803 :名無しさん:2012/02/16(木) 09:10:30
→383を書いたものです
続きを投下ー

 地球統合政府より地球外退去命令(通称、移転法)を受けた列強各国は怒りを抱えつつもコロニーを建設、首都をそこへ移した。
 その際彼らが行ったのが『地球統合政府』からの離脱。
 「既に我々は地球にその首都を置いていない為」としたその目的が「これ以上、無茶な決定を押し付けられては堪らないという列強の意思表示であったのは間違いないが、これを嬉々として可決した地球統合政府の浅慮は否定出来ないだろう。
 列強はこの移住に際して、持ち出せる限りのものを持ち出していた。
 その中でも特に重要であったのが、通信技術、コンピュータ技術、更に宇宙開発技術であった。
 そう、最先端を行く通信機器も、コンピュータそのものも、当然宇宙開発の為の技術も全て列強のものだったのである。その開発拠点と工場設備の全てを列強は宇宙へと持ち出した。
 後になってそれに気付いた統合政府は愕然とした。
 慌てて、「技術を公開すべし」という決議勧告を発したものの、「既に我らは地球統合政府の一員に非ず」とにべもない返事が帰って来ただけであった。
 事実、この当時の地球は列強に比べて一世紀は遅れていたと言われる。
 宇宙に本格的に地球統合政府が乗り出したのがこれよりおおよそ200年後であった事から二世紀遅れていたと主張する説もあるが、地球の民衆に重要技術を全て列強が持ち出した事を悟られまいと長期間に渡り地球の鉱山や漁業資源などに目を向けさせていた時期が長かった事を考えると、そこまでは至らなかったとする意見が一般的である。

 そして、二世紀近く遅れてようやく地球統合政府が宇宙へ進出した時、既に列強は数十年をかけたテラフォーミングを終え、初期的な恒星間国家とそれらによる連合を完成させていた。
 愕然とした地球統合政府は慌てて、彼らの仲間に入れてくれるよう頼んだようだが、脈々と反地球統合政府の意思が受け継がれていた各国からは拒絶しか帰ってこなかったという。
 これで地球統合政府は焦った。
 とはいえ、既に質・量双方で地球のそれをはるかに上回る宇宙艦隊をも保有する列強に喧嘩を売るのが無謀である事はさすがに理解出来た。
 そこで彼らが目をつけたのが列強が「コストが割に合わない」と開発を後回しにして放置していた恒星系であった。
 そうした恒星系は恒星が不安定であったり、テラフォーミングに向いた惑星がなかったりした訳だが、そこにはアステロイドベルトがあり、惑星があり、衛星があり、当然そこには片端から掘り尽くされた地球のそれとは比較にならない豊富な資源が眠っていた。
 その開発に彼らが用いたのが当初は重犯罪者に刑期の軽減を餌とした重労働であった。
 だが、すぐに重犯罪者全てを自動的に送り込むようになり、それでも足りぬと軽犯罪者や国によっては冤罪ででっち上げた罪によってこうした現場に人が送り込まれたという。
 そのような中、比較的健全な開発が進められていたのがシリウスであった。
 シリウスは当初、地球から離脱した列強が中継点としてテラフォーミングを行ったものの、特筆すべき何かが産出するでもなく、また後々の開拓の進展によって地球から近すぎる事もネックになり、放棄されていたものだったが、地球からすれば地球近傍恒星系で、テラフォーミングも施された優良物件だったのである。
 ここはその為か、当初は比較的裕福な市民が移住し、穏健な開発が進められていたものの、地球統合政府の焦りはこの地へも重税を課し始めた。 
 これに反発したシリウスの住民は穏健なデモを行うが、これを地球統合政府は武力で鎮圧するに至った。

 この時、ほくそ笑んだのが大英帝国であった。
 英国はこの時点でシリウスに先発してスパイを送り込んでおり、このデモにおいても幾人かの目星をつけた者の救出に、或いは地下へと潜る手助けをする事に成功していた。
 そうして成立した地下組織に対して、こう囁いたのである。

 『最早、列強の支援を受けて地球を打ち倒すしか道はない』

 当初こそ反対意見も多かったが、熱意と根回し、更に地球統合政府によってその後も繰り返された血の制圧によって遂に彼らも決断した。

804 :名無しさん:2012/02/16(木) 09:11:04
 そうして、スパイ達は表向きはあくまでこう述べて、シリウスを脱出した。

 『自分達の命を賭けてでも援助を引き出してくる』、と。

 実はこの時点で地球統合政府よりノルマを課せられた殖民星や刑務所は列強本体とは激突を回避していたものの、民間とはかなりの衝突を引き起こしていた。
 民間が開発中の恒星系に割り込むぐらいは可愛いもので、密かに私掠船を仕立てて、海賊行為によって不足したノルマを補う、というような真似も行われていたようである。証拠隠滅の為に皆殺し、船も破壊という事を繰り返していたが、証拠こそないものの、既に地球統合政府が裏にいる事は列強はほぼ確信に至っていた。
 それ故に、列強はシリウスに密かに援助を行った。
 旧式軍用艦艇の格安販売、兵の訓練に将となる人物の研修、物資の補給に諜報員の動員。
 それはシリウスの皮を被った列強とでもいうべき姿であったが、地球は「所詮植民星の住人が騒いでいる」と気にもしていなかった。一つには諜報と情報操作という面に関して彼らは遅れをとりすぎていたとも言える。
 事実、彼らは後に追い詰められた状況で列強に救援を求めるなど、まるで気付いていなかった事を露呈する事になるが、当然裏から手を回していた列強からすれば嘲笑ものでしかなかったであろう。

 こうして地球統合政府は業火の中に消え去った訳だが、肥大したシリウスは最早用済みだった。
 正にその為にこの時点でシリウスは余りにも極少数に権限が集中し、極少数とそれ以外の有象無象という状況が成立していた。
 パルムグレンの病死は暗殺によるものか、或いは自然死か分からないが、その後のタウンゼントとフランクールの対立を煽ったのは事実のようである。
 最も、チャオ・ユイルンに関してはいまいちはっきりしない。
 一説にはスカウトしたが、断られたという説もあるが、これに関してはフランクールの先手を打って彼を暗殺したタウンゼントが恐れて、動いたのが事実ではないかとされている。
 いずれにせよ、タウンゼントも死亡し、シリウスはトップ全てを失った混乱状態に突入。
 歴史から消えて行くのである。

【以上です】

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最終更新:2012年02月18日 21:46