328 :yukikaze:2012/02/19(日) 20:50:30
では投下。



フレーゲルが大日本帝国の使節随行員に選ばれた理由は、
一言で言ってしまえば「都落ち」以外の何物でもなかった。
元々フレーゲルは、大日本帝国との交流に対して強硬的な
意見を吐き続け、いつしか強硬派の旗頭に祭り上げられていた。
当人はそのことに満足していたのだが、如何せんそうした行動は
上層部の怒りを買うことになり、ブラウンシュバイク公ですら
庇うのが難しい情勢に陥っていた。

そうした中、フレーゲルが権勢を失いつつあったペーネミュンデ
侯爵夫人と幾たびか接触をしていたことが、上層部にとって
格好のネタとなった。
上層部にしてみれば、フレーゲルの行動は明らかに宮中の調和を
乱す行為でしかなく、処罰対象とするのに十分であった。
事ここに至って、ブラウンシュバイク公もフレーゲルの浅慮を
叱責すると共に、彼に一つの命令を下した。

曰く―――
大日本帝国の随行員として彼の地に赴き、貴族としての
誇りを今一度学びなおすこと。なお、一つでもトラブルを生じさせた
時は、問答無用で一門から廃嫡する。

まさにフレーゲルにとって最後通告であった。
これにはフレーゲルも驚き慌て、必死になって詫びると共に、先の発言の撤回を
求めたのだが、いつもは彼に甘いブラウンシュバイク公は頑としてそれを認めず
受け入れられないのならば、この場で廃嫡することを突きつけたのであった。

後にフレーゲルは知ることになるのだが、このブラウンシュバイク公の強硬な
態度は、彼が宮中で他の有力者たちから、フレーゲルの不始末のけじめをつける事
を突きつけられたからであった。
自らの浅慮な行動が叔父を追い詰めていたことを知った時、彼は初めて叔父の
情けに涙を流したという。

もっともこれは後の話であり、当時のフレーゲルがそんな事を知る由もなく、
彼の精神は荒れに荒れまくった。
これまで彼の周りにいた取り巻き達が、フレーゲルが失脚寸前であるのを知ると
そそくさと逃げ出したという事実も、彼を荒れさせることに拍車をかけた。
彼と終生仲が悪かったラインハルトが、今回の一件でフレーゲルを嘲笑したことが
耳に入っていれば、恐らく彼は暴発していたであろう。
回顧録において『この時ほど、自分が『ブラウンシュバイク公爵の甥』という一点だけで
周りがちやほやしていたという事を理解したことはなかった』と、述べた程であった。

そんなわけで、大日本帝国へ出発する日の間、彼は部屋に籠っては浴びるように
酒を飲んでいた。
そうでもしなければ、やっていられなかったというべきであったろう。
周りの人間は「フレーゲル家もこれで終わりか」と、諦めの境地に達し、ブラウンシュバイク
公爵ですら、異郷で恥を晒す位ならと、処断の覚悟を決めようとしていた。

そんな時、ある1人の人物がフレーゲルを訪ねてきた。
屋敷の者達はその人物の来訪に驚きを見せるが、追い返した場合の不利益も考えて、
彼を屋敷内に通すと、不機嫌極まりないであろう屋敷の主人に、恐る恐る来客を告げる。
フレーゲルは、屋敷の者の声に不快な顔をして、来客を返すように言い放ったのだが、
その声が終わるか終らないかの内に、楽しそうな表情を浮かべながら、彼は部屋へと入ってくる。

「久しいの、フレーゲル男爵。ちと付き合え」

年代物のワイン瓶を持ち、彼―――グリンメルスハウゼン子爵は部屋へと入っていった。

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最終更新:2012年02月24日 23:09