ゼロの保管庫 別館

14-44

最終更新:

familiar

- view
だれでも歓迎! 編集

44 名前:220 1/3[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 00:00:36 ID:SuOW14ld あの時から私の時は止まっている。 愛す事の出来た祖国の郷里と、今は真に幸せと感じられる時を、失ってから。 父と、母と過ごせた時間は望んでも戻らない。 口より心で、あの憎き国王を誰よりも誇って語り、私に明るい未来を見せてくれた父。あの時は父が、明るい未来を見せてくれた。 胸元に抱き寄せては、幼い頃は膝の上に乗せてくれた母。体温以上の温もりを私の全身に満たしてくれた。

それは一瞬で消え失せた。いや、失せたのでは無い。目の前でこれ以上ない程に、壊された。

もう直せない。取り戻せない。分かっている。分かっている。分かってイル… 分かったのなら、諦められる。私は冷静に、取り戻せない事を理解している。

自惚れだった。分かっているから、諦められるなど。

だから、その気持ちは閉じ込めた。自らの操る雪風より、遥かに冷たい零度の中に閉じ込めて いつか、解凍できる瞬間を信じている。

「バカ…」 彼は、そんな私の心にどれほど影響を与えているか知らないだろう。苦労して封印した私の心は、簡単に溶け出してしまった。 似つかわしくない言葉をついたのも、そのせいだ。 「バカ…バカ…せっかく頑張ってたのに…」

45 名前:220 2/3[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 00:01:40 ID:SuOW14ld クラスメイトが聞いたら驚くような言葉を、私は呟き続けている。誰も私がそんな思いを持つなんて思わない。同じ年頃の男の子から目が離せないなんて。 最近は私の手にする本の傾向が変わっている、と言う忠告を受けた。そういう事に敏感な友人。 「あら、タバサ?今日もそういう本を読んでるのね?」 「…」 沈黙で返したのは隠しそびれたからだ。彼女とそういう話をすると…あまり良くない事態が起こる気がする。それこそ私らしくない行動をさせられる羽目になる。 「えっと…日なたとその人…良いタイトルね。あなたに限って」 「…」 案の定だった。

図書室に本を借りに来た。上段の本が欲しいのだが、自分の身長では届かず、やむなく下段の本を取ってしまう。踏み台らしいものが壊れていては仕方がなかった。一応距離をとって背表紙を確認するが、やはり取れそうにない。

そんな私に気付いた、奇特な人間が現れた。

「よう。タバサ」 「あ…」 「あの本が欲しいんじゃないのか?」 いきなり声を掛けられた事と、その相手に驚いて返事が出来なかった。かろうじて出来たのは首を縦に降る事。 「どれだ?」 「あ…え…と」 「って、俺じゃ文字が読めないんだったな。じゃあ…」

46 名前:220 3/3[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 00:03:20 ID:SuOW14ld なんの躊躇いも無く彼は私の前にしゃがみ込み、私を持ち上げた。私の脚の間に頭を割り入れて、安定をさせて。 「や…あ」 「どうだ、これで取れるだろ」 「…え…え」 太ももで彼の頭を締め付けそうになりながら右、左と誘導し、私は本を取り出していく。彼とコンタクトを取りながら、わざと間違えたりなどして。 「こんなもんか?」 「…降ろして…いい」 「ああ。よっと」 一気に視点が低くなった。

「いつも苦労してたみたいだったからさ」 「…見てた?」 「ああ。言えば良かったのに」 「あなた…ご主人様は?」 「いいだろ。俺も人間なんだし、自由時間も要るって」 「…」 「また、何かあったら言えよ。手伝うからさ」 私は、こういう時頭が回ってしまう。 「…明日」 「ん?」 「明日も借りるから…」 「え?いいけど、読み切れるのか?」 調子に乗って手にしてしまったのは、貸し出し数ギリギリの数の冊子。 それでも、私は。 「これくらい…すぐ」 「そっか。いつも本読んでるんなら、慣れてるよな」 「だから…明日も来て」 「わかった」 「あ…あと」 「うん?」 「ありがとう…さ、さ…」

「良いって。サイトで」 「…サイト」

手にしている本が、軽く感じられた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー