982 :ひゅうが:2012/01/22(日) 19:06:04

ネタ――ヤンの宇宙軍大学校訪問2 ~ネタ暴走~

――同 帝都某所

「ご苦労様でした。嶋田さん。」

「ああ。」

「ところで、また宙軍大でやらかしたそうですね。」

「言うな!元はといえばお前がこの義体で無理やり固定したんだろうが!おかげで私は『撫子たんはぁはぁ・・・し、失礼しました!指導お願いします!』
『い、いや、以後気を付けてくれればいい』『いえ!ぜひ!今後も間違いを繰り返す・・・さないために!』『ずるいぞA!自分だけご褒美を貰おうとするなんて!』『貴様ら・・・顔を近づけるな!!』『『ご褒美ありがとうございました!!』』とかいう変態的な連中に目をつけられているんだぞ!
おまけに生写真まで出回っているし!」

「声真似乙です。またいい素材が――いえ、いいものを見させていただきました。」

「素材って言ったか!?お前の仕業だったのかあのコラ画像!」

「なんのことやら。それに、こっちに来てからの嶋田さんの顔と全体的なパーツは変えていませんよ?何か問題が?」

義体は、ことに軍用のそれは登録した顔以外にはしてはいけない。
そして、その基本になるのは入隊時の顔となる。つまり、嶋田の顔は生まれてこれまで数十年を過ごしてきたそのままなのだ。

思い出したくない事実(実家の両親その他)を思い出してしまった嶋田は、再びため息をついた。

「問題がって・・・まぁいいが。」

ああ、このやりとりがあってこその「会合」だとニヤニヤしている近衛公その他を睨み付け、嶋田はため息をついた。

ここは、夢幻会が誇る美食家 北一輝が経営するおでん屋である。
なお、口調に影響されてかどこぞのメ○ドガイそのまんまになってしまった北は迎賓館にヘルプに行っているので現在は不在だ。

「で。若手士官どもにショックは与えられたのだろう?」

相変わらず調子を崩さない山本がさりげなく茶を嶋田の前に出しながら言った。

「ああ。まぁヤン・ウェンリーがあれほどだとは思っていなかったが。」

指で眉間をもみほぐしながら嶋田は答える。
いつも凛とした表情を崩さない責任感の塊のような嶋田がふとした拍子に見せる表情。
実はそれこそが日本宇宙軍内で嶋田の人気が絶大である理由なのだが、この場にはそれを指摘するようなものはいなかった。

近衛公や辻たちの暗躍の結果、復古され完全に日本文化の一部として定着した「そういう」文化は、「そういう」ことを可能にしていたのだった。
ちなみにその入門書には、世阿弥の「風姿花伝」からこんな一節が引用されている。


984 :ひゅうが:2012/01/22(日) 19:06:49
いわく、「花は秘すれば花なりき。」たとえ大っぴらにやっていることでも、秘密にしてみればさらによさが引き立つという意味でそれは使われている。
なお、目下、自分たちが萌えていることを知らせて恥らわせようとする連中と、このまま秘密の萌えを楽しもうとする連中という2派閥がよくわからない激闘を繰り広げているが、嶋田はそのことを知らない。
閑話休題。

「疑似突出によって機動鎮守府と火力を一方に誘引し、一気に機動鎮守府前衛にまで迫った手腕、心理的間隙をつく罠はあれは天性のものだな。
見事なものだった。それに、シトレ大将が行った並行追撃――第5次イゼルローン攻防戦時の戦法が組合わせられたらあれほど厄介だとは・・・」

最終的には要塞火力による殲滅がなされたが、その過程で自軍の迎撃艦隊が各個撃破されては世話はない。

「まぁ、誘い出されてカンネーの戦いの再現をされそうになったときに即座に気付いただけでもよしとしたいと思うよ。」

嶋田は、この日、ヤンが示したエア回廊での同規模の兵力を用いた全面戦闘のシミュレーションを映し出した。

日本側が三次元での相互支援を重視しすぎて突出をためらう隙を見据え、火力支援部隊を誘い出すヤン。その隙をついて正面空間にできた一筋の通路を突進し並行追撃を完成させたシトレ。
それは見事な組み合わせだった。

迎撃側をつとめたのは今期の入校生だったが、さすがに意気消沈していた。

「これで、若いのも迎撃のみに固執するのがいかに危険が分かっただろうと思うよ。」

「外交交渉で自国を嵩に着て高圧的になることもないでしょうね。」

辻がニヤリと笑う。貞子そっくりになっているため、かなり不気味だ。
政府としては願ったりかなったりだ。と山本は辻に言った。

「明日の交渉、互いに妙な偏見を持つ要素は一つでも少ない方がいいからな。」

「ああ。あ、そうだ。近衛さん。」

「何か?」

唐突に呼ばれた近衛は首をかしげる。

「明後日、ヤン中佐や文官の何人かが神保町に行きたいと希望してきた。文化的な面での担当は近衛さんだったと思うので、まかせても大丈夫ですか?」

「もちろんだ。伊達に古五摂家筆頭をつとめてはいないつもりだ。」

「なら――これ、お願いします。」

嶋田は、口元を釣り上げてニヤリと笑い、メモを電脳に転送する。

「ん?・・・なんだこれは。『戦史』『地中海』『日本歴史資料集成』・・・全部で500シリーズを超えているじゃないか!?これを全部揃えろというのか!?」

「近衛さん・・・この間、あの件でノリノリで主上に言上したでしょう?」

「あの?・・・ああ!宇宙軍の募集ポスターか。いやいや助かったぞ。おかげで写真集の売れ行きも――あ・・・。」

近衛公はうんうんと頷きながら、固まった。


「山本くん・・・君、裏切ったな?」

「ふふ・・・嶋田侯爵家および『嶋田閣下を陰に日向に愛でる会』からクレームが入っていますので。いわく『うちの娘(こ)を泣かせるんじゃない!!あとなんでポスターの焼き増しを寄越さなかった!』とのこと。」

「そっちかよ!!」

助けを求め、辻の方を見る近衛。

「辻さ――逃げやがった!!」

「さぁさぁ・・・しまっちゃいましょうねー。」

「アッ―――!!」

「ふ・・・きたねぇ花火だ。」

最後だけ決めたつもりの東条の一言は、いつものように誰も聞いていなかった。
夢幻会は、今日も平常運転であった。

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最終更新:2012年01月29日 18:43