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メイド・イン・トリステイン #br その日、才人が久しぶりに部屋の掃除をしていて、懐かしいものを見つけた。 ハルケギニアにやって来るときに手にしていた、ノートパソコンである。 才人は誰もいない水精霊騎士団のたまり場で、そのディスプレイを立ち上げた。 この時間なら誰もここにはこないし、安心してコイツを広げられる。才人はそう思った。 ディスプレイを立ち上げることでノートパソコンの電源が入り、真っ暗な画面に火が点る。 蜂の羽ばたきのような細かい振動音とともに、ノートパソコンは息を吹き返した。 「まだ、バッテリー残ってたんだな」 才人はポインタを操り、なんとなしに動画ファイルを開く。 最初に目に入ったのは、動画サイトから落としてきた、「笑えるニュース」のフォルダ。 …そういや結局コレ、見ないままだったっけ。 才人はそのフォルダを開き、最新の動画をダブルクリックする。 WMPに乗って、展開される「笑えるニュース」。 『今、日本各地で『メイド喫茶』がオープンしています』 「ん?メイドが喫茶でどうしたというんだね?」 いつの間にか背後にギーシュがいた。 「ってどっから沸いたギーシュっ!」 「失敬な、人をまるでボウフラのように。  それよりそれはなんだねサイト?メイドがどうとか言っていたが」 ギーシュは興味津々な様子でディスプレイを覗き込んでいたが、 「なんだ、ただのメイドじゃないか。つまらん」 …つまらん? つまらんと言ったかこの男ッ!? 日本の文化を!侘びを!寂びを! つまらんと抜かしおったかこの男ッッッ!? 「…いいかギーシュよく聞け」 「なんだねサイト」 「この場合メイドというのはな? 『非日常の装置』なんだよ!普段ではアリエナイシチュエーションを楽しむためのだな」 「メイドならそのへんにいるじゃないか」 …しまった、ここそういう世界だっけ。 …この男に、日本の侘びと寂びを理解させるにはどうすれば…。 才人のない知恵がフル回転し、最も最適な解を導き出す。 「よしじゃあギーシュ想像してみようか」 「…何をだ」 「モンモランシーがメイド姿で『おかえりなさいませ、ご主人様♪』」 「…」 ギーシュはしばらく、目をつぶって考えていたが。 しばらくすると、ふるふると震えだした。 そしてサイトの手を両手でがしいっ!と握ると、 「君は、君は天才だよっ、サイトぉぉぉぉぉぉぉ!」 よく見たら鼻血が垂れている。 …何を想像したんだこの男。 「…いやしかしっ。これを想像だけに収めておくにはあまりに勿体無い!  そうだサイト私にいい考えがある!」 そしてギーシュは、己の企みを才人に吐露したのだった。 これが、例の事件の発端である。 #br 「メイド実習ぅぅ?」 ルイズは学院の中庭にある告知掲示板の前で、素っ頓狂な声を上げていた。 そこは、学院側からの告知を掲示する場所で、主に授業の変更や、生徒の呼び出し、突発的なイベントなどの告知などがなされる。 そこには大きくこう書かれた紙が掲示されていた。 『メイド実習:女子選択必修科目(本年度より)』 ご丁寧に学院長の印も押してある。どうやら本当にこの科目は選択必修単位として設定されているようだ。 掲示板の前には女子による人ごみができており、その悉くが不満の声を挙げていた。 貴族の子女がメイドなど、と思うものが大半で、その口に上る意見の大半が否定のそれだった。 そこへ、学舎のほうからすたすたとオールド・オスマンが歩いてきた。 これにGOサインを出したのは学院長だろう。だとすればこの白髭の老人ならばこの事についてなにか一言あるはずだ。 そう思ったルイズはオールド・オスマンを呼び止める。 「失礼ですがオールド・オスマン」 「何かねミス・ヴァリエール」 「この『メイド実習』というのは」 「おお、ちょうどよい」 オールド・オスマンはそう言って集まった女生徒たちを振り仰ぐと、両手を広げて言った。 「皆も聞いてくれ!  この『メイド実習』というのはだな、さる貴族から提案された授業でな!  仕えられる貴族たるもの、仕える側の事も知っておかねばならぬ!  また貴族は王家に仕える者、仕えられる者でもあり同時に仕える者でもあるのだ!  そこで、メイドのなんたるかを学び、他人に仕える事を知り、より立派な貴族として成長してもらいたい!そう考え、この実習を選択必修とした次第だ」 熱っぽく語るオールド・オスマン。 すると、大半の女生徒は「なるほど」「そういう事だったの」と納得をする。 しかしルイズは納得いかない。 「で、具体的にはどんなことをするんですか」 そう、肝心の内容が記されていなくては意味が無い。 その言葉に、オールド・オスマンは懐から一枚の紙を取り出し、読み上げる。 「ええとじゃな。  まずは、専任講師による『メイド講義』を1時限。その講師による実技講習・試験を経て、その後、『実習』じゃな」 「その、実習は何をするんですか?」 「簡単じゃよ。学院内の生徒か教師を主人に見立て、奉仕する。  そしてその相手から合格をもらえば、修了じゃよ」 ざわ…! オールド・オスマンの声を受け、女生徒が一斉に騒ぎ出す。 憧れのあの人に仕えてみたい、彼に奉仕してあげたい、などの声があちこちで聞こえる。 その中にいくつかの『シュヴァリエ・サイト』という単語を聞いたルイズの眉間に皺が寄る。 「ちょ、ちょっと!その主人に見立てる相手ってのは!」 「あ、もちろん君たちで選んでもらってかまわんよ」 きゃあああああああああああ! 黄色い歓声があがる。 このチャンスにギーシュ様落としちゃおうかしら、彼に全身全霊で使えちゃう、サイト様のところへ行っちゃおうかしら。 あちこちで上がる声、声、声。 「そ、それって重複したら」 「それはもちろん、早い者勝ちじゃよ。  もう講義の受付は火の塔ではじまっとるぞ」 ちなみに、通常一回の講義は1教室ぶん、40人程度が限度である。 つまり。 「や、やばっ」 慌てたルイズが後ろを振り向くと。 既に半数以上の女生徒が火の塔方面へ駆け出していた。 「さ、させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ルイズも負けじと駆け出す。 その速度は、下り最速と言われた伝説の風竜、ユオもかくや、というスピードだった。 「ええのう、若いもんは〜…」 しみじみとそれを見送るオールド・オスマンだった。 #br 火の塔の前の受付は、既に戦場と化していた。 ちょっとどきなさいよ割り込まないでよ私が先なんだから邪魔しないでよ落ち着きなさいってば…。 既に列はゆうに40人を越えており、ルイズは愕然とする。 「な、なんて速さなの…!」 しかし、こういう場合、講義の希望者から、抽選で 「はーい、ここで40人なので締め切りまーす」 締め切られた。 しかも、その声はシエスタのそれだった。 「ちょ、ちょっとなんでアンタが受付やってんのよシエスタ!」 人ごみを掻き分け、ルイズが受付の前に行くと。 受付のブースの奥で、生徒の申し込みを受け付けていたのはシエスタだった。 「あ、ミス・ヴァリエール。実はですね、私『メイド実習』の専任講師になっちゃいまして♪」 「『まして♪』じゃなああああああああい」 思わず突っ込んでしまったルイズだったが、これはチャンスだ。 「あ、あのさ、シエスタ」 「締め切りは締め切りですから、ミス・ヴァリエールの講義申し込みは受け付けません♪」 「シエスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 がっくんがっくんとルイズはシエスタを揺さぶるが、シエスタは微笑みを絶やさずに続けた。 「心配しなくても大丈夫ですよー。  サイトさんのところには誰一人として行かせません♪」 そしてその微笑に、ぎらりと黒い光が宿る。 「そう、誰一人として…ね」 これが、この後トリステイン魔法学院で『地獄の三大選択科目』と呼ばれることになる、『メイド実習』の始まった顛末である。 『メイド実習』…それは、貴族の子女にとって、あまりにも過酷な科目であったと言わざるを得ない。 まず、貴族に圧倒的にかけている家事一般の知識を叩き込まれる。 掃除、洗濯、炊事に裁縫。果ては日曜大工まで。 そして、それに付随する身体能力を鍛えられる。 早朝のランニングに始まり、懸垂、縄跳び、そして単独踏破。 最後に、メイドとしての心構えを叩き込まれ、試験に挑む。 「あなたたちは何ですかッ」 『メイドですっ』 「あなたたちの存在価値はッ」 『ご主人様とともにあることですっ』 「よーしよくできました!  いいですかっ、これから最後の試験を始めますっ!  私の用意した課題を、全てこなした者のみ、実習に移る権利を与えますっ!  そしてこれだけは覚えておきなさい!  あなたたちが口から何か漏らした後には必ず『ご主人様』とつけなさいっ!  わかりましたか糞虫どもっ!」 『はいっ、ご主人様っ』 #br そして、その最後の試験を無事クリアしたのは、半数の20人も届かなかったという…。 その中に、この三人の名前があったという。 『香水』のモンモランシー。 『微熱』のキュルケ。 そして何故か面白半分で講義を受けてしまったシルフィード(偽名イルククゥ)。 その実習の顛末は、別の機会に語られるであろう…。 #br [[13-134]]シルフィメイドになる。の巻 [[13-312]]モンモンメイドになる。の巻 [[13-492]]キュルケメイドする。の巻

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