646 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:13:09

AceCombat鬱 ~The Another Players~



 ベルカ絶対防衛戦略空域『B7R』と呼ばれたそこは、今はオーシア連邦の制空下にあった。

 ウスティオ自治領の莫大な天然資源、ホフヌング・スーデンドールという二大工業都市、
そして異世界のプレイヤーである日本帝国の締め出しを狙ってベルカに宣戦布告したオーシア連邦は、
開戦直後の『バトルアクス作戦』においてB7Rに世界の空戦史上最大の波状攻撃をかけ、
同空域に上がってきたベルカ軍の航空戦力を徹底的に疲弊させたのだ。

 ベルカ側も6個以上ものエース部隊を投入して反撃を図ったが、
オーシア軍は4日間絶え間なく航空隊を送り込み続け、最後には消耗に耐えきれなくなったベルカが退いて、
ここにB7Rはオーシア連邦の手に落ちたのである。


 そして―――



《B7R防空司令部より入電!
 友軍の航空戦力は既にその40%を損失!》

《くそっ、奴ら速すぎる!手に負えん!増援はまだか!?》



 日本がベルカと正式に同盟を結んで本格的に援軍を投入しだすと、
ハードリアン線・タウブルク丘陵を抜かれて敗退続きだったベルカ連邦も息を吹き返した。
元々少数精鋭主義だったベルカ空軍は緒戦のB7R制空戦での消耗を回復させる事ができず、
その悪影響が他の戦線にも出ていたのだが、日本空軍が加わった事で消耗の悪循環から抜け出し始めており、
また伝統の日本海軍が培ってきた力はオーシア海軍の行動を牽制するには十分すぎた。

 そのため多少なりとも余裕を取り戻したベルカ軍上層部は、
一時は実行寸前まで進められた核攻撃を中止し、通常兵器による反攻作戦を立てたのだ。
その嚆矢が、日本空軍と連合してのB7R―――通称『円卓』の奪還だった。

647 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:13:42

《ロト1より各機、野犬や日本人に遅れを取るな―――全機落とすぞ》

 機首を赤く染めたタイフーンがB7Rを駆け抜けていく。

(円卓で汚された私の誇りは、円卓で取り戻す。それがこの日だ)

 ロト隊の隊長、デトレフ・フレイジャーはこの日を待ち望んでいた。
汚してはならない聖なる空域『B7R』での激戦。空中給油を受けながら夜を徹して戦った事。
次第に身体を蝕んでいく疲労と、軍本部からの苦汁の撤退命令への怒りと悲しみ。
言葉こそ静かだったが、その中には開戦時の忌まわしい記憶が焼き付いていた。

 他のベルカ軍機もロト隊と同じ思いと、そして感慨を抱いているのだろう。
その機動は『伝統のベルカ空軍』と呼ばれるに相応しく、最早緒戦の疲弊しきった姿はそこにはなかった。

 さらにオーシア軍にとって不幸だったのは、
日本とベルカの同盟を知ったフリーランスの傭兵達がベルカ側に付きだした事だ。
最初は敗北ムードの濃かったベルカにわざわざ雇われるような傭兵は1人もいなかったが、
同盟締結によりベルカに勝ち目が出てきたと踏んだ者が続々とベルカのアプローチに応じ始めた。
その中には『片羽の妖精』ラリー・フォルクや、後に『鬼神』の2つ名を手にするサイファー等、
並のパイロットはおろか、ベルカ空軍のエースでさえ敵わないような怪物までいたのだ。

648 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:14:16

《日本軍機を確認した。ソーサラー1より全機、最大推力であたれ》

《こちらウィザード1、異界の『武士』には舞台を降りてもらおう》


 しかし一方のオーシア軍も、一度手に入れた円卓を手放す気はさらさら無かった。
あちこちの戦線から30機もの増援をかき集め、B7Rに投入する。その中には、
F-15S/MTDやYF-23などの強力な機体も含まれていた。


《7番機、ミサイル!ブレイク!ブレイク!》

《クソッ!2機ひと組での攻撃か 可愛げが無い奴らだ》


 オーシアの増援部隊は日本軍の主力機、震電弐型を集中的に狙っている。
日本側のパイロットも伊達にドイツと睨み合いを続けていただけあって熟練揃いだが、
2機ひと組を4チーム作って、日本軍航空隊を1機ずつ執拗に追い回すソーサラー隊と、
獲物への援護を妨害する事に徹しているウィザード隊の息が合ったコンビはなかなか破れなかった。


《敵さんも伊達じゃないって訳か…――!? 4番機、後ろ!後ろ!》


 7番機を狙うF-15に向かった震電弐型の後ろに、まるで魔法のようにYF-23が滑り込む。
4番機もそれに気付いてブレイクするが、YF-23は見事なまでにそれに喰らいついていた。

 そして、YF-23が4番機を機関砲の射線に捉えたその時、2機の間の空間を機銃の十字砲火が遮る。
危険を感じたのだろう、その場を離れたYF-23を見て一瞬呆気に取られた4番機が次に見たものは―――


 2機のF-15。片方は両翼端を蒼く、もう片方は右翼の大半を赤く染め抜いていた。


《―――ようサムライ。まだ生きてるか?》

649 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:15:07

 『円卓』制空権奪還作戦は、結果から言えば成功に終わった。
同空域に突入したオーシア軍機の中で、最終的に帰還できたのは僅か4割しかいない。
それだけベルカ=日本連合軍の攻撃が激しかったという事であるが、
この戦いは一方で連合軍の双方に大きな課題をもたらしていた。


「オーシア軍の戦術は想像以上に狡猾だな……生半可な航空戦力では消耗戦に持ち込まれてしまう」


 ディンズマルクのベルカ軍本部で、日本の航空参謀本部から出向していた田母神俊雄中将は、
異界の軍が自分達の世界におけるドイツ軍と同等か、それ以上に手強い存在である事を改めて自覚していた。

 オーシア軍とベルカ軍を比べて、ベルカ軍が大きく勝っているのは兵員の質であった。
元々軍事国家である上、特に少数精鋭主義を掲げる空軍はオーシアにとって大きな脅威であり、
その不利を打ち消すためにオーシア軍は『戦闘を長引かせる事で、相手パイロットを消耗させる』
という戦術を対ベルカ用に採用していたのだ。此方に被害が出そうになったらすぐに後詰と交代させ、
戦闘空域に常に元気一杯の部隊が存在するようにするという『意図的な戦闘長期化』ドクトリンは、
大兵力とそれを支える兵站を持つ大国、オーシアの軍隊にはうってつけだったと言えよう。

 これが数的に劣勢なベルカの鳥を相手に高い効果を発揮した。
そして今また、異界にいるため戦力を揃えづらい日本軍相手にも有効に働いているのだ。

650 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:15:39

「他にも問題はある。戦闘記録を見せてもらったが、
 傭兵はともかくとして我々と日本人との連携が取れてなさすぎるのだ」


 そう語るのは『凶鳥』の異名を持つベルカのトップエース、ウォルフガング・ブフナー大佐である。
彼はその腕前から、日本との同盟が成って戦力的に余裕が出来ると、ディトリッヒ・ケラーマンと共に、
後方へ下がって新兵の教育に当たっていた。

 ベルカ空軍が少数精鋭主義だという事は今までも散々書いてきたが、
局所戦闘での優勢を得られるというのがこの思想の利点であり、欠点は頭数が不足しやすい事だ。
さらにベルカ空軍の場合は、突出した能力を持つエース部隊が沢山いるものの、
それら部隊が複数集まって相互に連携できるかというと、実はあまりそうでもなかった。

 サッカーチームに例えると、ベルカ空軍というのは選手全員が一度ボールを得たら、
相手の防御を寄せ付けず一気にゴールまで持っていける高い運動能力を持っているのだが、
その全員が味方にボールをパスしたり、そのパスを受け取ったりする経験に欠けているのだ。

 同じ空軍の中でさえそうなのだから、
外国(それも異世界の)である日本の空軍ときちんと連携が取れる筈も無かった。
ウィザード隊とソーサラー隊が日本軍機の攻撃に集中できたのもこれに起因する。
彼らはこういう所を見抜くのが得意なのだ。


 これら新しく洗い出された問題点についてベルカ、日本双方の関係者が協議を進める中、
その協議は2つのビッグニュースの到来によって、唐突に打ち切られた。

651 :名無しさん:2012/03/02(金) 17:16:14

『オーシア連邦のアップルルース大統領は、
 長年関係の冷え込んでいたユークトバニア連邦共和国と対ベルカのための同盟を締結すると発表しました。
 また、大統領は同時にレサス民主共和国へも対ベルカ戦への協力を呼びかけ、同国のディエゴ・ナバロ元帥は、
 これに対し「アップルルース大統領の提案は前向きに検討すべきだ」と声明を出しています』

『ドイツ・イタリア・フランス・スペイン・イギリスの五カ国が、
 日本に対して「ベルカ側に義勇軍を派遣したい」という旨の共同提案を行いました。
 これを受け取った日本の小泉純一郎総理大臣は、「欧州との関係改善のまたとない機会だ」と発言、
 日本国会も欧州からのこの提案を概ね好意的に受け止めている模様です』


 その階級差にも関わらず、互いに尊敬をもって話していた田母神とブフナーは凍りついた。


 後世の歴史家達は、この時点をもって『ベルカ戦争』が『世界"間"大戦』に発展したと評する。
そう、これは正に2つの世界を跨いだ、人類史上に残る大戦争となったのだった………



             ~風呂敷だけは広げた。後は知らん~

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最終更新:2012年03月06日 23:31