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447 :1/6:2007/07/20(金) 01:58:52 ID:lDlai0Ed  始めての場所で、始めての朝。  緊張していたせいか、なんだか早く目覚めてしまう。    ウェストウッドではお姉さんだったから、二度寝なんて出来なかったけれど……   (ここなら良いかな?)

 ほんの少しだけそんな事を考えてしまう。

 でも無理。

 誰かが起こしに来てくれた時、気付かずに寝ていたら恥ずかしいし。    サイトやルイズさんと同じ屋根の下。  ここはトリステイン魔法学院。

 わたしは狙われているからと、子供たちとは引き離されてしまったけれど。   (すぐ側に……)

 サイト達が居るのなら……寂しくないから。

「うん、大丈夫だよ、みんな……」

 そっと呟いて身体を起こす。  早朝の空気は冷たくて、それだけですっかり目が覚める。

 サイトは……結構お寝坊さんだったな……  そんな事を考えていると、いい事を思いついた。

「そうだ……サイトを起こしに行ってあげよう」

 うん、いい考えよね。  寝巻きを脱ぎながら、クローゼットの前まで進む。

『貴方はお客様ですから』

 そう言ってこの国の女王様がいろいろな物をくれた。  色々な服もそのうちの一つ。

(す、少し派手かな?)

 色々な服を身体に当てながら、大きな鏡を覗き込む。  ウエストウッドに居た頃は、こんなに悩むほどお洋服を持っていなかったから、  服を着る事がこんなに楽しいと思って居なかった。

(……サイト……なんて思うかな?)

 大切な大切な初めてのお友達、  今から着る服をサイトに見てもらう、そう思うと何故かドキドキが止まらない。  学院の人たちは制服を着ていて、迂闊な服を着たら浮いてしまいそうだけれど。

(サイトが……)

 わたしを見て、少しだけ……驚いてくれたら……

 うれしい……な……

 その事を想像して、ぎゅって服を抱きしめた。

448 :2/6:2007/07/20(金) 01:59:36 ID:lDlai0Ed  服を選ぶのに少し時間は掛かってしまったけど、

(ちょ、丁度良いよね?)

 みんなが起き出すほどには遅くなくて、  迷惑なほどには早すぎない。

(サイトがもう起きてたらどうしよう?)

 そう思うと、わたしの足が少しだけ速度を増す。  気が付くと、ぱたぱたと廊下を小走りに駆けて、昨日一度だけ聞いたサイトの部屋を目指す。

『ここが俺の部屋だから、何か有ったらすぐ来いよ、テファ』

 そう言ってくれた。    サイトは知らない。  昨日サイトが部屋に入ってから、わたしが何度も自分の部屋とサイトの部屋を往復したのを。  だって同じドアが並んでいて、紛らわしかったから。

 ……だって……サイトの部屋を忘れたくなかったから。

 …………だって……偶然サイトに会えるかもしれなかったから。

(知り合いが居なくて、心細いし)

 そんな事を思いながら、サイトの元を目指す。  言い訳なのは分かってる。

 どこに居るのかは知らないけれど、ここにはルイズさんもシエスタさんも居るもの。  サイトに会いたいのは、心細いからじゃない……

(でも……良いよね?)

 会うだけだから。  お話しするだけだから。

 壊れそうに高鳴る胸を押さえながら、わたしはサイトの部屋の前に着いた。

449 :3/6:2007/07/20(金) 02:00:18 ID:lDlai0Ed  深呼吸を一つ。  周りを見回して、人影が無いのを確かめる。

 ……今からわたし、ちょっと怪しいと思うし。

 息を詰めてドアに耳を当てる。

 ――うん、物音は聞こえない。  サイト、まだ寝てるね。

 折角だから驚かせちゃおう。

 急に起こしてみようかな?  起きるまで……寝顔を見つめて、起きてからからかっちゃおうか?

 楽しい想像をしながら、音を立てないようにドアを開ける。

 ――――あ……れ?

 部屋の真ん中に有るベットでサイトが寝て……る。

 それは……分かってた、ここはサイトの部屋だもの。  でも……どして?

(ルイズさん……シエスタ……さん……)

 サイトの両手には、一人づつ女の子が掴まっている。

(い……や…………)

 ウエストウッドで、ルイズさんとサイトが一緒に寝ていたのは知っている。  ……その意味だって……多分分かってる。

 別れ別れになっていた二人が、久しぶりに会ったから。  だから一緒に寝ていたのかと……そう……思ってた。

 ……でも、ここは……サイトの部屋で……

(いつも?……いつも一緒なの?)

 楽しかったはずの世界が、あっさりと色褪せてゆく。  息が苦しくなって、胸の奥が重くなる。    ケンカしているように見えても……二人は……

 安心しきったように眠る三人に、わたしの心は深く深く沈みこんで行った。

450 :4/6:2007/07/20(金) 02:01:00 ID:lDlai0Ed  自分の部屋までどうやって戻ったのか覚えてない。

(あ……はは……サイトの部屋までの道、一生懸命覚えたの……  役に立っちゃった……ね……)

 こんな事のために、昨日わたしは一生懸命になったんだ。

 二度寝なんてしないのに、もう一度ベットに横になる。  頭から布団を被って、枕に顔を押し付ける。

「うっ……っく……ひぅ……っ……ぇ……」

 小さい時は母に心配を掛けない様に、  大きくなってからは、子供たちに聞かれないように。

 わたしは声を上げて泣かない。

 折角貰った綺麗な服、皺に成っちゃうな……  そんな事を考えながら、涙が止まるまでじっとしていた。

 ――何度かドアがノックされた。  朝ごはんですよと、昼はいかがですか? と  一日何も召し上がらないのは……と、

 知らない学院の人に、随分心配を掛けてしまった。    サイトも来てくれたみたい。  沢山心配してくれた。

 優しかった。  嬉しかった。

 でも……その分辛かった。

「何か有ったんなら相談してくれよ」

 そう言ったサイトが部屋を立ち去る時、しがみ付いてでも引き止めたかった。

 でも、そんなのは迷惑に成るから……

「ん……ありがとう……サイト……」

 わたしはお礼しか言えなかった。

451 :5/6:2007/07/20(金) 02:02:09 ID:lDlai0Ed  塞いだ気分のまま、また新しい陽が昇る。

 昨日わたしは眠ったのかな?  そんなつもりは無いけど眠くならないから、ひょっとしたらいつの間にか眠っていたのかもしれない。

 起きている様な、眠っている様な、朦朧とした状態で部屋の中を見るとは無しに見ていた。

「入るわよ」

 宣告と共にドアが開く。  返事をする気力も無いけれど、聞き覚えのある声に身が竦む。

(っ……ルイズさん……)

「大丈夫? 旅の疲れでも出たの?」

 ……ヤメテ……優しく……しないで……  貴方が優しくするたびに、わたしの胸は苦しくなるの。

「サイト相手だと相談できないような事? わたしが力になれる事有る?」

 …………酷い……よぅ……こんなに胸が痛いのに、  貴方を嫌わせてもくれないの?

「同じ虚無の使い手ですもの、わたしに出来ることが有ったら何でも言ってね」

 真摯な言葉に、心を抉られ、罪悪感が胸を潰す。  ……もう……駄目……だ……ね……

「っ……えっ……ふぇっ……えええぇっぇぇぇ」

 何年ぶりか分からない位、久しぶりに声をあげて泣いた私をルイズさんが優しく抱き寄せてくれる。

 父や母と居た頃の安らぎに包まれたような気がした。

(もう……二度と…………)

 こんなに幸せな時は訪れないと思っていたのに……

452 :6/6:2007/07/20(金) 02:02:51 ID:lDlai0Ed 「ほら、泣き止みなさいよ……ね、ティファニア」 「……ん」

 優しいルイズさん……  そう思うと、また胸の奥が苦しくなる。

「ほら、何が有ったのか言ってみて、楽になるかもしれないでしょ?」 「……ん……あの……あのね……」

 母に諭された時のように、ただ考えた事を口に乗せる。

「――あのね、胸が重いの」

 時間が……止まる。

(サイトの事を考えると楽しかったのに、ルイズさんとサイトを見ると切なくて、  ルイズさんに優しくしてもらうと、申し訳なくて……)

 色々説明は考えたけれど、わたしは口に出来なかった。

「……なぁっ……なっ、なああぁぁぁぁんですってぇぇぇぇぇ」 「ふえっ!?」

 鬼のような形相に、わたしの涙は止まってしまう。  ……こ、こんな時にも涙って止まるんだ。  って、そんな事を考えられたのは一瞬だけで、

「この胸かぁぁぁぁ、重すぎて困るのは、このムネナノカァァァァ」 「ひぅ、あぅ……あうあうあうあうあうあう」

「謝りなさいっ!謝りなさいっ!謝りなさいっ!」 「ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ」

 狂ったように胸を揉みまくるルイズさん(とっても痛いの)を、サイトとシエスタさんが止めてくれるまで、  わたしはひたすら謝り続けて……

「むきゃぁぁぁぁ」 「お、落ち着けぇぇぇぇルイズっ!」

「ご、ごめんなさぁぁぁぁい」 「えっと、ティファニアさん、被害者ですよね?」

 いつの間にか部屋の前には人だかり。

 結局この騒動は、 『ルイズは巨乳好き』  と言う噂を発生させ……彼女のこれからの学院生活に随分影響を及ぼすが……  それよりも……

(胸が苦しいのって、揉んで貰うと治るんだ!)  騒ぎの所為で気が逸れただけのティファニアの勘違いが、後日学院に恐ろしい騒動を巻き起こすが……それはまた、別のお話。