801 :ひゅうが:2012/01/29(日) 22:00:38
※ 支援でいただきましたノイエシュタウフェン公を使用させていただきました。投稿支援ありがとうございます!



銀河憂鬱伝説ネタ――「ノイエシュタウフェン公の憂鬱」~交渉 帝国サイド~

――帝国暦480(皇紀4249)年2月 銀河系 フェザーン回廊
フェザーン自治領


「貴国は、叛徒どもと軍事同盟を組んだわけではないのですな?」

「その通りです。ただし、貴国によりわが国の国体に危害が加えられた場合、その限りではないですが。わが国はこちらから貴国に敵対する意思は持っておりません。」

どうだか・・・とノイエシュタウフェン公は目の前でにこにこと笑う月詠宮女王(にょおう)の表情の裏にあるものを探ろうとしていた。
しかし、それは徒労に終わる。

「わが国は、『自由惑星同盟』を国家として承認し、友好関係を構築いたしました。」

「わが帝国の所有たる銀河系の一部を不当に占拠する者どもを承認すると?
ならばわが帝国も貴国への対処法を考えなければならないでしょう。」

「銀河帝国は旧銀河連邦がサジタリウス腕をその主権のもと統治したことはないとご存知かと思いますが?」

「旧暦230年代に探検隊が到達に成功したことは知っておりますよ。それをもってサジタリウス腕は旧銀河連邦領土となったのです。貴国のように国家丸ごとがサジタリウス腕からさらに先に行かれ、新天地に国家を存続させたのとは違います。」

「――では、貴国は旧銀河連邦の継承国であり、我が国を貴国皇帝陛下のもとで統治する意思を持っている、そう考えてもよいですね?」

やはりか、と彼は内心で納得した。

皇帝陛下の勅命により交渉団として派遣された自分は、貴族同士の調整役として内務省に奉職している。
ルドルフ大帝の娘婿という何かと嫉妬を受けやすい家であるからこそ、進んでこの役割を買って出ていただけあって交渉事には彼の公爵家は慣れている。

だからこそ、彼の横で話に聞き入っているフェザーン駐在高等弁務官 レムシャイド伯をさしおいて彼が投入されたのだった。

彼の役割は、前任者がやらかした不始末への詫びを入れると同時に、唐突にこの世界に再登場した日本帝国の目指すところを探ることにあった。
たとえば、自由惑星同盟を僭称する叛徒どもと共同してイゼルローンやフェザーンから帝国本土へなだれこむ意思を持っていては大ごとだ。

現在、叛徒どもの議会では「同盟・日本基本条約」の審議が行われており、また日本人たちの帝都へ至った報道班は現地報道機関の協力のもとで宇宙に話題を提供し続けている。
銀河帝国は恐れた。

その内容に「日本帝国はサジタリウス腕を領有する自由惑星同盟を――」という文言が入っており、銀河帝国の「全宇宙の支配者」としての立場を否定する立場をとっていると知れたためだった。

だが。とノイエシュタウフェン公は思う。
恐れているのは、日本側も同様だ。
考えてみればわかるではないか。旧銀河連邦から銀河帝国への移行は法的に完全な手続きに則って行われている。
一時でも到達したことのある場所への先取権を考慮に入れれば、銀河帝国の領域は現在施政下にある領域の実に4倍にも達する。
それには、現在は放棄されているオリオン腕辺境部からペルセウス腕、そして現在自由惑星同盟の領域となっているサジタリウス腕の一部も含まれている。

日本帝国が「大遷都」と称する国家移動において、彼らは比較的行くのが容易であるペルセウス腕方面を選ばなかった。
サジタリウス腕をも超えてサザンクロス(南十字)腕から白鳥腕まで至ったのは、自分たちの領域に対しいちゃもんをつけられる事を恐れたということもあるのだろう。

802 :ひゅうが:2012/01/29(日) 22:01:14
ここに突破口があるかもしれない――


彼は、貴族同士が行うような退屈かつばからしい理由の調停ではなく、国家を背負った交渉に特有の高揚感を感じ始めていた。

「貴国は、わが国が銀河連邦の継承国家であると考えているのですか?」

「そうなります。わが国も銀河連邦加盟国でありましたので、厳密に言えばわが国もそうなりますが。」

「しかし、自由惑星同盟を僭称する叛徒どもを承認された。ということは、貴国は『旧銀河連邦の継承国として全宇宙を統治する』意思を持っておられないと?」

ようやく気付いたか。とばかりに美しい女宮はにこりと笑った。

「その通りです。」

やった!

「ならば、我が国と貴国は共存できるはずですな?」

「貴国が主張されるように『全宇宙の統治者』として我が国を侵す意思を示されなければ。」


――ノイエシュタウフェン公は、この後数か月にわたり行われる協議の中、有名な一節を含む報告を国務尚書と皇帝にあてて送っている。
「日本帝国は銀河帝国に『こちらから』敵対する意思を持たず。叛徒どもの友邦はわれらが友邦とすることも可能なり」と。

だが・・・


「しかし、貴国が羨ましい。あなたのように有能な外交官がおられるとは。」

「ええ――わが国の隣国は油断のならない盟邦ですから。」

ん?
と、交渉を終え紅茶を手に雑談をしていた公は首を傾げた。
月詠宮は、その様子を見て「あ、しまった」という顔をして、手元のベルを鳴らす。
すると、隣室へとつながるドアが開き、初老の紳士が姿を現す。
その横には、見事な銀髪の壮年の男性がいた。
高等弁務官府の報告では、日本側に参加している高官だったと思ったが。

「ご紹介いたします。大英帝国 外務省 特命交渉課長 サー・リー・マーヴィング卿。
そして北欧連合特命代表部 サリー・ゲオルグ・マンネルヘイム代表――ウェールズ王国、スコットランド王国、イングランド王国およびノルウェー王国、スウェーデン王国、およびフィンランド共和国とデンマーク王国を代表していらっしゃいました。」


――ノイエシュタウフェン公の報告は、銀河帝国をさまざまな意味で激震させることになる。なお、当時の皇帝フリードリヒ4世はこの報告を聞くと、楽しげに高笑いをしたという。
彼が皇帝位を退く意思を公式に表明したのは、その数日後となる・・・。

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最終更新:2012年01月30日 21:27