233 :名無しさん:2012/02/18(土) 22:41:08
――皇紀4249(宇宙歴789)年3月3日 銀河系 白鳥腕
   日本帝国 帝都宙京 郊外「嶋田邸」

「ああ、そうだ!」

「どうした山本?」

ヤン中佐とパエッタ少将が嶋田邸を辞去しようとしていた所で山本第二艦隊司令長官が唐突に声を上げた事から物語は始まる。

「いや、その、広報の連中に頼まれていた事があってな、折角だからこの際ついでに…ああ、パエッタ少将、ヤン中佐、すまんがまだ帰らないでくれ。何、時間は取らせない。嶋田、カメラあるか?」

「自分たちは構いませんが。構わんなヤン中佐?」

「はい。ですがどうされたのです山本提督?」

「もちろんあるが本当にどうした?」

そんな頼みに何と無く承諾の意を示した三人に山本がややバツの悪そうな笑みを浮かべて理由を話し始める。

「いや、広報の方で同盟軍人と親交を深めている画を多く必要としているそうでな。同盟からのお客様方を私邸にまで招待したのは今のところ嶋田、貴様だけであるし、いい宣伝になるのでは、と思ってな」

かくして撮られる嶋田邸を背景にした一枚の記念写真。

右から順にいかにも軍人らしい頼もしげな笑みを浮かべたパエッタ少将、見た目眼鏡をかけた女子高生な容姿に本来なら似つかわしくない、だが何故か似合っている悠然とした笑みを浮かべた山本五十六中将、原作主人公と心ゆくまで話し合って気分がかなり舞い上がっていたのと余り帰っていないとはいえ自宅であるが故の気の緩みか、超々々々々レアな余りにも無防備な笑顔が出ていた嶋田茉莉。

後、その隣の困った様な笑みを浮かべている原作主人公(の片割れ)。

以上の四人が写った写真が後に色々引き起こす事になる……正確にはその左半分が。





「こいつは……『嶋田閣下を陰に日向に愛でる会』が今までに集めた中でも至高の逸品の一つになるかもしれんな……」

画像データを確認しながらそう感嘆の声を洩らす山本。
事実、後日この写真が掲載された宇宙軍の広報誌は出ると同時に瞬く間に姿を消した。だがそれと同時に宇宙軍内部で嶋田に自宅に招待されただけでも羨望の極みなのにすぐ隣で一緒に写真に納まっているヤン・ウェンリーに対する嫉妬が燻り始める。
嫉妬の余り、写真の右半分とヤンの姿をカットして、嶋田の隣に自分の姿を入れるコラージュを実行する連中が続出する程に。

そしてそんな最中密かに知れ渡ってしまった、嶋田茉莉がヤン・ウェンリーと文通をしているという事実。

宇宙軍内部で阿鼻叫喚の叫びが満ちる、のだが実はそれは本題ではない。




「ふーむ。これは中々……」

そう感心した様に呟く山本の前には一枚の立体画像ポートレート。写っているのは嶋田茉莉とヤン・ウェンリーの二人だけ。オリジナルの画像データを多少いじってあたかも最初からツーショット写真であったかの様にしただけなのだが、コラージュした連中のとは違ってさすがに無理が無い。

「折角だからヤン中佐にはこっちを送ってやるか。彼の人生にだってたまには潤いが必要だ。当然私はもっとだw」

ちょっとしたいたずらの愉悦が押え切れず、くっくっくと笑う山本。もちろんパエッタ少将には四人そろった本来の写真を送るのだが。何故ならこの山本五十六は他所の夫婦に波風を立てる様な悪趣味な人間ではないのだから。

234 :名無しさん:2012/02/18(土) 22:41:55
遥かな星の海を越えてヤンの許に差出人:山本五十六 被写体:嶋田茉莉中将&ヤン・ウェンリー中佐な写真が届く。
「どうして山本中将とパエッタ少将が写っていないんだ?」
ヤンは文通相手に出す手紙にその素朴な疑問を至極冷静に記し始める……この馬鹿は一回死ねばいいと思う。




「誰…なの…この人…?」
理解のあり過ぎる母親と何故かとても親切なパエッタ夫人のおかげで週一回の家庭教師以外にも掃除や食事(まあ、挟む物限定だが)の手伝いでヤンの家を訪れる機会が激増したフレデリカは無造作に置かれていたそれにヤンと一緒に写っている凛々しくも可憐な軍服姿の少女(爆笑)の笑顔に動揺を隠せない……




「お前は嬉しくないのか!? 恥ずかしくないのか!? どうなんだヤン・ウェンリー!?」
「何を言っているんだお前は。ヤン・ウェンリーだぞ? 筋金入りの朴念仁だぞ?」
「だからといってこの照れや萌えが微塵も感じられない文章があっていいのか!!? しかも一緒に写っている嶋田、お前相手の手紙でだぞ!? 普通もっと照れくささや気恥ずかしさを出すべきだろうが!」
「いいから早く仕事に戻れ山本」
目論見が外れて激昂する山本にいたずらのネタにされたにも関わらず極めて冷静な嶋田。
「どうしてお前はそんなに冷静なんだ嶋田……しかも最近やたらと機嫌が良いし」
「ヤン・ウェンリーが(嗜好的に)普通の人間である事が改めて確認出来てほっとしているんだよ! 機嫌が良いのは最近変態的な視線や変態的な言動をしたり言ったりするヤツが激減しているせいだ……悩まされない分本当に仕事がはかどる」
「…(そりゃあ過激派がヤンへの嫉妬に狂っている連中とお前の恋(笑)を全身全霊を掛けて守ろうという連中に分かれて内部抗争してるからだよ。穏健派はお前にばれる様な真似はしないし)」




「ヤンさんにあの人が誰なのか聞かなきゃ…………それで、それでちゃんとヤンさんに好きって言わなきゃ……」

予想もしていなかったイレギュラーの出現は少女に恋を確かに自覚させ、少女の不安を、愛を、覚悟を確実に育てていく。
だが時は少女の成長を待たず、二の矢は情け容赦なく放たれた……





「冷やかしやからかいと認識して貰えないいたずらとは実に空しい物だな……だが、まだだ、まだ私は終わらんよヤン・ウェンリー!」

パスケース大の二次元写真を前に不敵に言い放つ山本。おもむろにペンを握ると写真に何やら書き込み始める。

「愛していますウェンリー……今この瞬間も、そしてこれからもずっと、と。まあこれ位書いてあればヤン中佐もさすがにうろたえるか驚くなりするだろう」



そして―――

「フレデリカって、いい加減にフレデリカって呼んで下さい!」

少女は涙ながらに自重を投げ捨てる……



まあ、こんな感じで。
フレデリカ・グリーンヒルがフレデリカ・グリーンヒル・ヤンになる日がほんの数年でも前倒しに出来たらなあと思ってw

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最終更新:2012年02月24日 22:59