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94 : ◆Ai.p5y3NWQ:2013/01/04(金) 22:42:19 ID:YBhiwN7g0
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ドクオは夢を見ていた。
自分が何か小さい虫のようになって、空のバスタブの底にいる。
バスタブはつるつるして、登ることができない。ドクオは焦る。
足音が聞こえ、やがて扉が開かれ、蛇口がひねられる。
(((('A゜;;)))))「やめてくれええ」
容赦なく凍りつくような水が自分の上に注ぎ出される・・・
といったところで目が覚めた。
('A゜)ハッ
上半身を起き上がらせると、窓から早朝の灰と青のイースト・エンドの町並みが見える。
町はざわめきの中で目覚め始めていた。
ドクオはコンビニで買ったサンドイッチなどを冷蔵庫から取り出すと、それを口に押し込み、
水道から汲み出した水で胃に流し込んだ。
そして水流のように群集に混ざり、排水口へ吸い込まれるように地下鉄の駅に吸い込まれていく。
('A`)「鬱だ・・・」
このロンドンで、ドクオは、またもや疎外感に悩まされていた。
大都会の底で、身も心も冷え冷えとしていた。
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96 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:48:15 ID:YBhiwN7g0
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('A`)
ドクオの仕事は滞在2週間目にして、行き詰っていた。
相手の半ば高圧的な態度に押されて、幾つかの書面にサインをしてしまった。
( `ハ´)「80% for us , 20% for you. Please signature」
その内容を把握もせずにだ。
自分の無能が原因で、シベリアに大変な損失をもたらすかもしれない、と彼は気を揉んでいた。
加えて、恩師シベリアタイガー先生の行方不明も不安を増し加えた。
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∧,■!!
(=゚Д゚)
./.,= =l
::: :::: ::: : :: : : : ::: :: :
勤め先の研究所や学校に問い合わせても、さっぱり行方が知れないと言う。
デレーニャとの時間は、この概して憂鬱なロンドン滞在で唯一楽しい時間だった。
ζ(゚ー^*ζ
このロンドンで、唯一母国語を話せる相手、手料理を食べさせてくれる相手、
とても優しくしてくれる相手、なぜだか知れないけど・・・
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97 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:50:46 ID:YBhiwN7g0
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この”なぜだか知れないけど”が引っかかって、ドクオは連絡するのを躊躇していた。
ζ(゚ー゚*ζ「暇なときがあったらこれに連絡して」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃね」
そういって渡されたメールアドレスも、自分から連絡する勇気がなかった。
かといって向こうは自分の連絡先を知らないので、メールしなければずっとこのままだ。
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その日も無気力なプレゼンを行い、「市場調査」と宣ってそそくさと相手先をあとにした。
そして早々にドクオはパブに入り、ビールを頼んだ。
もうどうにでもなるが良い・・・
そんなただれた思いで、タブレットで操り漫然とネットをしていた。
2杯目を頼むため、ぬるまったビールをぐいっとやったところ、突如メールの着信が通知された。
('A`)「シベリアタイガー先生!?」
('A`)「違う・・・、知らんアドレスだ・・・。誰だろ、スパムかな・・・」
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98 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:52:43 ID:YBhiwN7g0
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不審そうにメールを開くとこうあった。
”この前はありがと。
また都合つく日があったらメールして。
っていうか、今晩食事でもどう?
Rita”
('A゜;)))ブッ
あまりの驚きに飲みかけのビールをタブレットに吹きかけてしまった。
落ち着きを取り戻したのは、無我夢中で”もちろん”と返信した後だった。
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99 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:54:15 ID:YBhiwN7g0
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約束の店はRingo's Diner。
ビュッフェ形式で、客が好きなモノをとって食べられるようになっている。
ユニークな点はコックが一切の味付けをしてないということだった。
茹でただけ、焼いただけの素材が並ぶ。
ζ(゚ー゚*ζ「面白いでしょ」
と、ハーブソルトの瓶をふりながらデレーニャ。
ζ(゚ー゚*ζ「もともとイギリス料理ってあまり味付けしないで、自分で塩コショウ振って食べるものだって。
だから、いっそのこと、全く味付けしないで提供しようって」
('A`)「へぇ」
ζ(゚ー゚*ζ「だから、ほら。いろんな客のニーズに答えられるように
なってるの」
('A`)「・・・ふぅん」
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100 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:56:11 ID:YBhiwN7g0
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店内にはインド系、中東系の客もかなりいた。宗教的に口にできる食材が限られる彼らにとって、ここは
安心して食事できる場所であるようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「なんせ、今やロンドンの人口の半分は移民だからね・・・。ま、私もだけど
ってか、ちょっとかけすぎじゃないの?」
('A`;)「あっ・・・」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫?なんかぼんやりしてない?ってかしょっぱくない?」
('∀`;)「へへへ、ダイジョブダイジョブ。心配なくなくない。
おいらシベリアンさ、だからちょっと塩辛いくらいがちょうどいいんだよ」
('A`)「ところで、なんでRingo's Dinerって名前なの?」
ζ(゚ー゚*ζ「Ringo Starr、ビートルズのドラマーからの命名」
('A`)「彼が経営してるのか」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、Ringoでも食べられるってこと。彼はスパイスや濃い味付けは食べられなくて、
ほとんど素材そのものみたいな料理を好んだんだって・・・」
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101 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:57:22 ID:YBhiwN7g0
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('A`)「へえ。あ・・・それと・・・」
('A`)「なんで俺のアドレス分かったの?」
ζ(゚ー゚*ζ「シベリアの村役場にメールしたの。ちょっと、急な用件だったから・・・」
急な用件、とはなんだろう。
いくら同胞とは言え、自分のような行きずりの男に何か用があるのか。
それと同時に、気恥ずかしくもなった。
シベリア村役場はどう思うだろうか。仕事も上の空で、遊び呆けているなどとは思われないか。
なんだかムズムズしてきた。
などと逡巡していると、デレーニャがもう一本目のエールを開けてドクオのグラスに注いでいた。
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102 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 22:59:28 ID:YBhiwN7g0
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腹ごなしもひとしきり済んだところで、デレーニャは一冊の雑誌を取り出した。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃん」
”Musical Throghfare”
ロンドン、イーストエンド周辺の音楽シーンのミニコミ誌のようだ。彼女はやや性急にページをめくると、
一つの見開きの記事をドクオに見せた。題名にはこうあった。
”Sonicnerd:Too young to die , Was It HappyEnd?"
ページ上段にはSonicnerdの禍々しいジャケット写真がでかでかとレイアウトされていた。
('A`)「あっ、こいつらは」
ζ(゚ー゚*ζ「この前、ライブで見たバンド、ソニックナード」
('A`)「でもToo young to dieって・・・まさか死んだの?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、ギターが一週間前死んだの。あのギグから少したったあとよ」
('A`)「なんで・・・あっ、もしかして」
ζ(゚ー゚*ζ「薬のやりすぎ?という説もある。そう、あのニュー・ドラッグ、HappyEndね
実に幸福そうな死に顔だったらしいわよ。それもスラングの由来、と言われてる」
103 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 23:01:42 ID:YBhiwN7g0
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('A`)「恐ろしいな。幸福そうったって、死んでたんだろ?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうねえ・・・
ま、とにかく、シーンの中核を担うバンドがいなくなって、ちょっとしたニュースだったの」
ζ(゚ー゚*ζ「それで、聞きたい事があって。
この、ドラッグ、チャタノイヤっていう植物から取れるらしいんだけど、
シベリア原産なのね。もしかしたら何か知ってるのかな・・・、と思って、今日」
('A`)「へ?なんで君がそんなこと」
デレーニャは何も言わずに横を向いて笑った。
ふと記事の冒頭を見てみると、
”Text:Ann Liza"
ドクオはふと、セントジョーンズがデレーニャのことをアン、と呼んでいたことを思い出した。
('A`)「アン・・・って言うと、もしかして君?君がライター?」
「ふふふ」と、デレーニャははにかみながら上目遣いで笑った。
ζ(゚ー゚*ζ
最終更新:2013年03月07日 09:28