上の方を見上げると阿賀野が主砲の上で腕を組み仁王立ちをしている。
艦橋をバックに主砲の上で艤装を展開し仁王立ちするその姿、その姿に分かっている保護者達の脳内では自然とデンドンデンドンと音楽が流れ出す。
いつもと違いキリっとした表情に実にマッチしている。
保護者達がうんうんと頷きながらカメラを向け一斉にシャッターを切る。
そして、
「とぅ!」
「あっ!?」
阿賀野は空中を舞った。
子供たちは悲鳴を上げたが普段だらし姉と呼ばれている姿からは想像も出来ない程軽やかに空中で一回転をして着地、
物語のヒーローの様な姿に子供達から歓声が湧く。
「すげえ!」
「「「わーーーーーっ!」」」
『皆さん握手会を始めますので整理券の番号で並んで下さいね!』
「「「はーい!」」」
子供たちは元気な声で答えた。
「こんにちは!今日は来てくれてありがとう!」
「こ、こんにちは。」
握手会も少女で最後、少女の順番が来た。
あのテレビで聞いた小鳥の囀りみたいな声だ。
白い手袋を外して握ってくれた手は暖かくて絹のようにさらさらだ。
漁師をする曽祖父のゴツゴツした手や家族の為に頑張る母の少し荒れた手とも全く違った。
近くで見るとテレビで見た以上に阿賀野の艤装は大きかった。
母親が艦娘の艤装をロボットみたいと言っていたがその感想も分かる気がする。
「ん、よいしょっと。」
「わ、わ!」
阿賀野は少女の体を引き寄せるとそのままを抱き上げた。
そしてそのまま阿賀野は艤装に少女を座らせる。
少女が座る艤装からは人混みの中のカメラをこちらへ向ける父や母の姿も見えた。
父の方を向いてピースをすると父は頬を緩めた。
そして少女は艤装に手を触れた。艤装はとても硬く、ゴツゴツしてとても重そうだ。
艦娘さんは良くこんな物を付けて歩けるなあと少女は思った。
隣に目をやれば整った阿賀野の顔がすぐ横にある。
少女は意を決して聞きたかったことを阿賀野に訪ねた。
「私も艦娘になれますか?」
「んー、多分無理じゃないかなあ。提督さんでも知っているかどうか。でもどうして?」
曽祖父やみんなに悪いことをする人達を艦娘さんみたいにやっつけたいのだと少女は話す。
少女にとって艦娘とはアニメの主人公かなにかで曽祖父達を困らせているのはアニメの悪者のようなものだと考えているのだろう。
阿賀野は苦笑しながら少女を諭す。
「私達は魔法少女じゃないの、私達だけじゃ皆を守れないから色んな人と協力しているんだよ。」
「色んな人?」
「そう、分かりやすい所だと日本の自衛官さんや鎮守府の軍人さんかな?」
「私もなれますか?」
「なれるけど、私はなって欲しくないかなあ。」
少女はどんぐりの様な目を大きく開け阿賀野を見つめる。
阿賀野の答えを待っているようだ。
121: 635 :2019/08/18(日) 06:45:18 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「軍人さんの一番大きな仕事は戦争がなくて訓練に明け暮れてる事なの。」
「え?」
「軍人さんが戦わないのは平和な証拠なのよ。物語みたいにいつも戦っていたらいつか自分も家族も友達も傷ついてしまうでしょ?」
「あ!」
「だから物語のヒーローみたいにいつも戦って勝っていたいだけならなって欲しくないかな…。」
「……。」
「軍人さんはね、どれだけ繕っても他の普通の人を傷つけるのも仕事なの。それにね。」
「 ? 」
「あなた達がね、大きくなっても戦場に行くことがないよう頑張るのが私達の仕事なの。」
「……。」
「この海をずーっと私達が守り続けていくから…ね?」
「阿賀野お姉さん…。」
少女は艤装から降ろされると母に連れられ何度も何度も阿賀野の方を向きながら去っていった。
宮古島派遣艦隊宿舎
「能代ーもっと優しくー!」
「全く、阿賀野姉の自業自得だよ。はい。」
「にゃーー!!」
阿賀野は能代からマッサージを受けていた。
普段と違う慣れない動きをしたもんで体の色んな所が痛いのだ。
「うー、痛い…。」
「そういえば阿賀野姉、なんであの子にあんなこと言ったの?」
「あんなことってSEKKYOUのこと?」
「SEKKYOUって何よ、SEKKYOUって。」
「自分目線の説教はSEKKYOUだって夕張さんが。」
「せっきょうがゲシュタルト崩壊起こしてるわ…。」
能代は頭を抱えた。
「でも、日本の子供達に戦争に行って欲しくないのは本当よ。」
「そりゃあ私含めて子供や一般人を戦場に行かせたい艦娘がいるわけないでしょ。」
「あの戦争への後悔が私達を構成するものの一つだものね…。軍事力の象徴の軍艦が子供に軍人になることを否定する、色々難しいね。」
「……。」
「私に乗っていた人で家族を戦争に行かせたい人なんて一人もいなかったしね…。」
122: 635 :2019/08/18(日) 06:46:07 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「それにね能代。」
「私はね、軍艦阿賀野はねこの国のことを頼まれちゃったの。」
生き残った者が読んだ歌
「南洋の海で眠っていてもこの国をずっと守って欲しいって。」
それは生きる者の思いだったのか
「沈んだ艦が生者の頼みを聞くなんて変な話よね?」
死にゆく者への願いだったのか
「それでも軍艦である以上ね、生き残った乗組員のみんなの思いは叶えてあげたいの…。」
艦魂への祈りであったのか
「ふふ、もしかしたら私達艦娘が現世に戻ってきたのはそれが理由かもね?」
それとも軍艦阿賀野に掛けられた呪いであったのか。
「阿賀野姉がそこまで考えていたとは…。」
「これでも阿賀野型のお姉ちゃんですから。」
エッヘンと胸を張る阿賀野。
「でも阿賀野姉にはホエホエして欲しいというかそのままでいて欲しいというか。」
「何よ能代?」
「うん、なんとなくコレジャナイ艦だからいつもの阿賀野姉に戻って!」
「何よそれ!?酷い!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ阿賀野型姉妹。
宮古の夜は更けていった。
123: 635 :2019/08/18(日) 06:46:52 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。
転載がご自由にどうぞ。
たまにはシリアスな阿賀野姉でもいいじゃない。
最終更新:2019年08月18日 11:05