383 :名無しさん:2012/02/13(月) 09:19:05
 13日戦争と、その後の地球統合政府の成立。
 その地球統合政府を称して、後の歴史家はこう呼ぶ『その船出から破滅を約束された政府であった』、と。

 地球統合政府、その議会で最初に可決された事。
 それは『13日戦争を起こした国々の地球よりの退去』であった。
 正確には、首都や行政府などをようやく開発が本格的に始まった宇宙へと移せ、というものである。
 何故、このような議題が可決されたのか。
 理由そのものは簡単である。

 『あんな戦争を起こせるだけの国がもう一度戦争を起こしたら、今度こそ地球は滅ぶ』

 『目標となる対象(首都など)が宇宙にあれば、地球に影響が及ぶ事もあるまい』

 という、至極納得いく理由であった。
 そして、それが可決されたのは、統合政府以前の国際機関がいずれも列強の、列強による、列強の為の存在と化していた事の反省から、各国が平等な一票を与えられた為であった。
 当然、地球外退去命令を下された列強は反発した。
 だが、最初に大日本帝国が『これまで我が国は国際条約は遵守してきた。約束は守る、それが我らの誇りである。ならば、ギリシアのソクラテスに習おうではないか』、その言葉と共に月へとその首都を移し、やがて恒星間航行船の開発と共に宇宙へと新たな故郷を求め旅立った。
 一番の列強がそうなると、続いて日本側についた各国が、そしてドイツも渋々ながら地球を離れた。
 無論、彼らの本国に手出しを一切行わぬよう脅しをかけて、ではあるが。
 この時、大日本帝国の脱出につきあった国が幾つかあったが、その理由はそれぞれに異なっていた。
 ある国は『我々は同盟国を見捨てない』、と誇りを持って共に旅立ち。
 またある国は大日本帝国あっての自国の繁栄であり、なまじ周囲が苦労していただけに、周辺各国から恨まれている事を自覚しており、付いて行かざるをえなかった。
 大英帝国が共に旅立ったのはそんな中、驚きを持って迎えられた。
 というのも、大英帝国は13日戦争では正式な参戦をせず、むしろ被害者と呼ぶべき立場だったからである。
 原因は単純に、13日戦争に参加出来るだけの核とその投射能力を持っていなかったというだけなのだが……。
 当時の英国首相は『我々は二度は裏切らない』、そう宣言したというが、後に明らかになった所では、大英帝国の最高機関とでもいうべき円卓での結論、『今、共に旅立てば我らは大英帝国として存在出来るだろう、だが、今地球に残れば我らは英国という名の統合政府を構成する一地方となるだろう』というものであった。 
 いずれにせよ、列強は地球を離れた。
 そして、それは地球統合政府の没落の始まりでもあった。

 地球統合政府を構成する各国は列強からは一段も二段も遅れていた。
 列強を追い出した為に、各国が持つ技術もなく、残されたものを元に一から構築せざるをえず、また国際組織運用のノウハウもその大半が失われた。
 そうして、彼らが宇宙へようやっと進出を始めた時、既にめぼしい場所は先に宇宙へ進出していた、せざるを得なかった列強各国によって占められていたのである。
 既に列強は開発を進め、順調に国力を増強しつつあった。
 慌てた地球統合政府は結局、植民星、或いは列強から離れた民間組織が開拓した星を強制的に支配下に及び、そこから収奪する事で列強に追いつこうと画策したのである。当然、それには反発が生じ、遂にはシリウスの反乱へとつながるのであるが……。

 この最終局面、黒旗軍によって地球統合政府の主力艦隊が敗退した時、地球統合政府は列強に救援を求め、その全てが拒絶された。
 その時、外務大臣が『彼らは地球が彼らの故郷であった事を忘れてしまったのか』と嘆きの声明を発表した時の事である。
 大日本帝国は『彼らは我々が宇宙へ上がった時の事を今一度思い出す必要がある』と発表したが、これは非常に穏やかな部類であり、ある国は『犬でも自分の吼え声ぐらいは覚えている。つまり、彼らは犬以下という事だろう』、またある国は『彼らこそ恥知らずの名に相応しい』、またある国は『彼らは辞書で恥という言葉を調べ、自分達の胸に手を当てて考えてから発言するべきだろう』と述べた。
 まあ、要は足を踏んだ者は忘れても、踏まれた相手は忘れてはいなかったという事であり、その後の事はよく知られている通りである。
 また、この事は各国の後の対応にも顕著に現れ、融和を進めた大日本帝国が万が一の避難先も考えた開発を推し進めたのに対し、ドイツは二度と自分達が追い出されぬ為に議会の掌握を図っていく事になるのである……。

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最終更新:2012年02月15日 19:47