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92 名前: 魔法学院のクリスマス [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:47:21 ID:TwcAYAb8  雲ひとつ無い晴天。おそらく、しばらく続くと思われる良好の天気。少々肌寒いが、耐えられないことはない。  なんとなくノートパソコンを開いたのは、運命だったのだと思う。  まだバッテリーがあるんだなと感動すると同時に、向かわせた視線の先には、見慣れた日付。  ああ、こんな季節なんだなと思うと、サイトは無性に悲しくなった。  元の世界では、今頃バのつくカップルたちが、街に繰り出して聖なる夜を楽しんでいるのだろう。そして、その後は性なる夜に早変わりである。  ああ、にっくきクリスマス。  見慣れた日付は十二月二十五日。クリスマスと呼ばれる、モテナイ男たちが最も呪う日の一つであった。  だが、ここハルケギニアではそんなことは関係ない。今日が何らかの祝日ということはないし、いたって普通の虚無の曜日だ。休日であることを抜かせば、まったくいつもと変わらない。  だが、サイトは憂鬱であった。ここは異世界である。だが、サイトは日本人のモテナイ男の子である。クリスマスとなると、どうしても憂鬱になって仕方が無い。  はぁ、とため息をつくサイトを心配そうに見つめている少女が一人。  サイト付きのメイド、シエスタである。  サイトが開いたノートパソコンがとても珍しくて、サイトがいじる様子を隣で見ていたのだが、急にサイトの様子が変わってしまった。  憂鬱そうにため息をつき『全てのカップルに死を』という呪いの言葉を呟き続けている。  見かねたシエスタは、何とかしなければと口を開く。 「あの……ちょっと散歩でもどうですか?」  気分転換にでもなればと誘ってみる。すると、その誘いは予想以上に効果があったようで、サイトは二つ返事で了承してくれた。    学院の周囲をのんびりと歩く。  学院を出たのは夕方の少し前。少し歩くと、空はすっかり茜色に染まっていた。  二人の話題は尽きない。サイトのルイズに対する愚痴。シエスタのメイドたちでのサイトの評判。そして、今日は地球でなんという日か。 「クリスマス、ですか?」 「うん。俺のいた世界じゃ、今日はめでたい日でさ」  興味津々といった表情のシエスタが可愛くて面白くて、サイトは嬉しそうに説明を始める。自分に好意を寄せてくれている少女の喜ぶ顔を見るのは、何処か嬉しい。 「キリストっていう人の誕生日、ですか。そろそろ降臨祭ですから、ピッタリですね」  降臨祭、そういえばそんなのもあったなぁとサイトはボンヤリと思う。確か、降臨祭は日本の元旦みたいなものだったはず。こっちの世界でも、そろそろ年が過ぎようとしてるんだな、とのんびり思う。 「それで、そのクリスマスでは、どんな風に過ごすんですか?」 「ん〜、俺は別に普通どおりだったよ。まあ、他の人たちはパーティしたり、恋人たちで過ごしたり、それぞれで楽しんでたかな」  ちなみに、サイトの言う普通とは、部屋に引きこもって、何処かの掲示板に呪いの文句を書き綴るような過ごし方だったりする。モテナイ根暗なオタクの過ごし方としては、普通である。一般人からすればそれが激しくかけ離れていることは、言うまでもない。 「パーティですか……じゃあ、みんなで騒ぎますか?」 「え?」  シエスタの言葉に、思わずサイトは聞き返す。 「ですから、パーティです。きっと楽しいですよ」  シエスタの眩しい笑顔を見せられては、サイトは拒否することが出来なかった。  クリスマスパーティ。地球で、友人たちと騒いだ記憶が思い出される。  パイ投げならぬケーキ投げをやって、友人の親に叱られたのも、いい思い出だ。それ以降、その友人の家でクリスマスパーティは出来なくなったけど。  そんな懐かしい思い出に浸っていると、どうにも寂しさがこみ上げてくる。望郷の念が湧いてくる。ああ、駄目だ。こみ上げてきて止まらない。  そんな望郷の念を吹き飛ばすように、サイトは高らかに宣言した。 「よし、やろう!」 93 名前: 魔法学院のクリスマス [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:48:31 ID:TwcAYAb8  パーティをするには、準備が必要である。  誕生パーティにはケーキが付き物だし、バレンタインにはチョコが必要だ。当然、クリスマスにはもみの木が必要不可欠なのだが、あいにくここハルケギニアにはそんな木はないらしい。  仕方が無いので、学院の近くの森から、もみの木と形が似ている木を伐採して、クリスマスツリーとした。装飾はギーシュに任せる。時間がないのであまり期待はしていない。  シエスタはパーティの食事の準備である。ついでにということで、ティファニアも食事の準備を手伝っている。  それ以外はテーブルのセッティングなど、パーティ会場の準備をしている。天気は良好。雨も振らないだろうということで、外でやることに決めた。  力仕事はサイトやマリコルヌたち。テーブルの配置などや、どこに誰が座るかということをルイズやモンモランシーたちが決めていく。 「テーブルこっちで良いのか? ルイズ」 「違うわよ。もうちょっと奥……そう、そこ」  マリコルヌと二人で、最後のテーブルを運ぶ。テーブルの数は少ない。サイトとルイズ、シエスタやキュルケ、タバサにギーシュ他数人で行う、小さなパーティの予定だからだ。  急な決定でのパーティなので、大規模なものは出来ない。このくらいでちょうどいいのだろう。  そう、ちょうどよかったはずなのである。

94 名前: 魔法学院のクリスマス [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:49:03 ID:TwcAYAb8

「で、なんでこうなってるの?」 「知らないわよ」  アルヴィーズの食堂。そこにはサイトがデルフリンガーで伐採してきたクリスマスツリーらしきものと、それの数倍大きいであろう同じ種類の木があった。  もう片方のツリーにも装飾が施してあり、それはそれは見事なクリスマスツリーへと変貌している。  何故、見事なまでに装飾が施されているのだろうか。ツリーの上に星がついている部分など、完璧である。  食堂のテーブルの上には普段の食事からは考えられないような豪華な料理が多数並んでおり、見るだけで食欲を刺激する。シルフィードがいたら、周りの目を気にせずに頬張りそうだ。 「どうじゃ? おどろいたかの?」  満面の笑みを浮かべ、サイトとルイズに話しかけてくるオールド・オスマン。 「君たちがパーティを企画していると聞いてな。どうせじゃから派手にやったほうがいいじゃろ? 存分に楽しむといい」  どうやら学院中で噂になっていたらしい。ついでなので、学院全体でパーティをしようと決めたのだろう。それならば仕方が無い  オールド・オスマンが立ち去った後、サイトとルイズは談笑をしていた。話すのは主にサイト。内容は、クリスマスの過ごし方や、基本的な知識など。  クリスマスにはそれほど詳しくないので話せることは少ないが、それでも十分なようだ。異世界の祭りというのは、ルイズにとっては興味深いらしい。サイトも、ルイズにハルケギニアのことをよく質問するので、その気持ちはよくわかる。  サイトはもちろんだが、ルイズも好奇心は強いようだ。  ケーキにパイに、スープにサラダ。その他もろもろの大量の料理を前に、二人の食も進む。食も進めば話も進む。話題は尽きることが無く、二人は二人だけの世界を構築する。  それを眺めている青い髪の少女が一人。黙々と強い苦味が特徴のサラダを食べながら、チラチラと二人を観察する。  そして、その光景を見てなにやら思案している赤い髪の少女が一人。親友の恋を成就させるためにはどうすればいいか、今も考え続けている。  色々な思惑はあるが、パーティは滞りなく進む。食も楽しく話も楽し。思惑もまた楽しいものである。  タバサがくいくいとサイトのすそを引っ張ってアピールすると、ルイズがサイトの腕を取って移動しようと急かす。  タバサがルイズを睨むと、ルイズは杖を取り出し始める。  サイトが止めると、二人はしぶしぶ怒りを収める。  一部の空気が非常に冷たいが、パーティは滞りなく進んでいる。  ざわざわと生徒や教師の話し声でうるさい食堂に鳴り響く楽師による演奏。それに伴って壇上に出てくるのは、偉大なる学院長であるオールド・オスマン。全身を真っ赤な服と真っ赤な帽子で覆っており、その姿はなんとも滑稽だ。  真っ赤な服。見覚えのある服。ああ、そうか。サイトは納得した。  異世界の恩人の話は、以前にも聞いた。だが……異世界の友人がいないとは話していない。  余りにも似合いすぎているオールド・オスマンの格好。それを誰が置いていったのかは、地球人であるサイトにはすぐにわかった。  それは、御伽噺の存在としか思われていない老人。御伽噺の存在は、御伽噺のこの世界で、存在していたらしい。どうなったのかは、おそらくオールド・オスマンも知らないだろう。  オールド・オスマンの長い挨拶も終わった。そして、オールド・オスマンは壇上の上からサイトに笑いかけた。サイトが察したことに、気づいたようだ。  ならば、最後の一言は決まっている。しばらく言っていなかった、あの挨拶。 「メリークリスマス」  オールド・オスマンと一緒に、サイトも呟く。  さあ、パーティは始まったばかり。まだまだ楽しもう。  聖なる夜は、まだ終わらない。