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「怖い恋愛物?」  こくり、とタバサがうなずく。慣れないとわかりにくいが、視線には期待の色が濃い。ルイズも女集団がサイトを囲んでいるのに上機嫌だ。  王都で上演された芝居の影響で、平民から貴族まで、女達の間では今、「少し怖い恋愛物」が流行なのだという。タバサは例によって今世に出ている作品を読み尽くし、その大方はクラス中の女子で回し読みされた。そこで新作に飢えた女たちが思いついたのは東方からの異邦人、というわけだ。ルイズも今回は女たちに邪心が見えなかった上に「私の使い魔」を自慢したくなったというわけだ。  特等席である正面にはルイズが笑顔で座り、隣りにはタバサが筆記の準備。その後ろにはサイトも名前すら覚えていない女子達が座り、最後部にはシエスタが控えという名目で座って小さく手を振っている。  サイトは記憶を辿り、幾つかおぼろげな筋を思い出し、少しずつ脚色しながら語り始めた。


「『ダンスのお礼は何が欲しい?』『愛する彼の首を』」  一斉に女たちが身震いする。サイトも興が乗って話続ける。 「そこでサロメは、真紅に染まった2つの月を背に生首にキスをすると、首を抱えながら踊るんだ」  ふとルイズと視線が絡む。妙に浮かされたような目をしていると思う。  一つ終わったが、さらにとせがまれたので別な話を始める。 「オシチは思った。『もう一度大火事があれば逢える』。オシチは王都に火を放ち、火事を知らせる鐘を必死で打ち鳴らした」  キュルケがぼんやりと手の中で火の玉を弄ぶ。口元が「炎蛇…」と動く。気付いたモンモランシーは慌ててキュルケの脇をつついた。  キュルケとルイズの動きにさすがのサイトも不安を感じて話を終えることにした。だがまだ大勢はアンコールをする。やむなくサイトはもう一つ語った。 「モリドオにケサは、夜に寝静まったら寝室を教えるから夫を殺せ、と言った」  さすがに不倫だと身近に思えないのか、女子達が緩くなる。サイトは話を続けた。 「誤って夫の代わりにケサを殺してしまったモリドオは、ケサの首を持って山へ山へと落ち延びた」  ルイズは少し呼吸が荒くなっている。シエスタが今までにない視線でルイズを睨んでいた。


 学院全体が寝静まった頃、ルイズはサイトの向こうで眠るシエスタすら気付かないほど静かに起き上がった。彼女はためらわずデルフを掴む。 「やめときな嬢ちゃん」  ルイズは慌てて少し手をひいた。デルフは続ける。 「あんた、普通に幸せだってあり得るだろ」  ルイズは呟く。 「でも、敵多いし」  言いつつもルイズは頭を抱えながら剣から手をひく。シエスタもサイトも眠るばかりだ。月を見上げてルイズは呟く。 「サイトが首だけなら」  2つの満月はルイズのやるせない拳に光を降らせていた。