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ゼロの飼い犬15 お医者様でも草津の湯でも(後編)               Soft-M

■1    見上げた女子寮の窓際にいた人影は、わたしの姿に気付くとすぐに頭を引っ込めた。  けれど、立派なおでこがバッチリ見えた。言い逃れなんてできない。 「隠れても無駄よ! 出てきなさーい!」  わたしの怒鳴り声を聞いてそろそろと再び顔を見せ、その部屋の主、 香水のモンモランシーは蒼白な顔をこちらへ向けた。    なんで水なんて撒いたのか問い詰めようと思ったけど、どうもその表情がただ事じゃない。  眉根をひそめて、わたしではなくわたしの後ろにいるサイトのことを見ている。  なんとなく嫌な予感がして、サイトの方を振り向こうとしたとき、 不意にわたしの体の前に手が回された。   「え?」 「ルイズ」  耳元すぐ近くでサイトの声が聞こえて、一瞬、何をされたのか混乱した。  サイトがわたしを後ろから抱きしめてきたのだ。吐息があたった頬がかあっと熱くなる。 「な、なに? ちょっと、やめてよ、こんなとこで……」  いや、こんなとこじゃなかったら良いってわけでもないんだけど。 慌てて文句を言い、振り払おうとしたところで、何だか覚えのある匂いが鼻腔を突いた。   「あっ」  サイトの髪と顔を湿らせている液体。たった今、モンモランシーが窓から撒いたもの。  わたしの心臓がどきんと跳ね上がった。すぐさま身を屈めてサイトの腕から身体を逃がすと、 距離をとってから恐る恐る振り向いてその顔を見る。    サイトは、逃げるみたいなことをしたわたしのことを、不安そうな目で見ていた。  わたしの方へ近寄ろうとして、自分でその足を止める。  その雰囲気。まるで、わたしに拒まれるのを怖がっているような、心許ない態度。   「ご、ごめん。急に抱きついたりして……。悪気があったわけじゃないんだ」 「あ……、うん。わかってる」  何かを我慢しているような、辛そうな顔でそう言われて、怒る気も削がれてしまった。  同時に、その態度にピンと来る。わたしはサイトの手を引っ掴むと、 出てきたばかりの女子寮にとって返した。     「解毒薬が作れないですって!?」 「ちょ、ちょっと怒鳴らないでよ、落ち着いて」 「これが落ち着いてられるわけないでしょ!」    詰め寄って睨み付けると、モンモランシーに誤魔化し笑いを向けられた。  ここはモンモランシーの部屋。サイトを連れて押しかけて、部屋で観念したように 待ちかまえていた彼女を問いただしたところ、サイトが被ってしまったのはやはり モンモランシーが作った惚れ薬の残りだったらしいことがわかった。  ところが、だったら解毒薬を早くよこしなさいと言ったわたしに帰ってきた言葉は 「簡単には用意できない」。そりゃあ怒りたくもなる。   「『水の精霊の涙』、全部使っちゃったの!?」 「ううん、それはまだあるんだけど、それ以外にも色々材料は必要なのよ。 そっちが足りてなくて、街に行って調達してこないと解毒剤は調合できないわ」 「なによそれぇ……」  頭を抱える。トリスタニアまで行って、薬屋を回って帰ってきたら半日はかかるじゃないの。   「何だかんだ言って随分なトラブルメーカーだねキミは。モンモランシー」 「あなたに言われるともの凄いショックだわ……。否定はできないけど……」  モンモランシーを迎えに来たとかでいつのまにか話を聞いていたギーシュが、 やれやれと肩をすくめる。モンモランシーは渋い顔をした。   ■2   「それで、どうするんだい? 今から買い出しかな?」 「まぁ、仕方ないわね。またサボりになっちゃうけど」  「だったら僕も付き合うよ」「サボる口実が欲しいだけじゃないの?」などと 言い合っている二人を尻目に、わたしは戸口で待たせていたサイトに目を向ける。  サイトは一瞬目を見開いた後、その瞳をとろんと潤ませた。  胸が締め付けられる。今のサイトが惚れ薬のせいでわたしの事しか考えられなくなって いるのなら、どんな気持ちになっているのか、わたしは痛いほどに思い知っているから。    わたしはサイトの傍まで近寄ると、その手をとった。 「えっと、その……、今日中に、治してあげるから。あ、安心してなさい」  サイトは小さく頷いて、やっぱりわたしをじっと見つめる。 その視線に耐えられなくなって、わたしは目を逸らしてしまった。    そう、わたしは知ってる。今のサイトの立場に、つい一週間くらい前になったから。  ”好き”になってしまった人と離れていると、どれだけ苦しいか。  切なくて、寂しくて、不安な気持ちがどんどん膨らんで、どうしようもなくなって、 自分の溢れた感情に押し潰されそうになってしまう思いを、サイトに対して持ったから。    薬のせいだからとか、自分本来の気持ちじゃないとか、そんな理屈で抑えられるものじゃない。  例えとしては良くないけど、何も考えられないくらい眠たい状態でベッドを目の前にした時とか、 お腹が空いて倒れそうな状態で料理のテーブルについた時とか、そんなのに近いと思う。  頭で考えて自制する余裕なんてとても無いくらい、サイトが欲しくてたまらなくなった。  恋の病なんていう言葉があるけど、それこそ病気みたいに自分ではどうにもできなくて……、 その苦しさを和らげてくれるのは、”好き”になった相手だけだってことを、知ってる。   「サイト」  それだけじゃない。サイトの胸に手を当てて、呼びかける。  ”好き”になってしまった人に傍にいてもらって、触れてもらうとどれだけ嬉しいか。  名前を呼んでもらって、見つめてもらうだけで、そんなに満たされるか。  それも知ってる。それが、この世界にそれ以上の幸せなんて存在しないと思えるくらい 気持ちの良いことだっていうことも……、サイトが、教えてくれた。  だから、あの時のわたしを助けてくれたサイトのことを、 今度はわたしが助けてあげないといけない。サイトの気持ちを知っているわたしが。   「ルイズ」  サイトの熱い手のひらが、わたしの手を包み込む。胸に当てたその手に、サイトの鼓動が 伝わってくる。わたしの胸も高鳴ってくる。今、サイトが、あの時のわたしみたいな 幸せな気持ちになってくれてるんだと思うと……、こっちも、嬉しくなる。  サイトが、わたしの手をきゅっと握りしめる。空いた手でわたしの顎に手を当てる。 びくんと身体が跳ねた。何をしようとしてるのか、すぐにわかった。 『キス……、すると、ちょっとだけとれる』  他でもない、わたしがサイトにそう教えたんだ。気持ちの悪いモヤモヤが吹き飛んで、 気持ちの良いモヤモヤにひっくり返ること。惚れ薬を飲む前から、何度もしてたことまで ばらしてしまって……。    サイトが顔を傾けて、瞳を閉じた。  拒めない。だって、あの時わたしは、サイトの気持ちも考えないで、勝手に……、 自分がしたいから、サイトにキスしたのだから。拒めないよ。それに、もしここで拒んだり したら、どんなにつらい気持ちになるか、それも想像できちゃうから。  わたしも、小さく息をついて、瞼を落として――。   「えー、コホン。あのだね、そういうことは他人の部屋では避けた方がいいのではないかな」 「ふぎゃあ!?」「おぐっ!?」  ギーシュの気まずそうな声が飛んできて、わたしは反射的にサイトの顎を押し上げた。  なんか、サイトの首の後ろからゴキッっていう音が聞こえてきたけど。 「……はっ! あ、そ、そうよ! ここでするのはやめなさい!!」 「モンモランシー。ひょっとして見とれてたのかい?」  振り向くと、顔を真っ赤にして我に返るモンモランシーと、ツッコミを入れるギーシュ。   ■3   「なっ、なななな何よ! はは、早く解毒剤の材料買いに行きなさいよね!」 「わ、わかってるわよ」  モンモランシーは頬を染めてちらちらこちらを見ながら、思い出したように支度を始める。    わたしがドキドキ鳴っている胸を抑えて深呼吸していると、不意に窓の外に人影が現れた。 「話は聞かせてもらった」 「ひゃっ!」「何だね!?」  今度は、窓の近くにいたモンモランシーとギーシュが突然の背後からの声に 飛び上がった。突然そこに現れたのは、フライで飛んでいるらしい雪風のタバサ。 窓枠に片手をついてこちらの様子を観察している。 「タ、タバサか。どうしたんだね、こんな所に」 「四人揃って遅刻しているから、気になった」  タバサはギーシュの質問に簡潔に答えると、 「トリスタニアまで行くなら、わたしが風竜で送る。その方が早い」と続けた。   「そうしてくれるなら、助かるけど……。なんであなたが?」 「彼には、借りがあるから」  タバサは、サイトの方へ一瞬だけちらりと目を向けてからそう答えた。  なんとなく、その視線に引っかかるものを感じたけど、それが何なのかわかる前に 彼女はいつもの無表情に戻ってしまう。  「行くなら、早く」 「わ、わかったから急かさないでってば」  慌ただしい準備を終えて、タバサとモンモランシーと、一応ということでギーシュも乗せた タバサの風竜は、それこそ風のようにトリスタニアへ向け飛び去ってしまった。      タバサ達を見送った後、授業どころじゃないと思い、サイトと共に部屋に戻った。  ドアの閉まる音がやけに大きく耳に響く。振り向いて自室の中に顔を向けると、 先に中に入っていたサイトが、棒立ちになったまま顔を伏せていた。   「……サイト?」  一歩踏み出して声をかけると、その肩が小さく震えた。さっきまでとは少し違う様子。  わたしは……、やっぱり、サイトの気持ちがわかる気がして、ゆっくり口を開いた。 「あの……、あの、その、ね? サイト」  わたしは努めて明るい声で呼びかける。  「えっと……、わたしは、わかるから。 今のサイトがどんな気分なのか、自分で体験して知ってるから……」  どう言ったらいいのか模索しながら、サイトに語りかける。 今のサイトの気持ちを推し量って、どうするのが一番なのか、深く深く考える。   「だから、その」  また、サイトの手をとろうとしたら、サイトは一歩後じさってわたしを避けた。  ぞくっ、と背筋に冷たい物が走る。”今のサイト”が自らそれをするのが、どれだけ 苦しいことか知ってるから。それに、どうしてそんなことをしたのかも、わかったから。  わたしは駆け寄って、サイトの両腕を掴んだ。   「……怖がらないで」  サイトの顔を見上げる。サイトは不安に揺れる瞳をわたしに向けていた。 「ちゃんと、覚えてるから。わたしが今のサイトと同じ気持ちになったとき、 サイトがわたしにしてくれたこと、忘れてないから。その時のことを……、感謝してるから」  今のサイトは、きっと、わたしに嫌わることを怖がってる。  惚れ薬のせいでわたし無しにはいられなくなっているのに、 だからこそ不用意に何かしてわたしから嫌われやしないかって不安になってる。    わたしも、同じような気持ちになった。サイトの傍にずっといたい。 サイトに自分だけ見て欲しい。そんな気分になった。  そして同時に、それを強要して嫌われたらという不安にも襲われた。  結局、前者の気持ちの方が勝って、わたしはサイトにベタベひっついて甘えてしまった。  それは、サイトは優しいって。わたしのことを受け入れて、甘えさせてくれる人だって、 わかってたからだ。だから、嫌われる心配を抑え込んでしまった。   ■4    けど、今のサイトが、その時のわたしみたいにベタベタしてこないのは、きっと……、 わたしがいつもサイトに対してとってる態度のせい。犬扱いして、ちょっとしたことで怒って、 殴ったり蹴ったり鞭で打ったり魔法で吹き飛ばしたりしてるせい。  わたしにとってのサイトは、甘えられて身を任せられて、みっともない所も恥ずかしいところも 受け止めてもらえる人だった。少なくとも、あの時のわたしにとってはそうだった。  けど、サイトにとってのわたしは、そんな相手とは程遠い。  だから、きっと身が張り裂けそうなくらいつらいんだろうに、わたしと距離をとろうとする。  ヘンなことをしたら、わたしに嫌われてしまうって思って。    胸が痛かった。苦しかった。今のサイトにそれよりもつらい思いをさせているのは、 わたしの普段からの行いのせいだと思うと、涙が出そうだった。 「……わ、わたし、そんなに酷いご主人さまじゃないわよ」  そう言って、サイトの背中に手を回す。おっきくて逞しい。 いつもわたしを守ってくれる、サイトの身体。   「サイトが苦しいのがわかってて、それをどうにかするためにわたしに何かして……、 そのことで怒ったり嫌ったりするような、きょ、狭量な人間じゃないわ」  あーあ、でも、何でこんな物言いになっちゃうのかしら。   「見くびらないでよね!」  わたしはサイトの胸に顔を押しつけて、言葉をぶつけるようにそう言った。  と、その直後、サイトも両手をわたしの背中に回して抱き留める。  両脚の先が宙に浮いてしまって、びっくりしてじたばたしているうちに、 サイトはわたしの身体を抱いたまま部屋の中を移動して、わたしをベッドの上に降ろした。   「あっ……」  途端に脳裏に浮かび上がるのは、わたしが惚れ薬を飲んでしまった時の、 ベッドの上でのサイトとの行為。もう、思い出すだけで羞恥で死んでしまいそうになる 数々の醜態。一気に全身が火照り、頭が沸騰してくる。    待って、待って、ちょっと待って。よく考えて。  勢いでサイトに色々言ってしまったけど、要するにわたしが言ったことって、 あの時サイトがわたしにしてくれた、『気持ち悪いモヤモヤの解消』を、 今度はわたしがサイトにしてあげるってことよね。  それとも、わたしが何かするより、サイトに好きにさせてあげた方がいいのかな? どっちがどっちなのか、わかんなくなっちゃったじゃない。   「ルイズ……」  サイトがわたしに覆い被さる。わたしを射抜くみたいな目。 ”わたしのことを好きな”サイトが、わたしを見つめてる。 惚れ薬のせいだってわかってるのに、胸がどきんどきん高鳴って、たまらなくなる。  今のサイトの気持ちをありありと想像できてしまったから。    わたしは惚れ薬の効果を消してもらった後、サイトに質問した。  薬のせいで無防備になってベタベタして、サイトに対して自分に何でも好きなことを していいとまで言ったわたしに、どうして”好きなこと”をしなかったのか、って。 『だって、あれはお前じゃないだろ。お前じゃないお前に、そんなことはできない。 欲望にまかせて、大事な人を汚すなんて事は俺にはできない』  サイトはそう答えてくれた。嬉しかった。恥ずかしさで何も考えられないくらいだったのに、 その言葉で心がふっと柔らかく、温かくなった気さえした。    けれども、サイトの言葉が正確じゃないことも自覚していた。  『お前じゃないお前』。サイトはそう言った。確かにその言葉通り、あの時のわたしは 普段からは考えられない事をしたり言ったりしてしまっていたけれど……、 でも、完全に『わたしじゃないわたし』だったわけじゃない。  もちろん100%それまでと同じわけじゃないけど、0%でもない。  わたしの中には、そりゃ、サイトのことを大事に思ってるとか、感謝してるとか、 そういう気持ちくらいある。あいつのしてくれてることに、お礼を返してあげたいって 気持ちだってもちろんある。そういう感情が一片も無いほど恩知らずじゃないし。   ■5    けど、いつも他のごちゃごちゃした気持ちが邪魔をして、素直になれなくて、 そういう気持ちを表に出せないでいる。それが『わたし』だった。  あの惚れ薬を飲んでしまったわたしは、そんな、サイトへの好意を形にすることを 邪魔する気持ちが綺麗さっぱり失せてしまった。  それだけであんな態度とか言動になるとは思わない。きっと、サイトへの好意も もっと大げさになって、膨らんでしまったいた。それが、あの時の『わたし』。    でも、その時の記憶を今のわたしは持っている。そして、その時の気持ちも 思い出すことが出来る。あの時のわたしが、何か外からの別の力によって、 心にも無いことを言わされてさせられているとは思わない。  わたしはあの瞬間の自分の気持ちを、そのまま形にしてサイトにぶつけていた。 今だって言える。少なくとも、あの時の『わたし』にとって、あれは本当の気持ちだった。    そして、あの時のわたしを作り出したのは、今のわたしの中にもある感情。  無から作られたわけじゃない。確かに、わたしの中から生まれた『わたし』。  だから、サイトの言葉を訂正するなら、あれは『わたしじゃないけどわたし』。    わたしの上にいる、サイトの顔を見つめる。いつものサイトとは違った色をした 今のサイトの瞳。あの時のわたしに当てはまるなら、今のサイトにも言えるはず。  ここにいるのは、サイトじゃないけど、サイト。わたしを大事な人だって言ってくれた、 わたしをいつも助けてくれる、わたしの使い魔。  『お前じゃないお前に、そんなことはできない』  じゃあ、もしもそのままのわたしだったら? ”そんなこと”しちゃうってこと?   「サ、サイト。あの」 「?」  サイトは小さく首を傾げた。 「わ、わたしのこと……、大事?」 「当たり前だろ」  サイトはすぐに答えた。まぎれもない、サイトの声で。 「ど、どうして大事なの?」  前にもした質問。けど、今もう一度聞いたら、違う答えが聞ける気がした。   「好きだから」    サイトは真っ直ぐわたしを見つめたまま、そう言った。  一瞬、頭の中が空っぽになる。次いで、一気に熱で満たされた。  な、ななな、何言ってんのよ! 聞きたいのは、そゆことじゃなくて……、ああもう!   「〜〜〜〜っ! ほ、惚れ薬飲んじゃったんだから、好きになるに決まってるでしょ! あんたはわたしの時と違って、惚れ薬を飲んだわたしの様子を見てるんだから、 今の自分が普通じゃないってわかるはずでしょ!? わたしが聞きたいのは、わたしのことが大事で、そ、その……好、き……、な理由よ!」  一気に文句を連ねると、サイトはわたしのすぐ前まで顔を寄せて、 「守りたいから」  頬を撫でて、そう言った。    全身から力が抜ける。とろんと視界がゆらぐ。何よそれ。それも答えになってないじゃない。 これで『何で守りたいの?』って聞いたら、大事だからとか好きだからとかに戻るんじゃないの?  心の隅ではそう思うのに、文句が言葉として出ない。出す気にもならない。   「ルイズが困ってたり、つらそうにしてたりするのを見ると、俺も嫌な気分になる。 ルイズを助けられたり、二人で何かやり遂げたりできると、俺も嬉しくなる。 ルイズは危なっかしいからほっとけなくて、気になって、傍にいてやりたくなる。 ……それじゃ駄目か?」  サイトは、寝乱れたわたしの髪を直しながら、そう続けた。 「……だめじゃ、ない……」    考える前に、かすれた声が喉から漏れ出た。惚れ薬を飲んでいても、全くの嘘はつかない。  だから、今の言葉はサイトのもの。サイトが普段から考えていてくれてること。   ■6   「わ、わわわ、わたしのこと……、ほんとに、大事?」  また聞くと、サイトは頷いた。 「ほんとに、好き?」  頷きながら、頬を撫でてくる。 「……これからも、守っててくれる?」 「そう、したい」  最後の質問には、サイトは言葉で答えた。    頭の中がぐらぐらしてくる。やだ、どうしよう。嬉しい。薬のせいで大げさになってるって ことはわかってるのに、それでも嬉しい。胸がいっぱいになる。  今は、わたしの方は惚れ薬なんか飲んでないのに……、もっと、サイトの声が聞きたいって、 近くで触れて欲しいって、そんな風に思えてくる。おかしい。おかしいわよ、こんなの。   「ちょ、あの、その、えっと、待って。ちょっと待って」  わたしに何かしようとしてたわけじゃないのに、サイトに制止の声をかけてしまう。  サイトは首を傾げた。わたしは胸に手を当てて、深呼吸する。 もう、頭がゆだって何がしたいのか、何をするべきなのかわかんなくなっちゃったじゃない。   「あー、うー、ええと……、そう! じょ、状況を整理しましょう。 あ、あんたは不可抗力で惚れ薬を飲んでしまった。それで、モンモランシーが薬の材料を 買ってくるまで、その状態で待ってないといけない。だけど……」  サイトはわたしを見つめながら、わたしの話を黙って聞いている。 「だけど、わたしは、惚れ薬を飲んじゃった状態で、ただ”待ってる”のがどれだけつらいのか 自分で体験して知ってる。そ、それに、あんたはわたしが飲んだ時に、よ、良くしてくれたし」  その先を言うのが恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった。   「そ、それに、あの時の……、サイトに、お礼とか、お返ししたいとか、言ったわよね? それも、まるっきりの嘘じゃなくて、普段から少しは考えてたことだから、だから……」  自分でも、顔が真っ赤になってるのがわかる。言葉がどんどん弱くなっていく。 薬を飲んだ時は簡単に言えたのに。今は、回りくどい理屈をつけた上で、羞恥を必死で 抑えつけないと言葉にならない。    そこで、言葉を切って、逸らしていた顔を再びサイトに向ける。 わたしの心の奥まで見通してくるみたいな、わたしだけしか目に入らない視線と目が合って、 また慌てて逸らす。顔を見てたら、絶対に言えない。   「……サイトは、何が……したいの?」  蚊の鳴くような声って、こういうのを指すのかしら。やっと、それだけ絞り出した。    い、今のは、違うから。あの時みたいに、『好きなことしていい』って意味じゃないんだから。  あんたが恐れ多くもこのご主人さまに対してしたがっていることを正直に申告して、 それがヘンな物じゃなかったら、まぁ、ちょっとだけ許してあげようかななんていう、 そういう意味で……。   「ルイズ」  その後に続ける言葉を考えていたら、サイトはわたしの顎に手を当てて、自分の方へ向かせた。  どきんと心臓が一際大きく跳ねる。ま、待ちなさいってば。まだ説明終わってないんだから。   「キス、したい」  サイトはわたしに顔を寄せて、そう言った。開きかけた口から力が抜ける。 あの時、わたしが最初にしたくなったのと同じこと。同じ気持ち。 頭で考える前に、こくんと頷いて返してしまった。    ほとんど間を置かず、サイトの唇がわたしに重なる。それまでに感じていたよりも ずっと近いサイトの温かさが、身体に流れ込んでくる。やっぱり、気持ちいい。  サイトがわたしに覆い被さるような恰好になってるから、こんな恰好でキスされたの 初めてだから、ものすごく……、サイトに包まれてるって感じがする。  サイトに繋ぎ止められて、囚われて、サイトに思うままにされてしまう気がしてくる。   ■7    いつもより、ずっと長いキス。サイトの唇が開かれて、吐息が口元に当たる。  終わっちゃうのかな、と思ったら、サイトの唇がわたしの唇にキスとは違う風に当たって、 「んっ……?」  柔らかく、唇で唇を挟んできた。やだ、サイトに食べられる、なんていう変な想像が 一瞬頭をよぎった後、サイトはわたしの唇の形を確かめるように、 唇を噛みながらそこに舌を這わせてくる。   「あっ……、ん、ひゃ……!」  くすぐったい。恥ずかしい。やだ、犬みたい。わたしの唇で遊ばないでよ。 抗議しようにも口を弄ばれてて、みっともなく涎が口元から垂れちゃったのを感じたとき、 「んむっ……!?」  口の中に、何か入ってきた。今までに一度も経験がない感触。何これ、と思う前に、 それがわたしの舌を”舐めて”きて……。  ぞくぞくっ、と背筋が震えた。サイトの舌だ。サイトの舌が、わたしの中に入ってきた。 「はっ……、ぁ、んふっ……、ちゅ……」  そのまま、サイトの舌がわたしの舌に絡みついて、吸い付いてくる。わたしの口の中に、 自分のものだけじゃない唾液が落ちてくる。身体から力が抜けて、頭がぼーっとしてくる。    ぐちゅ、ぐちゅって、はしたない水音が顔の内側から耳まで響く。こういうキスもあるって、 どこかで聞いたことはあったけど、でも、こんなの許してない。許して……。  わたしがついサイトの肩を押して拒むような力を入れたのを感じたのか、サイトは顔を離し、 わたしの中から舌を引き抜いた。途端に、とても大事な物が逃げてしまったような 酷い喪失感に襲われる。掴んだままの肩を今度は小さく引くと、サイトはまた唇を重ねてきた。    あっという間に、満たされた気分が体中に広がる。胸の奥が締め付けられて、 気持ちの良いモヤモヤが膨らんでいく。しているのはキスなはずなのに、 マッサージされたときと同じか、それ以上の強い刺激が身体に走る。  腰のあたりがきゅうっと縮こまった。キスなのに、キスだけなのに、一番気持ちいい時のに 近付いていってる。もっと欲しいって、わたしの方からも舌を差し出してしまう。   「ぐちゅ、ちゅぷ、ちゅ……、んぅっ…!」  サイトはわたしの口の中を掻き回すのを止めないまま、腰の辺りに手を這わせてきた。 その手がわたしの身体を撫でながら、上がってくる。そんな、このキスと一緒に マッサージなんてされたら、すぐにヘンになっちゃうよ。もっと、このキス、してたいのに。    そんな風に思って身構えたら、サイトの手はわたしの襟元で止まって、タイに指をかけた。  びくんと身体が跳ねる。サイトが次に”何がしたい”のか、わかってしまったから。  サイトの顔が離れる。わたしの中からサイトがいなくなる。サイトはわたしを見下ろしながら、 わたしの制服のタイを、少しだけ引っ張った。少しだけれど確実に、わたしの襟元が緩む。    サイト、脱がしたいんだ。わたしの服を脱がして、わたしの身体を見て、それで……、それで?  口の中に溜まった、わたしとサイトの唾液が半々のものを喉を震わせて飲み込む。  だめ。それはだめ。絶対だめ。わかるのに、わかってるのに。サイトがそれを望んでるんだと 思ったら、わたしに”したい”ことなんだって思ったら、拒否する言葉が出てこない。    今、思い出してしまった。惚れ薬を飲んで、サイトに『好きなことしていいよ』って言ったのに、 『好きなこと』をサイトがしなかった時の失望。  知ってる? あの時のわたしは、”好きなことをしていい”んじゃなく……、 ”好きなことをして欲しい”って思ってたのよ?    それじゃあ、今は? 今のわたしは? ”していい”の? ”して欲しい”の? していいし、して欲しいけど、でも、しちゃだめなの?    わたしは震える手で、胸元にあるサイトの袖を掴んだ。 「……これは、サイトが……、本当に、望んでること?」  わたしの質問の意味を図りかねたのか、サイトは黙ってわたしを見ている。 「サイトが、いつも、望んでることなら……、本当の気持ちだったら……」  わたしの目の前にいるのが、”サイトじゃないけれどサイト”なのだったら。   「……目をつむって、知らないフリ、しててあげるわ」   ■8    サイトの顔を見るのが怖くなって、本当にぎゅっと目を閉じて、そう言った。  前にも、同じ事をサイトに言った。その時とは、まるで違う気持ちで。  ……ううん、同じなのかもしれない。前に言ったときも、わたしはこの台詞を、 サイトに全部を任せて、押しつけるつもりで言った。自分からはっきり許すのが怖いから。  自分の責任になるのが怖いから。だから、”サイトからすることなんだから仕方ない”って 形にして、自分の気持ちから逃げた。ずるくて汚い考え。   「ルイズ」  サイトがわたしの名前を呼んで、耳元に顔を寄せた。そして、 「好きだよ」  吐息と共に今のわたしと同じくらいずるい言葉を吹きかけて、しゅるりとタイを解いた。    だめ、今、越えちゃいけない何かを越えちゃった。でも、止められない。 サイトの指がブラウスの前のボタンにかかって、自分でも無理なくらい手際よく外していく。  すぐに前が開いて、薄い肌着だけの胸とお腹がサイトの前に晒される。    やだ、やだやだ、恥ずかしいよ。ずっと前は平気でサイトの前で着替えしてたし、 最近もブラウス越しなら触られちゃってたのに。今この時に肌を見られるのは、 信じられないくらい恥ずかしい。  見られたくない。貧相な身体も、惨めなくらいぺったんこな胸も、サイトに見られたくない。  ううん、恥ずかしい一番の理由は、見られたくないからじゃない。 サイトが、見たいからだ。サイトがわたしの身体を見たくて脱がしたから、恥ずかしいんだ。    ブラウスを脱がせきらないままで、サイトの指が肌着を持ち上げる。言われてもいないのに、 わたし、自分で背中を持ち上げてサイトがやりやすいようにしてる。  ごめんね、あんたが見たいわたしの身体、自分でも情けなくなるくらいの代物なのよ。  こんなのが見たいあんたって、よっぽどの物好きだわ。    肌着が持ち上がりきって、胸まで何も隠すものが無くなった時、サイトの深い息が聞こえた。 「……綺麗だよ、ルイズ」  お世辞なら止めてよね。わたしってば、そんな言葉で幸せになっちゃう頭してるんだから。    サイトの指が首筋に触れる。胸元に触れる。そこから脇に移動して、お腹を撫でて、 ゆっくり降りてくる。今までと同じ、わたしのコンプレックスを帳消しにしてくれるような、 わたしを大事にしてくれてるのが伝わる優しい手。けど、そこから生まれる刺激は 洋服越しの時とは全然違う。サイトの気持ちが、直接流れ込んでくるみたい。    その指が、名残惜しそうにわたしの肌から離れて……、スカートのホックに触れた。 思わず腰を引いてしまう。太股がぎゅっと閉じる。 わかってたけど、わかってるつもりだったけど、それは、その先は。   「……サイト」  目をつむってるという約束を破って、サイトを見上げる。 「えっと、あの……、赤ちゃん、作りたいの?」  意を決して、聞くなら今しかないと思って、そう質問する。これも前にも聞いたっけ。  サイトはきょとんとした顔になった後、苦笑を浮かべた。   「な、何よ。サイトが、あの時教えてくれなかったから……!」  以前にサイトに呆れられた時の事も含めて、羞恥が湧き上がってくる。  わたしだって、具体的にどんなことをするかを母さまが教えてくれなかっただけで、 大体は知ってるわよ。服を脱いで、床に入って、その……、いやらしいことをする。  いや、逆ね。赤ちゃんを作るのは、限られたただ一人の相手とでないと駄目だからこそ、 ”そういうこと”が容易には許されないこと、いやらしいこととして禁忌になってるのよ。    だから、わたしは知らなかった。ただ一人の愛する殿方にしか許さない事なんだから、 わたしが知ってる必要はないと思ったから。きっと、母さまもそのつもりでわたしに 教えなかったんだわ。    とにかく、愛してる相手の全部を知って、触れていたいって思うのは、その相手と 伴侶になって子供を作りたいって気持ちからなわけで……、今のサイトは、そう思ってるはず。   ■9    けど、困る。赤ちゃんができちゃったら困るわよ。まだそんなの駄目に決まってるでしょ。 いや、まだとかそういう問題じゃなくて……、ああもう、とにかくそれだけは駄目なの!   「ルイズが望まないなら、子供ができるようなことはしないから」  わたしの考えを察したのか、サイトは苦笑を微笑みに変えて、そう言った。 「そ、そう……」  その言葉を聞いて、ほっとした。でも、なんか少し残念な気も……、してない! ないわよ!   「でも、なんていうか……、子供を作る事の、真似を、ルイズとしたい」 「真似? 真似でいいの?」 「子供を作るわけにはいけない恋人同士は、真似で気持ちを確かめ合うんだよ」  サイトは言葉を選ぶようにして、そう教えてくれた。恋人同士って言葉に頭がかあっと熱くなる。  でも、その説明でちょっと合点がいった。恋人と最後までしちゃったっていう同級生の話が 端からも結構聞こえてたけど、子供ができちゃったらどうするつもりなのか不思議だった。  なるほど、真似だったのね。納得。   「ルイズが困るようなことは、絶対しない」  サイトはわたしを見つめながら、きっぱりそう言った。視界がとろんとしてくる。 そっか、それならまぁ、いいかな……。良くない気もするけど、いいかも。 「わ、わわ、わたしのことが、好きだから、したいのよね?」  頷くサイト。それなら、それなら……。わたしはまた目をつむって、”知らないふり”する。    サイトの顔が近付く気配がして、またキスされた。今度は唇を合わせるだけのキス。  顎を持ち上げて、より深くサイトと重なれるようにした時、 「えっ?」  背中に手が回されて、ぐいっと引き上げられる。わたしがベッドの上に座りこむ 恰好になると、サイトはわたしの後ろに回って、わたしの腰を足の間に納めるように座った。    後ろから腰に手が当てられて、ぷちんと音を立ててスカートのホックが外される。  サイトはわたしの太股を持って腰を浮かせると、すぐにスカートを膝まで抜き取ってしまった。  流れるような作業で、反応してる暇も無かった。なんでこんなに手際がいいのよ、もう!   「触るぞ? ルイズ」 「ひゃうっ! ちょ、待って、そこ……!」  耳の後ろに息を吹きかけられて力が抜けている間に、サイトの手が太股に当たって、 付け根の方に登ってくる。ホントに待って、そこだめ、今はだめっ!    びくん!と顎が持ち上がる。背中にいるサイトのおかげで倒れずに済んだ。 サイトに触られて、どこよりも強くて、怖いくらいの刺激があったところ。  一番大事なところに、サイトの指が当てられた。  次いで、じわっという湿った感触が伝わってくる。 また、濡れちゃってる。自分でもわかってたけど、今のでサイトにも知られてしまった。  サイトに触られた。サイトの指を汚しちゃった。爆発するみたいに羞恥が頭の中を染める。   「ルイズ、わかる?」 「ふ、ぁあ……、な、に?」  探るような手つきでサイトの指がわたしの下着をなぞって、一点で止まった。 「ここで、ルイズの大事なところで、俺と繋がる。そうしたら子供ができる」  あ、前に聞いた、子供の作り方、教えてくれてるんだ。  でも、”俺と”って何よう。まるでわたしが赤ちゃんを作る相手は あんたしか有り得ないって決めつけてるみたいじゃない。   「ここ、って? ……っあ、あっ!!」  聞くと、サイトの指が下着越しに、僅かに沈んだ。 じゅわっ、と下着にさらに染みが広がるのがわかる。あぁ、わかった。月のものがあるところ。 「ルイズのここが、何でこんなに濡れてるかわかるか?」 「は、ぁ……なん……で?」  頭が回らない、サイトの胸に完全に背中を預けてしまいながら、聞き返す。   ■10   「……好きな相手を、傷付かずに受け入れるために濡れてるんだよ」  内緒話するみたいに囁かれて、絶句した。 背筋が震えるのと同時に、今まで疑問だったことが一本に繋がったみたいな感覚になる。  そういえば、サイトにマッサージされた時とか、サイトのことを考えた時とか、 そんな時にしか、こういう風に”濡れた”ことってなかった。それって、それって。   「うそ、そんなの……」  サイトに触られるのとか、サイトに気持ちよくしてもらうのは好きだけど、 サイトの赤ちゃんが欲しいなんて考えたことはない。絶対無い。 「嘘じゃないよ。ほら、俺だって」  サイトはだだっ子をあやすみたいに優しい声で言うと、わたしの腰を引き寄せた。 サイトの腰に、わたしのお尻がぴったり当たる。それだけでもどきっとしたけど、 でも、それでは済まなくて。   「あ……、えっ……?」  サイトのズボンの前に、何だか固い感触。一瞬、中に何か入れてるのかと思った。 「ルイズに触れてるから、こんなになってる」  その固いのが、ぴくん、って震えた気がした。それで、やっとわかった。 これ、女性には無くて、男性にだけついてる。信じられないほど固くて大きいけど、それは、 「ルイズと同じ。大事な相手と繋がりたいから、こうなるんだ」 「………っ!!」    ガツン、とトドメを刺された。サイトはわたしと赤ちゃんが作りたいからこんなになってて、 わたしの身体も、サイトとの赤ちゃんが、ほ、欲しい……、から、こんなになってて……。  今のサイトは惚れ薬を飲んで普通じゃなくなってる。けど、わたしは?  わかんない。わかんないよ。自分の気持ちがわかんない。怖い。   「でも、でもでも、だめ、それは、だめだからっ!」 「わかってるよ。ルイズが困ることはしないって、言ったろ?」  子供みたいにいやいやをすると、サイトはわたしの頭を撫でてそう言った。 その言葉だけで、混乱してた頭が安心しかけてしまう。   「真似、させて欲しい」  サイトはそう言ってから、わたしの太股を持って持ち上げ、自らの太股の上に座らせた。 サイトの足にそこを擦りつけてしまった時のことを思い出したけど、あの時とは向きが逆。  金属の擦れる音が聞こえたので視線を下ろすと、サイトがズボンの前を開けていた。   「あっ……」  思わず声が漏れた。驚きだったのか、感心だったのか、よくわからない。  赤黒くて、何とも形容しがたい形で、こんなのがサイトの身体についてるなんて、 全く考えもしなかったような物が、サイトの下着の切れ目から上を向いて生えてる。  すごい。何これ。信じられない。それに、こんなに大きかったら、 「つ、繋がるって、無理よ、こんなの」 「だから、それはしないってば」  思わず口をついて出た正直な感想に、サイトは苦笑する。  でも、それだとサイトとわたしでは子供が作れないって言われたみたいで、何だか嫌な気分。   「じっとしてて」  サイトは続けてそう言うと、またわたしの身体を持ち上げた。今度はサイト、上体を後ろに 逸らして、お腹の下あたりにわたしのお尻が来るようにして、そこから降ろして……、 「え……、あ、わ……!」  ずるずるとサイトのシャツの上を滑って、わたしの腰は、あろうことかサイトの”それ”に 引っかかるような場所で止まった。サイトの”それ”がわたしの下着に当たって 太股の間から飛び出して、まるで、その……、わたしに、”それ”がついたみたいに見える。   「ま、待ってよ、真似だけだって言ったでしょ!」 「ああ、真似だけ。……だから、ルイズ」 「え?」 「俺のそれ、手で触ってくれるか?」  ”お願い”されたことの内容に、頭の中に火がつく。   ■11   「な、なななな……!」 「手で押さえてる限り、真似にしかならないよ。それに、触れてもらえたら、すごく嬉しい」  それを言われると弱い。わたしが胸とかをマッサージされるのと同じくらい嬉しいのかしら。 サイトの大事なところなんだから、きっとそういうことなんだろうけど……。   「だめ、か?」 「だ、だめじゃないわよ、もう……」  悲しそうな声で言わないでよ。わたしは恐る恐る手を足の間に下ろすと、 ほんとにわたしにくっついたみたいに足の間から飛び出した”それ”に、そっと指を絡めた。   「くっ……!」 「あ……、あ、熱い」  触れた瞬間、サイトは喉から息を漏らして、身体を震わせた。それと同時に、”それ”が びくんと脈動する。次いで、意外なほどの熱さが指に伝わってきた。  すぐに、直感的に、わかってしまった。これ、サイトの一部だって。 確かに、サイトに繋がってるものなんだって。それを認識してしまうのと同時に、 ”それ”と薄い下着越しに触れ合っているわたしの部分が、きゅうっと縮み上がる気がした。    繋がれる。今、例えば下着をずらして、腰を少し持ち上げて、”それ”の上に降ろしたら……、 本当にこんなのがわたしの中に入るのか疑わしいけど、それをしてしまったら、、 わたしとサイトの赤ちゃん、できちゃう。  また、身体の中から染み出してくる感覚。サイトのが、わたしの中から滲んだもので濡れる。 サイトの”わたしと赤ちゃんを作りたい証拠”が、わたしの”サイトと赤ちゃんを作りたい証拠”で、 ぬるぬるに汚されていく。いやらしい。本当にいやらしいことって、こういうのを指すんだ。   「は、ぁ……、サイト……」  指をからめたそれを、より強く握る。また、一層固くなった気がする。 わたしは、その中に熱くて切ないモヤモヤがこれ以上無いほど膨らんでしまっている腰を 僅かに持ち上げると、ゆっくり上下させて、サイトに、擦りつけた。   「ふぁっ……! あ、あっ、あ……!!」  体中に痺れが走り抜ける。抑えようもない声が漏れて、足が痙攣する。  サイトの足に擦りつけたときより、サイトにタオルで拭かれたときより、ずっと凄い。  何も考えられなくなる。頭の中も身体の中も、サイトのことだけで満たされる。   「ルイズ、ルイズっ……!」  わたしの太股を掴んだままだったサイトが、わたしに合わせて腰を揺らす。 ぬちゅぬちゅってはしたない音を立てながら、わたしのそこと手の中をサイトのそれが 擦って、戻って、その度にわたしをおかしくする。  必死で、一生懸命で、切なそうな気持ちよさそうなサイトの声。  わたしがそこを擦られて気持ちいいみたいに、サイトもそこを擦られると気持ちいいんだ。  それがわかったら、わたしはサイトにもっともっと身体を押しつけて、指を絡めて、 それで……、二人で、気持ちよくなる。    二人で。そう思ったら、涙が零れた。わたし、お返しできてる? 今までの、形にできなかった気持ち、伝えられてる? ね、サイト?    そんなに、時間はかからなかったと思う。我慢する余裕も抑えつける余裕もとても無いまま、 サイトのことを全身で感じながら、気持ちいいのが膨らんで、弾けた。  どんな声を上げちゃったのか、そんなのも覚えてない。頭が真っ白になって、 ぐったりとサイトの身体に背中を預けて、そのまま眠ってしまいたくなって……、 でも、わたしの手の中に溢れた感触に、わたしは意識を引き留めた。    熱いものが手のひらに当たって、指の間を溢れて、ぼたぼたとわたしのお腹にまで垂れ落ちた。  サイトの”それ”から吐き出されたものだって気付くのに、しばらく時間がかかった。  火傷するんじゃないかってくらい熱く思えたそれが、空気に当たって冷やされて、 どろりと肌を落ちる。真っ白で、ゼリーかヨーグルトみたい。   ■12   「あの、サイト、これ……」 「これを、ルイズが受け止めたら、子供ができるんだよ」  ちゃんと聞く前に、サイトは察して答えてくれた。    それはすぐに熱を失って、わたしの手やお腹の上で、冷たく感じるくらいになってしまった。  なんとなく、凄く申し訳ないような事をしてしまった気分が襲ってきて、 今したのが、赤ちゃんを作る”真似”に過ぎないんだって気持ちが、沸々と湧いて出る。   「ルイズ」  そんなわたしの気持ちがわかったのかそうでないのか、サイトはわたしの身体を抱きしめて、 「ありがとう」  これ以上無いほど幸せそうな声で、囁いてくれた。  わたしは答えずに、わたしを抱くサイトの腕を、そっと掴んだ。                             ∞ ∞ ∞     「うー……、何か、入るのが怖いわね……」    記録的な速度でトリスタニアまでひとっ飛びし、解毒薬の材料を買い求めてとんぼ返り、 ルイズたちの様子を確認する前に薬を調合したのはいいけど、わたしはルイズの部屋の前で 中を確認するのを躊躇してしまっていた。  少し前にノックをしたけれど返事が無いのだ。何だか嫌な予感がする。   「手遅れなら今さらどうしようもない。早く」 「て、手遅れって、貴女ね」  往復の手伝いをしてくれただけでなく、ここまでついてきてくれたタバサが淡々と言う。 こんな子供みたいな外見なのに、随分と達観した子ね、ホント。  彼女ってば、寄った店で材料が品切れなのを確認するやいなや、最短コースで別の薬剤屋を 示して、フライまで使って案内してくれた。非合法っぽい店まで知ってたし、何者なのかしら。   「まぁ、彼女の言うとおりさ。早く届けるのが一番の気遣いだよ。コホン、ではお邪魔するよ」 「あっ、ギーシュ!」  止める間もなく、ギーシュが堂々とルイズの部屋のドアを開け放つ。 後に続いてタバサも部屋に踏み入る。わたしも解毒薬のビンを握って最後に入った。   「ど、どう? ギーシュ」  恐る恐る聞くと、タバサが振り向いて口元に人差し指を立てる。 ギーシュは踵を返して苦笑すると、やれやれとでも言いたげに出口に向かう。  わたしも部屋を見回して、ベッドの上に目をとめると、ため息が漏れた。      解毒薬のビンはテーブルの上に置いて、わたしたちは部屋から出た。 安心したけど、なんか妙に疲れたわ。 「あれ、セーフだと思う?」 「どうだろうねぇ、ちょっと判断に困るよ」  わたしの質問に、ギーシュは顎に手を当てる。タバサは何も答えない。   「ま、でもあの様子なら何かあったとしても文句は言われないだろうさ」 「そうね」  珍しくギーシュの意見に同意して、わたしは頷き返した。    だって、あの二人ってば、しっかり寝間着に着替えて、ベッドで熟睡してたんだから。 あの幸せそうな寝顔を見たら、惚れ薬っていうのも使いようかな、なんて思えちゃったわ。      つづく   前の回 一覧に戻る 次の回