309 :yukikaze:2012/01/24(火) 22:48:26
銀鬱世界と新帝国の開戦ってこんなもんかね・・・

宇宙歴799年。ラインハルト・フォン・ローエングラムは、幼き頃の誓いを守り
宇宙を統一した。既に制度疲労が限界にまでなり衰退をしていた銀河帝国。
そして、無謀なる出兵を強行したことにより自滅していた自由惑星同盟は
この野心溢れる若者の前に膝を屈した。

だが、宇宙はこの黄金の獅子が考えるよりなお広大であった。
帝国末期にその存在が確認された、銀河系サジタリアス腕に存在する大帝国。
彼らは銀河の喧騒を余所に、静かに沈黙を保っていた。
もっとも、それは怯えからくる沈黙ではなかった。
何故ならば、彼らは既存の両国家を併せても尚凌駕するほどの圧倒的なまでの力を有していたからだ。
彼らが沈黙を保っていたのは、単に外の厄介ごとなんぞにわざわざ口を挟むだけの
理由もなければ必然性もなかったからだ。

後世の歴史家は言う。
『ラインハルト・フォン・ローエングラムが何もしなければ、彼は銀河を統一した皇帝として
 燦然とした栄光を浴び続けていたであろう』と。

だが、銀河の歴史は、彼にそういう評価を与えることはしなかった。
むしろ『短慮なる皇帝』という否定的な評価の方が多い。

それもまた仕方のない事であった。
彼は『銀河の完全なる統一』という野心の大きさと、天才的な戦術能力の自負からくる、
戦略性並びに政治的センスのなさにより、本来なら買う必要性のない争いを引き起こしたのだから・・・

330 :yukikaze:2012/01/24(火) 23:10:58
(続き)

新帝国歴1年。
誕生して間もない新銀河帝国にとって、大日本帝国という存在は
極めて不気味な存在と言えるものであった。
銀河の騒乱に対して、彼らは常に沈黙を守り続けていた。
友好関係を結んでいた同盟が、悲鳴の如き救援要請を幾度しても、彼らはそれに
答えもしなかった。亡命要請は受け入れてはいたが。
これは彼らが基本的に、帝国と同盟の争いに対して不干渉政策をとっていた事と、
同盟の無茶な出兵を暗に諌めたにもかかわらず、それを無視して強行した挙句大敗し、
更にはその少ない戦力をクーデター騒ぎで消耗させた同盟政府の能力に見切りをつけた事が
大きかったのだが、こうした態度は知らず知らずのうちに、新帝国軍の将官たちに、大日本帝国に対する
軽侮の念を抱かせることになった。

もっとも、彼らとて有能な軍人である。
大日本帝国が、自分達が無理をして作り上げた戦力を、彼らは無理なく整備しているという状況と
自分達よりも進んでいる軍事技術能力を保有しているという事実は、彼らを安易な出兵論に進ませることへの
抑止となっていた。
これはもっとも好戦的と言われたビッテンフェルト提督が「1年ならば存分に暴れてみせる」という発言を
したことからも見て取れる。

一方、新帝国の文官達は、大日本帝国に積極的に交流するべきという意見が強かった。
彼らにしてみれば、大日本帝国は新帝国にとって有望な市場であると同時に、立憲君主制国家という
ある種理想の政治形態をとっていた。
開明派として名高いリヒターやブラッケは、大日本帝国との国交樹立と人材交流を行うべきであると
閣議で主張する程であった。

こうした動きに、ラインハルトも無関心であったわけではない。
彼自身が、この時点においてどう考えていたかは諸説あるものの、少なくとも交流自体には
否定的ではなく、ブラッケ達の意見に対しても是としている。
しかしながら、ラインハルトはここで一つ過ちを犯す。
彼は同盟領の高等弁務官であるレンネンカンプに対して、「同盟の帝国化」を進めるように指示している。
これは、万が一帝国との間で戦争が起きた場合、現在の国家戦力では比較にならないことから、旧同盟領の
統制を強めることにより、旧同盟領の国力を効率よく新帝国の国力として利用しようと考えていた(これは
オーベルシュタインの献策とも言われている)ことによるのだが、軍人としてはともかく、政治家としては
無能に近いレンネンカンプは、この皇帝の勅命を杓子定規に守ってしまい、結果として旧同盟領において
新帝国に対する反発が極限化し、旧同盟領は爆発一歩手前となる。

こうした事態に、ラインハルトはレンネンカンプを見限り、彼を更迭するとともに、政治的センスのあるメックリンガーを
送り込んだのであるが、彼を持ってしても、一度不信感の芽生えた同盟市民を抑えることは難しい有様であった。

345 :yukikaze:2012/01/24(火) 23:35:12
(ラスト)

そしてここに更なる油を注ぎこんだのがオーベルシュタインであった。
彼は、旧同盟領の民衆の不満による反乱の連鎖を恐れていたが、
この反乱の連鎖に、同盟最高の智将であるヤン=ウェンリーが結びつくことを尚恐れた。
ヤン自身は、メルカッツ率いる部隊を大日本帝国に亡命させたものの、この時点では
退役生活を楽しんでおり、そうした企てに参加するつもりなどさらさらなかったのだが、
この猜疑心溢れる男にとっては、そういったことなど関係なかった。

もっとも、オーベルシュタインも、メックリンガーが自分の発言にのるとも思っていなかった。
その為、彼は、体のいい手駒であるラングと、新帝国と結びつくことで権力を得ようとしていた
同盟政府の一部を利用して、ヤンの排除を行おうとしたのだが、連携の悪さからメックリンガーの知るところとなり
排除に失敗。ヤンは大日本帝国に亡命することになる。

間が悪いことに、この時、新帝国政府の特使としてエルツハイマーが大日本帝国に来ていたのだが、
彼は大日本帝国政府からヤン亡命について聞かされるとともに、大日本帝国より、新帝国に対する
政治的信頼性のなさを徹底的に追及されることになる。
大日本帝国代表から「貴国には外交的信義という言葉は存在していないのかね?」という嫌味に、エルツハイマー
は唇をかみしめたままであった。

こうした政治的失策は、ラインハルトを激怒させることになり、ラングとオーベルシュタインは即日更迭されたのだが、
既に状況は彼ら両名を更迭したところでどうなるものでもなかった。
そして同盟領において、遂に反乱が勃発し、それは連鎖反応的に同盟各所に広がっていった。
無論、新帝国軍もこうした行動を座視することはなく、すぐさま討伐軍を編成するのだが、ここでこれまでの失態に功を焦っていた
レンネンカンプが、大日本帝国領に避難しようとする輸送船を追撃する時、大日本帝国領土内に踏み込んでしまう。
この事態に、大日本帝国軍は警告と速やかなる離脱をするよう告げるも、レンネンカンプはそれを無視し、最終的には国境警備隊との本格的交戦
を引き起こしてしまう。

勿論、大日本帝国はこの蛮行に対して朝野共に憤激し、直ちに新帝国に対して謝罪を要求。
だが、新帝国側もここで弱みを見せれば、旧同盟領の反乱勢力を勢いづかせることになるのと、
旧同盟領の反乱勢力を支援しているのは亡命したヤン提督ではないかという疑心暗鬼から、
謝罪を拒絶することになる。

ここに大日本帝国は、従来の不干渉政策を転換する。
新帝国歴2年1月1日。大日本帝国皇帝より『朕。ここに宣戦を布告する』の勅命の元、
大日本帝国の宇宙要塞群が進撃を開始することになる。

世に言う一年戦争の始まりである。

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最終更新:2012年01月30日 20:26