584:いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2011/11/26(土) 11:04:23.09 発信元:221.30.151.167
書類の手違い、というので人生が狂った人は何人もいる。
行きたくもない学部に進学させられたり、発注ミスで大幅な在庫を抱えたり、
株や為替取引で大損をこいた人もいる。
シベリア村観光開発課に籍を置くドクオに、ロンドン出張の話が来たとき、
「それは何かの間違いだ」
と誰もが思った。そしてそれはその通りであった。
お上は観光開発課全員に適性試験を受けさせたが、全項目に置いてドクオは1をとった。
それは10を最高としての1、すなわち最低ということであった。
ところがお上が何を勘違いしてか
「最も優れている」との評価と受け取ってしまったのだ。
英語もろくに話せない、コミュニケーションにも難あり、
あの無芸小食、小男の、藻男が・・・・・
585:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです:2011/11/26(土) 11:07:28.92 発信元:221.30.151.167
('A`#)「うるせえ!」
('A`#)「俺だって行きたかねえんだよ!」
('A`#)「なんでそもそもシベリア村がロンドンに用事あるんだよ!」
シベリアはまだまだ未開発の資源、及び観光の宝庫である。
それに目をつけたイギリスの会社が、地元の事情に詳しい人間を派遣して欲しい、と
村役場に掛け合ったのである。
('A`)ロンドンより愛を込めて のようです
587 名前:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです []: 2011/11/26(土) 11:11:18.81 発信元:221.30.151.167 (94)
兎にも角にも、ドクオはロンドンに出張と相なった。
半分を向こうの会社が、半分を公費で負担することになった。
1ヶ月の旅程である。
付け焼刃の英語の練習、プレゼン資料の用意、荷物のまとめ・・・・・
そんなことをしてたら(というかさせられていたら)慌ただしく時間が過ぎた。
面倒なことが大嫌いなドクオは不安で胸がいっぱいだった。
もう夕刻だったが、彼は自然と恩師の家へ足を向けていた。
小学校の時の担任、そして本職は動物の研究をしているシベリアタイガー先生のもとへである。
平屋作りのレンガの家、紫の扉を勢いよくノックして呼びかける。
('A`)「先生、先生!かわいい教え子が来ましたよ」
589:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:13:58.51 発信元:221.30.151.167
ヨレヨレの白衣を着て先生は出てきた。
少し疲れ気味の表情をしていた。
(=゚Д゚) 「・・おう、お前か」
(=゚Д゚)「まあ入れ」
ドクオはソファに腰をおろした。
しばらくして先生はヲッカとグラスを手にしてやってきた。
本や標本が山盛りのテーブルを挟んで、差し向かいに坐る。
(=゚Д゚) 「よっこいしょっと・・・・
聞いたぞ。
貴様のような無知無教養の輩が公費で研修に行くとか
・・・・世も末だ
せいぜい恥をさらさないように気をつけろ」
先生は本をよけてグラスを2つ並べ、ヲッカをなみなみと注ぐ。
592:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:16:58.90 発信元:221.30.151.167
('A`)「俺だって行きたかないんですけど、なんかまあ成り行きで」
(=゚Д゚)「そんなんだからお前はいつまでたっても・・・・・」
(=゚ ゜)!
不意に先生は慌てたような素振りを見せた。
窓の外の闇を凝視して、おもむろに立ち上がった。
机の引き出しを性急に開け、ポケットになにかしまい込んで、ドクオに言った。
(=゚Д゚)「ちょっと外す、勝手についで飲んでろ」
('A`)「へい」
なんか先生様子がおかしいな。
そう思いながら、ドクオは埃っぽく乱雑な部屋を見回した。
594:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:20:35.66 発信元:221.30.151.167
コの字型の小さな部屋に、大きな書棚が3つ、そして机の上に開かれたまま重ねられた本、本、本。
床にもホッチキス閉じのレポートがいくつも散らばっている。
部屋の様子は相変わらずだが・・・・
ドクオは立ち上がった。
そして退屈しのぎに机に行き、いくつかの本をパラパラとめくってみた。
先生は重要と思われるところに赤線を引き、判読不能な書き込みを大量にしていた。
本の内容はというと、野生動物の分布や個体数などの統計的資料で、
素人のドクオに容易に理解できるような代物ではなかった。
ただひとつ、ドクオにも理解できそうなものがあった。
それはシベリア民話の本であった。
”チャタノイアは悪魔の草、そを制するのはウムリンカのみ。
ウムリンカはロイルイ村の守り神なり”
この一節に赤線が引いてあった。読めはしたが、何のことだか分からなかった。
本を戻した。
597:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:25:17.67 発信元:221.30.151.167
('A`)「ん?なんだ」
机の引き出しが半開きになっていた。
ドクオはおののいた。
('A`;)「これは・・・・スタンガン、催涙スプレー・・・」
凶器の他にも、先生が吸わないはずのタバコの箱などがあった。
(=゚Д゚) 「こら、なにしとる!」
先生はうしろからのしのしと近づいて、ドクオの手からそれらの凶器をもぎとって
また再び机の中にしまった。
しまった後で先生はもうひとつ入れなければならない物に気づき、ポケットから黒光りするものを取り出した。
リボルバーだ。
先生は引き出しにしまった。
ドクオはさらにおののいた。
598:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:28:50.39 発信元:221.30.151.167
('A`;)「先生、なんなんすか。
もしかして、人に言えないようなことに関わってるとか・・・・」
(=゚Д゚)「忘れろ」
('A`)「そんな、忘れろ、って言ったって」
(=゚Д゚)「飲みなおしだ。・・・・・飲んで、忘れろ」
('A`)「・・・・・・・・・・」
(=゚Д゚)「・・・シベリアも物騒なのでな、護身用だ」
('A`)「・・・・・・・・・・」
先生がそこまで言うなら、何か事情があるのだろう。
ドクオは追求をやめた。
599:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:32:30.88 発信元:221.30.151.167
('A`)「わかりました。でも先生、厄介なことに巻き込まれないでくださいね」
(=゚Д゚)「野生動物の研究者は常に危険と隣り合わせだ。そんなことはわかっておる」
そんな危険とは種類が違う、ドクオはそう思ったが、ソファに腰を降ろした。
(=゚Д゚)「さあ、アザラシ肉の燻製だ、これをツマミに一晩明かそう
わしは明日から研究旅行だ。お前の別離には立ち会えん」
**
602:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:36:59.20 発信元:221.30.151.167
ついにシベリアを発つ日となった。
とはいえシベリアからロンドンに直行便などない。
最寄りの大都市ヴィップグラードにすらない。
ヴィップグラードからモスクワへ飛び、そこからロンドンに向かうのだ。
シベリア村の駅のホームに、ドクオ壮行会のメンバーが集まっていた。
といっても皆経緯とドクオの無気力を知っていたために、数人しかいなかった。
友人のモララーが近づいて言う。
( ・∀・)「人生運だ!お前にも運が向いてきたんだ!これからだぞ」
( ・∀・)つ□「もし向こうで言葉に困ることがあったら、このカードを見せろ
何でも親切に教えてくれるぞ」
渡されたカードにはFUCKと書かれていた。
意味をよく知らないドクオは、
('A`)「ありがとう、助かるよ」
と言って素直に感謝した。
606:('A`)ロンドンより愛を込めて のようです :2011/11/26(土) 11:45:52.11 発信元:221.30.151.167
列車に乗り込み、扉が閉まり、連結部が大きな音を出して発進した。
ドクオはホームの一番端に立っている人に気づいた。
__
∧,■!!
(=゚Д゚)
./.,= =l
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シベリアタイガー先生だ。
先生は一緒に飲んだあくる朝、ドクオの胸ポケットに500ポンドほどこっそり餞別を仕込んでくれた。
先生は手もふらず佇んで、列車の方をずっと眺めていた。
小柄な先生がなんだかもっと小さく見えた。
('A`)「先生、大丈夫かなあ・・・・」
恩師に心配をかけることはあっても、心配することなどこれが最初であった。
やがて駅は点となり、視界から消えた。
***
最終更新:2011年12月07日 19:45