23 :ひゅうが:2012/06/03(日) 22:18:55

氷山障壁by名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6さまを見て思いついたネタです。





提督たちの憂鬱支援SS――「『攻勢』防壁、あるいは機動堡塁」


――コンクリート船…それは史実日本において、「列島海上封鎖のせいで鉄鉱石すら払底し船を作れない」という末期的状況下における船舶建造を為そうとした人々の努力と、眼前に迫る破局を象徴するかのような代物であった。
アルキメデスの原理を持ち出すまでもなく、平均重量が1立方センチあたり1グラムを切る、つまり浮力があれば何であろうと水に浮く。
鋼鉄ですらそうなのだ。ましてコンクリートが浮かないわけがなかろう。

しかし、日本本土決戦という破局を前にして必死の思いで大陸航路を維持しようとし、輸送船の増産を目指したこの計画は史実においては敗戦で頓挫を迎える。
そしてコンクリート船が形になることは二度となかった。
当然だろう。コンクリートでは鋼鉄より比重が軽いとはいえ強度において圧倒的に劣る。必然的に船の外殻は分厚くなり、重量もまた増加してしまう。
また、一応でも船を動かすなら機関や設備などに加え、一定の強度を確保するには「鉄筋」または「鉄枠」がいるという「それなら最初から鋼鉄で全部作れ」と言われるようなものだ。
わざわざコンクリートで船を造る利点には疑問符をつけざるを得ない。


この末期戦の仇花じみた存在に、憂鬱世界ではいかな夢幻会とて注目するはずがない。
      • はずだった。


発端は、1930年代初頭。
概念として考えられていた対米戦において、日本陸海軍は共同しての「太平洋遊撃戦構想」を持っていた。
要は、「正面から米海軍や米国の工業力には対抗不可能だ。なら徹底的に敵の後方を破壊し、撹乱し、進撃をにぶらせてやる」ということである。

だがここでひとつの問題点が生じる。

言うまでもなく攻勢に出る側と守勢に回る側とでは物事の主導権を握るのは前者である。
つまり、日本側は南洋諸島やマリアナ・小笠原、そして千島や日本本土という広大な海域のどこに敵がくるのか最後の最後まで分からない。
ことに南洋諸島などは無数のサンゴ礁が点在し、それぞれが基地や艦隊泊地にするにはもってこいの場所である。

ここを無傷で手に入れられるのは業腹であるし、日本海軍の一大拠点トラック環礁やマリアナ諸島の中枢サイパン島などが爆撃圏や攻撃圏に入るような基地を易々と築かれては大変に困る。
ではどうするか?
史実日本はこれらに守備隊を置き米海兵隊と死闘を繰り広げた。
だが、不沈空母といわれるような強力な基地航空隊や守備隊を置いたところで、制海権を一時的にせよ奪取されればその結末は玉砕しかない。
それではあまりにも「勿体ない」。

そこで史実においては海上機動旅団といわれる独自の海上機動力を保有する守備隊が編成されたのだが、これはマーシャル諸島において編成途上その真価を発揮することができずに全滅してしまった。
一方、憂鬱世界においては日本陸海軍は強力な上陸戦部隊を編成。敵占領下にある航法拠点への強襲や逆上陸、場合によっては史実米軍の飛び石作戦のごとく敵拠点への兵站線を締め上げることを考えていた。
そのため、陸軍は専門部隊に特化させるのではなく当初から上陸作戦用の機材を揃え訓練を施しており、海軍も陸戦隊を陸軍と共通装備としたうえで世界初の強襲揚陸艦を建造し高速輸送部隊を増強、さらには機械化された基地設営部隊を編成していた。

24 :ひゅうが:2012/06/03(日) 22:19:45

それらの成果は太平洋戦争緒戦における上海機動戦でいかんなく発揮されているのはよく知られているが、これに際しこのコンクリート船が実戦投入されたことはあまり知られていない。
上陸作戦とは本来難しいものだ。
これは、上陸地点となる海岸などはあらかじめ防備され守備隊が置かれているところがほとんどで、上陸の際は史実米軍のように海岸を更地にするかのような大量の弾薬を使った地ならしを行わない限り、無防備な上陸部隊を防御側が一方的に攻撃する展開になることが多いためである。
第1次大戦におけるガリポリ上陸作戦のように橋頭保を築いても海に蹴り落とされることがほとんどだ。
そのため火力の投射に際しては戦艦などの大型艦艇が投入され支援砲撃を行うが大型艦艇ではきめ細やかな火力支援はできないうえ、喫水線の問題から海岸に不用意に接近すらできない。
必然的に駆逐艦以下の小型艦艇が沿岸に接近することになるものの、今度は火力不足に陥ったり場合によっては陸上からの攻撃で爆沈することすらある。
これは駆逐艦などが航行性能に一定の艦内容積を割き装甲を局限しなければならないためスペースの制約のない陸上からの攻撃に比較的弱いためだが、史実米軍は上陸舟艇にロケット弾を多数搭載した「ロケット砲艦」の投入と数でこれを解決した。
一方の憂鬱日本は「コンクリート製航行可能特火点」ともいうべきものを作り出し、解答としたのである。



制式名を「93式特型機動(自航)堡塁」というそれは、全長120メートルほどの長方形の箱のような形をしている。
そしてその上にはケースメイト式の旧式艦載速射砲や陸軍のカノン砲、さらにはロケット弾発射機などがならび側面は分厚い鉄筋コンクリートで覆われている。
特筆すべきなのはその物体は自力で航行可能であり、内部にはディーゼルエレキトリック式の機関が設けられていることであろう。
上陸作戦に際しこの93式機動堡塁はそれまで船のように短辺を前にして航行していたのとは逆にその側面を地上側に向けて前進。
海岸に乗り上げて陸上陣地と撃ちあいつつ味方上陸舟艇や上陸部隊の盾兼出撃拠点となるのである。
そして、いくつかの同型堡塁を組み合わせてしまえば海上部隊とあわせ、戦場の「鎚」として敵防衛戦に大穴を穿つことができる。
特に、最大火力は巡洋艦の片舷斉射に匹敵する大型の噴推弾や重砲による直接火力支援(ダイレクトカノンサポート)、そして重機関銃による面制圧は上陸部隊の強い味方となる。
構造も簡単であるため、あるいは上陸部隊をそのまま腹の中に抱え、甲板に戦車を並べて突っ込むことすらできる。
まさに、「機動する堡塁」とは言い得ての妙であるといえよう。

基本的には使い捨ての本機であるが、そのままでは終わらない。
乗り上げた後は上部の武装を取り外し、内部のディーゼル発電機を用いて橋頭保の強力な電源となれるし、いくつか繋げば即席の防波堤にもなる。
用済みとなれば内部から装備を取り外してしまえば立派なコンクリート護岸付き人工港ともなるのである。


――この通称「特型」は、上海機動戦だけではなく太平洋戦争中に発生した島嶼戦においても上陸部隊の先鋒として投入され、その威力を遺憾なく発揮。
俗に「海岸の1個大隊」ともいわれていた上陸作戦の初動における被害を大幅に減らし、迅速な橋頭保の確保に大きく貢献した。


また、残存米軍の間に不穏な空気の漂う中でのハワイ進駐に際しては封鎖状態にあった真珠湾ではなくワイキキビーチにそのまま乗り上げ目的通り「人工港」を構築。
迅速な揚陸を可能として武力衝突の危機を回避することにも成功していた。
だからこそ、早期に北米大陸をにらんだ超重爆「富嶽」用基地の設営や真珠湾軍港の再建に取りかかれたのだともいえる。
その点では本機の貢献度は実に高いといえる。

蛇足ながら、本機は第2次大戦の初期におけるクレタ島逆上陸作戦(独空挺部隊によるクレタ島降下に対抗し実施)においても投入されたが、敵が空挺部隊であったことと港湾を避けた上陸海岸が無人であったためほぼ無血上陸となったこともありその真価は理解されずに終わった。
――なお、海上を動いていく巨大なコンクリートブロックを見た英国士官がその光景から「海上版阻止気球」を考案したのかどうか、それは誰にもわからない。

25 :ひゅうが:2012/06/03(日) 22:21:58

【あとがき】――>>16-22 に感動したのでこちらも一品投下してみました。
素材が鉄筋コンクリートということで戦時急造にも優しく、機関は旧式潜水艦や戦車用でお財布にも優しい代物になっております。
ただ・・・旧式砲をあらかた売り払っている憂鬱世界なので装備は取り外して陸上運用するのが前提です(汗

26 :ひゅうが:2012/06/03(日) 22:27:25

【蛇足、開発時の一幕】――平賀「見よ!これぞ超大型海上要塞『秋津』!全長2200メートル、主砲は80センチ砲58門!しかも列車砲型砲塔なうえに超大型重爆も運用できるから(中略)」
             その他「「「「(うわぁ…)」」」」
             牧野「衛兵、つまみだせ!!」

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最終更新:2012年06月05日 19:54