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559 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:17:59 ID:gEaALK0e 絶対、取り返す。 敵は目前。機は熟しすぎるほど熟している。 柱の影から、一歩を踏み出す。 こちらに気付いた目標が、歩みを止め、こちらをじっと見つめる。 感情の読み取れない無表情な顔が、かえって余裕を感じさせる。 それが、却って彼女の闘志に火をつけた。 絶対、取り返す。 つかつかと間合いを詰め、そして、間合いに入る。 気の弱いものなら合わせるだけで目をそらしそうな殺気のこもった視線を、相手に投げかける。 しかし、標的は微動だにしない。 ただ、こちらの出方を伺うように、ただただ視線を返すだけだ。 絶対、取り返す。 そしてルイズは、目の前に立つ青い髪の少女に、言い放った。

「私の使い魔、返してもらいましょうか」

ルイズが自分の部屋から才人を追い出してから、一ヶ月近くが過ぎ去ろうとしていた。 その後、メイドがその後を追い、才人の下へ去ってしまう。 元々シエスタは才人のメイドなのだから、当然と言えば当然なのだが。 そして一人悶々とした日々を送っていたルイズは。 ついに今日、己が使い魔を取り戻すため、青い髪の魔女に挑む決心をしたのだった。

青い髪の魔女は淡々と応えた。

「私にその判断を下す権利はない」

つまりそれは、才人の行動を縛る権利は自分にはない、ということなのだが。 ルイズには、『サイトは誰にも渡さない』と言っているように聞こえた。

「…っ!何様のつもりなわけ…っ!」

激昂し、タバサを睨みつける。 しかしタバサは涼しい顔で応えた。

「私は彼の使い魔」

それ以上でも以下でもない。 その証とばかりに、前髪を漉き上げて使い魔の印である雪の結晶を見せ付ける。 そして続ける。

「私はサイトの命令ならなんだってできる。  身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない。  もし彼が世界を望むのならこの世界を。  もし彼がアナタの命を望むのなら、その命を」

言って体に不釣合いな大きな杖を、ルイズののどぶえに突きつける。 その表情は瞬く間に雪風の二つ名の如く冷たく凍りつき、一瞬で膨れ上がった殺気はルイズの動きを止めた。 今までの人生で、こんな至近距離であからさまな殺意を向けられた経験はルイズにはない。 初めての恐怖に、身体がすくみ、声が止まる。 しかし、すぐにタバサの殺気は消えうせ、凍り付いていた彼女の表情も元に戻る。 のどぶえに突きつけられていた杖が、音もなく引かれると、ルイズはぺたん、とその場に腰を落とした。 言葉を発さないルイズに、タバサは淡々と言い放つ。

「でも、彼はそんなことは望んでいない。  もし、彼がアナタを必要とするのなら…私はそれに従うだけ」

言い終わるとタバサは踵を返し、帰路に着く。 彼女が全てを捧げた、主人の下へ。 後に残されたのは、茫然自失となったルイズだけだった。

560 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:18:31 ID:gEaALK0e …なるほど。面白いな。

「ええ。学院に放っていた間諜の報告によると、虚無の少女は嫉妬に駆られ、ガンダールヴを放逐した様子」

ふむ。ならばこちらから仕掛けるのも一興よな。上手くいけば二つの虚無が我が手に揃う。

「いかがいたしましょう?ジョゼフ様」

お前に任せる。…おおそうだ、この機会にアレを試そう。使えるかどうか、見てみたい。

「オルトロス…ですか」

うむ。具合によってはまた改良の余地があるかもしれん。頼むぞ、我がミューズ。

「御意」

ルイズは、人目のつかない中庭の隅で、声も上げずに泣いていた。 ただただ、悔しかった。 何も言い返せなかった自分が。 彼女の覚悟に気圧されていた自分が、許せなかった。 だから悔しくて、泣いた。 零れる涙をぬぐう事もせず、芝生に腰を下ろして、ただ嗚咽だけを押し殺して、泣いていた。

「あら、どうしたのかしら?おちびさん?」

そのルイズに、優しく語り掛ける声があった。 ルイズははっとして、顔を上げる。 そこにいたのは。 桃色の髪を優しく風にそよがせ、柔らかく笑うルイズの優しい姉…カトレアだった。

「ち、ちいねえさまっ?どうしてっ?」

驚き、慌てて涙を拭いて立ち上がったルイズを、カトレアは優しく抱き締めた。

「あなたが心配になってね。  風の噂によれば、使い魔さんと喧嘩したそうじゃない」

言われて、ルイズの身体がびくん!と震える。 しかし、ルイズの中に疑問が沸く。

「…ど、どうしてちいねえさまがそんな事…?」

腕の中のルイズに、カトレアはコロコロと笑って応えた。

「あら。あなたの事ならなんだって分かるわ。  だって大事な大事な妹ですもの」

そして、自分と同じルイズの髪を、優しく漉く。 カトレアは続けた。

「ねえ、ルイズ」 「なぁに?ちいねえさま」 「…辛いなら…。ラ・ヴァリエールに戻っていらっしゃいな」

カトレアの腕の中で、ルイズの身体がもう一度、震えた。 581 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:18:24 ID:gEaALK0e 「おかえり」

タバサが部屋の扉を開けると、ちょうどバケツの上で雑巾を絞っていた才人と目が合った。 それを見たタバサは、感心するより呆れた。

「…なにやってるの」

思わず口に出してしまう。

「ははは。…なんか手持ち無沙汰でさ。シエスタもいないし」

シエスタはこの時間、厨房の手伝いに出ていた。そのため、手の空いた才人が部屋の掃除をしていたのだ。 タバサはつかつかと才人に歩み寄り、横から才人が手にした雑巾を奪い取る。

…サイトがこんな事しないで。

心の声でそう伝え、タバサは不機嫌な顔になる。 しかし、当の才人は。

「いいよ。俺がやりたいんだし」

そう言って、タバサから雑巾を奪い返す。

「ルイズんとこでもしょっちゅうしてたし…あ」

思わず口を突いて出た主人の名前に、才人は思わず口をつぐむ。 目の前の自分の使い魔を気遣っての事だったが、タバサは主人のその行動に何かを感じ取った。

「サイト。一つ質問していい?」 「何?」

取り返した雑巾で床を拭き始めた才人に、タバサは尋ねた。

「…ルイズと一緒にいたい?」 「ぶっ!」

その言葉が図星だったのか、才人は思わず吹きだす。 何もその言葉には根拠がないわけではない。 才人はルイズの部屋を追い出されて、怪我が全快してからというもの、頻繁にルイズの取っている授業に顔を出している。 それはもちろんルイズとコンタクトを取るためであるのだが、ルイズは話しかけようとする才人を悉く避けていた。 もちろん今も、才人はルイズとヨリを戻したいと思っている。 タバサと一緒に住んで、なおかつ使い魔とし、肉体関係まで持っておきながら、いまさらではあるが、才人の心の中にはいつもルイズが居た。 使い魔となって才人と心を通わせるようになったタバサは、既にその事に気付いていた。 だから、目の前でうろたえる主人に、こう言った。

「…ルイズと仲直りして」 「え」 「あなたはルイズと一緒にいるのが幸せだと思っている。  それなら、私はそれに従う」 「で、でも、シャルロットは…」 「私はあなたの使い魔。それ以上でも、以下でもない」 「だって…泣いてるじゃないか」

582 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:19:21 ID:gEaALK0e 才人の言うとおり、タバサは泣いていた。 その白い頬を、涙が一筋、伝う。 心では整理しているつもりだった。でも。 女の本能が、欲望が、タバサに涙を流させていた。 彼は私のもの。私だけのひと。誰にも…渡さない。 押さえ込んでいたはずのその感情が、才人に理性によって纏められた言葉を伝えたとたん、溢れ出したのだった。 慌てて眼鏡を外し、涙をぬぐう。

「…っれは、ちがっ…」

うまく、言葉が紡げない。 そんなタバサを、才人は優しく抱き締める。

「ごめんな」

言って優しくタバサの青い髪を撫ぜる。 タバサは、才人を抱き締めて…そして泣いた。声を上げて泣いた。

ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとは…私っ…!

嗚咽と共に、使い魔ではない、少女シャルロットの声が、才人の中に流れ込んでくる。 才人を独占したいという欲望が。ずっと一緒にいたいという願望が。ありのままの心の声となって、才人に流れ込んでくる。 それは、才人を知ることによってタバサの獲てしまった弱さ。 それを彼女は、汚いもの、唾棄すべきものだと思っていた。

…シャルロットは悪くない。悪いのは…全部、俺だよ…。

そして、才人は。 優しくタバサの唇を塞いだ。 ほんの少しのキスの後、才人は唇を放し、そしてタバサに言った。

「ちゃんと、責任は取る。俺なりのやり方で、だけど」

もう、タバサの涙は止まっていた。 今は、信じよう。彼を。

「それでいいかな?」

主人の言葉に、タバサはにっこりと笑って、応えた。

「私はあなたに従う。私はあなたの、使い魔だから」

そして二人は、ルイズを捜しに、部屋を出て行ったのだった。

583 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:20:13 ID:gEaALK0e 「…あなた、誰…?」

カトレアの腕の中でルイズはそう呟いた。 そして、勢いよくカトレアを突き飛ばす。 突然のルイズの行動に踏鞴を踏み、カトレアは目の前の芝生に腰を落とす。

「きゃっ?…いきなりなにするの、ルイズ」 「あなたは…ちいねえさまじゃない」

本物のカトレアなら。 才人を諦めて、ラ・ヴァリエールに戻って来いなどとは言わないはずだ。 どんな手を使ってでも自分を励まし、才人とヨリを戻させようとするはず。 それが、ラ・ヴァリエールに戻って来い、などとは。 そして、その指摘を受けたカトレアは、本物のカトレアにはありえない、酷薄な笑みを浮かべた。

「…流石は、姉妹といったところかしら。  姿かたちは、完璧だったのにねえ」

言いながら身体についた土埃を払いながら立ち上がるカトレア。 その姿がみるみるうちに歪み、形を変えていく。 そこに立っていたのは、ミョズニトニルン…才人以外の、虚無の使い魔。

「あ、あなたは…!」 「お久しぶり。あなた、使い魔を放逐したそうね」

冷たい笑みを浮かべるミョズニトニルンに、ルイズは歯軋りして応える。

「な、なぜあなたがその事を!」 「ふふふ。我が主は全てお見通しなのよ。  さて、なるべくなら力ずくで、とかいう優雅じゃない方法は取りたくないんだけど…」

杖を構え、身構えるルイズを見て、ミョズニトニルンは呆れたように肩をすくめる。

「ふざけないでっ!誰があんたなんかとっ!」 「そういうわけにもいかなそうねえ。なら、優雅じゃない方法でいきましょうか」

言ってミョズニトニルンは腰に下げた革袋から小さな犬の人形を取り出す。 そしてそれを空中に放り投げる。ミョズニトニルンの額のルーンが輝き、それに応えるように空中の犬の人形も光を放つ。 掌に載る程度だった犬の人形は、みるみるうちに大きくなり、大人の背丈ほどの大きさの、毛足の長い黒い大型犬に姿を変える。 その大型犬は鋭い犬歯をむき出しにし、ルイズをねめつけてぐるぐると唸る。

「な、なによそれっ…!」

怯えたように後ずさるルイズに、ミョズニトニルンは優しくその犬の背中を撫でながら説明した。

「このコは、オルトロスって言ってね。  我が主の作り出した、最新の犬型ゴーレムよ。毛皮には刃を滑らせる液体が塗りこまれていて、毛の一本一本が魔法を減衰させる繊維でできているの。  どう?美しいでしょう?」

虹彩のないのっぺりとした青い瞳を持つその犬は、主人の命を待ち、獲物に飛び掛らんと身体を沈めている。 ルイズはじわじわと後ずさる。 彼女の本能が告げていた。この相手にこれ以上近い間合いを許しては危険だと。

「さて。トリステインの虚無は、どうやってこの危機を脱するのかしら?  言っておくけれど、命乞いは聞かないわよ。生きてさえいれば、どんな状態で持ち帰っても構わないと我が主のお達しだから」 「誰が…命乞いなんてっ…!」

584 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:05 ID:gEaALK0e しかし、この状況はあまりに絶望的だった。 じわじわと間合いを離してはいるものの、いまだオルトロスの間合いからルイズは抜け出せていない。 ルイズの脳裏に、才人の、愛しい使い魔の顔が思い浮かぶ。 しかしルイズの思考はすぐに停止する。 だめ。サイトはもう…私のものじゃない…。 ルイズは恐怖と絶望に押しつぶされそうになりながら、呪文を唱え始める。 『ディスペル・マジック』。これなら、ゴーレムであるオルトロスを、一撃で鎮められる。 だが、その詠唱が終わるまで、敵が待ってくれる保証はどこにもない。 そしてその予想通り。 オルトロスは呪文の詠唱を聞くや否や、ルイズに飛び掛った。 そして。 横から飛び掛ってきた新たな影によって、オルトロスは吹き飛ばされる。 ルイズは目を見開き、その影の名を呼ぶ。

「…サイト…!?」 「大丈夫かっ、ルイズっ!?」

抜き身のデルフリンガーを構え、左手のガンダールヴの印を輝かせながら、才人はオルトロスからルイズを守るように立つ。 そして、空いたミョズニトニルンとルイズの間に、もう一つの影が降り立つ。

「…あら。操り人形がどうしてここに?」 「…私はもうあなたたちの人形じゃない」

タバサは風を纏わせた杖を、ミョズニトニルンに向けて突き出し、改めて翻意を示した。

「なんで、どうしてっ?」

ミョズニトニルンよりも、ルイズの方がこの状況を信じられていなかった。 そんなルイズに、才人がはっきりと応える。

「お前は俺が守るって言ったろ!」

そして、それにタバサが続く。

「私は、彼に従うだけ」

そのタバサを、ミョズニトニルンは妙なものを見る目で見つめる。

「…あなた…。前と、何か、変わった…?」 「あなたに応える義務はない」

言ってタバサは、杖に纏わせた風を、ミョズニトニルンに叩き付ける。 ミョズニトニルンはそれを容易く避けると、腰に下げた革袋からもう一つの『オルトロス』を取り出し、放り投げる。 瞬く間にもう一体のオルトロスが現れ、三人を挟み込む。 ミョズニトニルンはそれを確認すると、不敵に笑って、言った。

「どうやら形勢は不利のようね。私は引かせて貰うわ。  我が主には、操り人形の変化を手土産にしましょう」

そして、高く口笛を吹く。 それと同時に、二体のオルトロスが三人に襲い掛かる。 才人は剣を振るい、タバサは風で結界を張って、オルトロスの攻撃に耐える。 その隙に、ミョズニトニルンは空から降りてきた羽を持った大きなガーゴイルに抱えられ、空に上がっていく。

「待て!逃げんな!」

才人はオルトロスの攻撃をかろうじてデルフリンガーで受けながら、ミョズニトニルンに叫ぶ。 しかし、ミョズニトニルンはそれを完全に無視して、ガーゴイルと共に飛び去ってしまった。

585 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:48 ID:gEaALK0e 「くっそ!」

才人にそれを見送る余裕はなかった。 オルトロスは休むことなく攻撃を繰り出す。デルフリンガーでまともに受けたその一撃は尋常ではない重さで、才人の腕を軋ませる。 才人はなんとか隙を見て攻撃を繰り出すが、オルトロスの毛皮は異様に滑り、デルフリンガーの一撃をあっさりと逸らす。 しかも、オルトロスは隙あらばルイズにその牙を向ける。二体のオルトロスの繰り出す立体的な攻撃はあっさりと才人の防御を抜ける。そのたびに、ルイズは詠唱を中断させられていた。 タバサも似たような状況で、魔法の効かないオルトロスに、タバサは杖に結界を張って、攻撃を逸らす事しかできないでいた。 疲れを知らないオロトロスの猛攻に、三人の体力だけが削られていく。

「相棒、こりゃまずいぜ!」

珍しく焦った声のデルフリンガーが、三人の危機をより一層浮き上がらせる。 そんな中、不意に、三人の周囲を大きな竜巻が覆った。 タバサの魔法だった。 その呪文を唱え終わるや、タバサはがっくりと膝を着く。 どうやら精神力の限界のようだ。

「大丈夫か?」

慌てて才人はタバサに駆け寄る。 タバサはそんな才人を手を開いて押し留めると、ルイズに尋ねた。

「これならしばらくもつ…詠唱は、間に合う?」

ルイズは正直に応えた。

「わかんないけど…やってみる!」

そして詠唱に入るルイズ。 しかし。 その次の瞬間、竜巻の一部が裂け、そこから、オルトロスの顔が現れた。 即座に反応した才人が、デルフリンガーの腹でその頭を弾き飛ばす。 オルトロスは鳴き声も上げずに竜巻に吹き飛ばされる。

「くそ…!抜けてきやがるのか!」

才人は忌々しげに吐き捨てる。 今のでオルトロスも、この竜巻を抜けられることを学習しただろう。 周囲を回りながら、竜巻を破るチャンスを伺っている。

「くそ、どうしようもないってのか…!」

守るって、約束したのに。 才人の心が、悔しさに震える。ガンダールヴの印が、それに反応して光り輝く。 その瞬間。 才人の目に、タバサの額の印が目に入る。 才人の中の『ガンダールヴ』が才人の本能に訴えていた。 武器を取れ。武器を取れ。 汝は神の盾、ガンダールヴなり。 あらゆる武器は、汝が意のままに。 才人はデルフリンガーをその場に置いて、歩き出した。タバサに向かって。

586 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:06 ID:gEaALK0e 「どうしたっ?相棒!」

デルフリンガーの呼びかけにしかし、才人は応えない。 ガンダールヴの印が眩いほどに光り輝き、才人は操られるようにタバサの額にかかった髪を漉き上げる。

「サイト…?」

タバサは才人の不意の行動にしかし、身体を包み込む倦怠感のせいで、身動きを取れないでいた。 そして。 才人は、タバサの額に刻まれた雪の刻印に、そっと口付けた。 その瞬間。 まるで操り糸が切れたように、才人の身体が崩れ落ち、そして。 タバサの体が白く輝きだし、その身体が弓なりに反る。そしてその手から大きな杖が落ちる。

「な、何…?」

呪文の詠唱も忘れ、ルイズはその光景に見入る。 タバサの髪が光と同じ白に染まり、その周囲に、白い霧のようなものが覆う。 ゆっくりと、白い霧に包まれた白髪のタバサは目を開ける。

「だ、大丈夫、タバサ…?」

ルイズの呼びかけに、タバサはルイズを見つめて、言った。

「もう、大丈夫だから」

そして、タバサが手を振ると、周囲を覆っていた竜巻が掻き消える。

「…な!」

ルイズが驚愕したその瞬間に、好機と見たオルトロスは、まず目標であるルイズに飛び掛った。 しかし。

「させない」

その瞬間、二体のオルトロスに向かって、タバサは両手を伸ばした。 タバサの腕の周囲を覆っていた霧が、まるで流れるようにオルトロスを覆う。 そして次の瞬間。 まるでガラス板を叩き割ったような音が周囲に響き渡った。 その音と同時に、二体のオルトロスは真っ白になり、地面に落ちる。 二体の白い彫像の足が地面に着いた瞬間、陶器を地面に叩きつけたような音を立て、粉々になった。 残った本体にも、大小のヒビが入っていた。 それを冷ややかにタバサは見下ろし、その頭部を容赦なく踏み潰す。 オルトロスの頭部はあっさりと砕け散った。

「…終わった」

白髪のタバサはそう言った瞬間。 まるで、操り人形の糸が切れたように、その場に崩れ落ちる。 崩れ落ちた瞬間に霧は消えうせ、タバサの髪も元の青い髪に戻っていた。

「ちょっと、大丈夫っ!?」

そのタバサを、ルイズが抱き上げた。

587 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:53 ID:gEaALK0e このときの出来事を、デルフリンガーはこう分析した。 才人の中の『ガンダールヴ』が、使い魔であるタバサ自身の『力』を、『武器』と認識した。 そして、それを最も効率よくコントロールするため、潜在能力を限界まで引き出すため、使い魔の回路を利用して、タバサに乗り移ったのだ。 しかしこれは、非常に危険な行為だ。 もし、乗り移っている間に才人の体が死んでしまったら。 行き場をなくした力が暴走し、二人は力の暴走に耐えられず死に至るだろう。 長時間のこの『融合』は非常に危険な行為だと、デルフリンガーは考えた。

そして。 この後、デルフリンガーも予想できないとんでもない『融合』の副作用が才人を襲うことになる。

才人が気付いたのは、タバサの部屋のベッドの上だった。 重い頭を振り振り、才人は起き上がる。 その隣では、タバサが寝息を立てていた。 才人はほっとして、そして、もう一人あの場所にいた人物の事を思い出す。

「…ようやく起きたわね」

不機嫌そうに、言い放ったのは、ベッド脇の椅子に掛ける、才人の主人。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、その人だった。

「あの、その、ルイズ…」

何を言っていいのかよくわからない才人は、思わず口ごもる。 ルイズはそんな才人を見て、思う。 私は、才人とどうしたいんだろう。 ずっと一緒にいたい。この気持ちは変わらない。サイトは、私の一番だから。 そして、タバサの言葉を思い出す。

『私はサイトの命令ならなんだってできる。  身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない』

…姫様も言っていた。 忠誠には、それなりの対価を持って報いろ、と。 命を賭けて私を守ってくれるサイトに、私が、できる事。 それは…。 ルイズはそれを、口にする。

「サイト。私もあなたの使い魔にして」 「い?」

才人はあまりにも信じられないその言葉に、口を『い』の形にして固まってしまう。 その顔がちょっと気に障ったので、ルイズは思わず言ってしまう。

「な、何よその顔!私が使い魔じゃ不満なわけ!?」 「い、いやそういうわけじゃ…」 「そこのチビっこにだってできたんだもの!私にできないわけないじゃない!  いーからさっさとしなさいっ!」 「は、はぁ」

ルイズの妙な理屈と剣幕に押され、才人は三度、使い魔の契約の儀式を行った。 そして。 24-631 588 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:24:51 ID:gEaALK0e 「…いや、ほんっとーに前代未聞だな、相棒はよぉ」

青い髪と桃色の髪の二人の少女に抱きつかれたまま眠る才人を、壁に立てかけられた伝説の剣はそう評した。

「主人を逆に使い魔にしちまうなんざ、たぶんハルケギニアで最初で最後なんじゃねーかな」

うーん、と唸って寝返りを打ったルイズのうなじが露になる。 そこには、羽ばたく桃色の羽が刻まれていた。 それこそが、ルイズの使い魔の印。 ルイズが、才人の使い魔となった証だった。

「…でもひょっとして、使い魔じゃないのかもしらんね。  まあ、めんどいから使い魔でいいのか」

言って伝説の剣はカタカタと震える。笑っているように。

「さぁて相棒。たっぷり見物させてもらうぜ。  六千年生きてきて、こんなドタバタは初めてさね。ああ、楽しみだ楽しみだ」

伝説を常に見守ってきた語り部は、これからやってくる新たなる伝説に、存在しない胸を躍らせたのだった。〜fin