520 :ぽち:2012/02/05(日) 01:46:22
支配人、失礼しまーす」
「はい、おつかれさま」
「彼」は仕事を終えた劇団員達が帰宅するのに手を振った。
やれやれ、と思わずため息をつく。
ほんの数年前・・・・・・三年前には自分が帝都東京で大帝国劇場の支配人をするなど予想だにしていなかった。
というか、三年前に世界の現状を予測していたものなどどこにもいなかったろう。


紐育華劇団総司令 マイケル・サニーサイドの日記
1942年4月1日
特に理由はないが今日から日記をつけようと思う。
それにしても今のアメリカは異常だ。
公平に見て平和を望んでいるのは日本だろう。
平和を望み譲歩に譲歩を重ねているというのにさらなる上をを要求するわが政府の厚顔無恥さといったら
間違い無く戦争をしたがっている。
我がアメリカは世界の平和と正義の象徴であるべきだろうに、このままでは無体を繰り返す悪逆帝国になってしまう。

それにしても思い出す。
16年前、我が紐育華劇団のメインメンバー全員がタイガくんの嫁になるため日本に行く、と言い出したときの事を。
一年、後継者が育つのを待っての結婚式に出席するため帝都トーキョーに行った日を。
町は美しくゴミも落ちてないし窓も割れてなかった。
女性の教育に力を入れているとかで女学生たちの知性と教養にあふれた笑顔が美しく、大変うらやましかったのを覚えている。
あの美しい町並みをこれから我らアメリカは焼き払い、あの時の少女達の家族を死に至らしめるのだ、そう考えると気が重い

521 :ぽち:2012/02/05(日) 01:48:27
1942年5月21日
タイガくんから手紙が来た。
軍でそれなりの地位にある彼の手紙は、何気ない文章であってもシャレにならない機密につながる事が記されてる可能性がある。
極端な話何月何日にゼネラル・シマダが昼にどこかのレストランでソバを食べた、というだけでも日本の公式発表と照らし合わせ
新しい機密につながる何かが入手できるという事もありえるのだ。
一度ならずこちらが真っ青になる内容を送ってきた事があり「こんなことをこちらに送って大丈夫か」と思わず連絡してしまった。
それに対してタイガくんは「送ってもかまわない程度の情報を送るくらいの分別は持ち合わせている、それに嘘は言ってないけれど全てを言っているわけではないから」
との事。
想像以上に彼は成長しているようだ。
やがて始まるであろう戦争で彼が命を落とさないことを祈る。

1942年6月19日
日本の「米日友好推進文化財団」とやらから連絡が来た。
米日友好を強めるため我ら紐育華劇団にト-キョーに来てほしい、というのだ。
友好を深めるのは望む所だが、政府はきっと小道具だなんだと大量の人員を我が華劇団に送り込んでくるだろう
トーキョーへスパイを潜り込ましたり、すでに潜り込んでいるスパイたちと接触するために。
ファッキン!

1942年7月11日
他の人よりは理解してたつもりだが、やはり日本というのはよくわからない。
我々は平和を望む日本を侮辱し、挑発し続けるアメリカの人間だぞ。
それがなぜこれほど歓迎されてしまうのだ  いや別に罵られたい訳ではないのだが。
通訳のヤマダさんによると「アメリカ政府が無礼な事をしてるとしてもあなたたち紐育華劇団が無礼なわけではない トーキョーの人たちはそのくらいは理解している」

ああ、私たちアメリカ人には出来ない事だよなぁ

1942年7月15日
私たちは軟禁された。
といっても普通の日本風の家にこもってろ、と言われただけだが一応見張りはいる。
ヤマダさん曰く「同行された方たちがもう少し落ち着いてくださってれば多少なら見過ごしたのですが」
つまりあの馬鹿達がなりふりかまわず動いたため検挙しないわけにいかず、そのついでに
私たちも取調べを、というわけか
荷物も取り上げられてないし、待遇はかなり良い、というか日記なんて本来真っ先に取り上げられるべきだろうに
明日はタイガくんとタイガくんの叔父が見舞いに来てくれるそうだ
楽しみにしよう

625 :ぽち:2012/02/07(火) 03:55:48
育華劇団総司令 マイケル・サニーサイドの日記

7月22日
肉が食べたい
ビーンズスープ(ミソスープというらしい)とかトーフとか野菜系の食べ物ばかりだ
黒い紙と生の卵をテーブルに出されたときは拷問されているのか本気で悩んだ。

ジェシーは肌の艶がよくなったと喜んでるしスージーはそばかすが消えたとはしゃいでいた。
食べ物で体調を良くなるというのはオリエンタルマジックだろうか
だがそんなことはどーでもいい
にくがたべたい
繊細な味付けとか素材本来の味とかどーでもいい
タテだか横だかわからん肉塊に芯まで火が通るくらいしっかり焼いて
適当に塩胡椒ふって齧り付く これ最強
それが駄目ならせめてハンバーガー食べたい

7月26日
マダム・マリア・タチバナ・オオガミが見舞いに来てくれた
っていうか詐欺だ
写真で見た19歳の彼女とまったく変わらないって反則だろう
ミスタ・オオガミのワイフ達(複数形というのが凄い タイガくんもだけど)の現在と過去の写真を見せてもらった
シャトーブリアン伯爵夫人以外殆ど外見上年をとってないって・・・・・・
ミスタ・オオガミへの殺意が滾るのは男として正常な反応だろう
ハンバーガーを差し入れてくれたので泣きながら食べた

1942年8月15日
軟禁生活ももう一月になる
日本とアメリカの中は最悪のようだ
しかしだからこそなのだろう、来週から紐育歌劇団の公演が始まる
メインスポンサーはカンザキグループだそうだ
僕たちの手で少しでも両国の憎み合いが収まればいいのだが

626 :ぽち:2012/02/07(火) 03:58:03
1942年8月16日
最悪の知らせだ
ついに日本政府はアメリカとの戦争に突入するらしい
このタイミングでは僕たちは帰国することもできないだろう
この町が焼け野原になる前になんとか出来ないものか・・・・・・
自分や踊り子たちの安全もだが、この町の人たちの安全を気遣ってる自分に少し驚く
あの「萌え」といいこの国の人間はエンターテイメントというものを理解しているからなぁ

1942年8月17日
最悪というのには全く底が無いようだ
わが祖国アメリカの東半分がツナミに飲み込まれたらしい
リトルシップシアターは駄目だろう
・・・・・・・・・・・留守を任せたラチェットは大丈夫だろうか
あの薄汚い、ゴミと汚物にまみれた・・・・・・・・・・・いとおしい故郷よ
ああ心が収まらない、自分が何を書きたいのかわからない
今日はこのあたりでペンを置く
朝目を覚ましてみたらツナミのしらせが誤報だった、ということになっていますように
というかいつの間にかフトンに慣れてる自分が怖い

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最終更新:2012年02月07日 04:17