「なるほどねぇ…」
愛佳からの話を聞いた衣梨奈は、絵里にそれを伝えた。
話している中で、絵里が絵里ではないことがバレてしまったことを伝えるか否か、衣梨奈は悩んだ。
しかし、黙っていても話がこじれることは目に見えていたので、衣梨奈は正直に話した。
話している中で、絵里が絵里ではないことがバレてしまったことを伝えるか否か、衣梨奈は悩んだ。
しかし、黙っていても話がこじれることは目に見えていたので、衣梨奈は正直に話した。
「いや、えりぽんの判断は正しかったと思うよ」
「そう…ですかね?」
「いずれはちゃんと、話さなきゃいけないかもしれないことだしね」
「そう…ですかね?」
「いずれはちゃんと、話さなきゃいけないかもしれないことだしね」
そうして絵里は衣梨奈のベッド、いまは自分が使っているベッドにボフっと寝転がった。
正直、想定外ではあったが、愛佳に責められては、打つ手としては正解だったと言える。
れいなからも似たような質問をされていたのでは、もう誤魔化しようもなかった。
そうであるならば、「嘘を重ねる」よりも、「真実を隠した」方が無難ではあるだろう。結局、騙していることに変わりはないかもしれないが。
正直、想定外ではあったが、愛佳に責められては、打つ手としては正解だったと言える。
れいなからも似たような質問をされていたのでは、もう誤魔化しようもなかった。
そうであるならば、「嘘を重ねる」よりも、「真実を隠した」方が無難ではあるだろう。結局、騙していることに変わりはないかもしれないが。
「光井さんの言っていた、自分への変化とか、ありますか?」
衣梨奈にそう言われ、絵里はしばし考える。
自分の体に起きた変化。
別人の体内に入るわけだから、それ相応の変化はあるのだが…さて、いったい此処になにがあるというのだろう。
自分の体に起きた変化。
別人の体内に入るわけだから、それ相応の変化はあるのだが…さて、いったい此処になにがあるというのだろう。
「最近ね…」
「はい」
「笑い方とかが似てきたかも」
「……私とですか?」
「はい」
「笑い方とかが似てきたかも」
「……私とですか?」
衣梨奈に訊ねられ、絵里は頷く。
衣梨奈の母親と一緒に過ごす時間が増えたからか、微妙に博多弁も交りつつある。
だが、笑い方に関してはなぜだろう、どこから学習したわけでもないのに、なぜか変化が生じていた。
こんなところで「同化現象」が始まっているのだとしたら、一刻も早く戻る必要がある。
それ以外になにかないだろうか、もっとプラスに転じられるような、なにか―――
だが、笑い方に関してはなぜだろう、どこから学習したわけでもないのに、なぜか変化が生じていた。
こんなところで「同化現象」が始まっているのだとしたら、一刻も早く戻る必要がある。
それ以外になにかないだろうか、もっとプラスに転じられるような、なにか―――
「あ……」
ひとつ、思い当たる節はあった。
だが、果たしてそれを言葉にして良いのだろうか。
入れ替わった本人のいる前でそれを言うことが吉になるとは思えない。
絵里は、不思議そうに見つめる衣梨奈に「なんでもない」と返し、ひと息ついた。
思いつくままに話すのも、あまり得策ではないかもしれないと、今度は衣梨奈に返す。
だが、果たしてそれを言葉にして良いのだろうか。
入れ替わった本人のいる前でそれを言うことが吉になるとは思えない。
絵里は、不思議そうに見つめる衣梨奈に「なんでもない」と返し、ひと息ついた。
思いつくままに話すのも、あまり得策ではないかもしれないと、今度は衣梨奈に返す。
「えりぽんは?」
「…そうですね……」
「…そうですね……」
絵里に聞かれ、衣梨奈もしばし考えた。
愛佳に言われた言葉が頭をよぎる。元の自分ではなく、亀井絵里として生きてきたことで生じた変化。
愛佳に言われた言葉が頭をよぎる。元の自分ではなく、亀井絵里として生きてきたことで生じた変化。
「……よく眠れます」
「それ、最初に入れ替わったときも言ってたね」
「それ、最初に入れ替わったときも言ってたね」
絵里はそうしてクスッと笑った。
確かに彼女は、入れ替わった初日からよく眠っている。
亀井絵里として生きてきた時も、本当に自分はよく眠るとは実感していたが、これはどうも体質のようだ。
そんな睡眠体質、あっても別に嬉しくはないのだが。
確かに彼女は、入れ替わった初日からよく眠っている。
亀井絵里として生きてきた時も、本当に自分はよく眠るとは実感していたが、これはどうも体質のようだ。
そんな睡眠体質、あっても別に嬉しくはないのだが。
「あとは……」
そう言いかけて、止まる。
愛佳の家に行った時も感じた、亀井絵里になってからの衣梨奈自身の変化。
「なにか」というのは明確には言い表せられないのだけれど、確かに衣梨奈の中で変化が起きている。
いったいそれがどういう意味を持っているのかは、衣梨奈には分からない。
ただ、絵里になってからというもの、衣梨奈の心の中にはひとつ、ハッキリと見えたものがあった。
愛佳の家に行った時も感じた、亀井絵里になってからの衣梨奈自身の変化。
「なにか」というのは明確には言い表せられないのだけれど、確かに衣梨奈の中で変化が起きている。
いったいそれがどういう意味を持っているのかは、衣梨奈には分からない。
ただ、絵里になってからというもの、衣梨奈の心の中にはひとつ、ハッキリと見えたものがあった。
「……怒らないでくださいね」
「うん」
「……モーニング娘。に、戻りたいって気持ちが、強くなってます」
「うん」
「……モーニング娘。に、戻りたいって気持ちが、強くなってます」
こんなこと、絵里に言うことは筋違いかもしれないが、言わずにはいられなかった。
モーニング娘。に加入し、楽しいことばかりではなかった。
覚えることはたくさんあったし、先輩たちにもたくさん叱られたし、出来が悪い自分を不甲斐なくも思った。
でも、メンバーと一緒に活動して、ファンの前に立って歌って踊るあの時間はとても楽しかった。
朝早起きして、生放送の番組に出て、噛みながらもお天気を読むのだって、緊張するけど、とても楽しい。
毎日が充実していて、新しい刺激に満ちていて、もっと上に行きたいって思っていた。
亀井絵里としての生活を否定するわけではない。ただ、いきなり「1」が「0」になった現状が、不安だった。
モーニング娘。に加入し、楽しいことばかりではなかった。
覚えることはたくさんあったし、先輩たちにもたくさん叱られたし、出来が悪い自分を不甲斐なくも思った。
でも、メンバーと一緒に活動して、ファンの前に立って歌って踊るあの時間はとても楽しかった。
朝早起きして、生放送の番組に出て、噛みながらもお天気を読むのだって、緊張するけど、とても楽しい。
毎日が充実していて、新しい刺激に満ちていて、もっと上に行きたいって思っていた。
亀井絵里としての生活を否定するわけではない。ただ、いきなり「1」が「0」になった現状が、不安だった。
「えりぽんは、モーニング娘。が大好きなんだね」
自然と泣きそうになっていた衣梨奈の頭の上に絵里の優しい手が降って来た。
絵里は優しく微笑んで、衣梨奈の頭を撫でる。
何処かしらの寂しさを含んだその笑顔は、まるで「ごめんね」と言っているようで、衣梨奈はそれが申し訳なくなる。
絵里は優しく微笑んで、衣梨奈の頭を撫でる。
何処かしらの寂しさを含んだその笑顔は、まるで「ごめんね」と言っているようで、衣梨奈はそれが申し訳なくなる。
本当に、戻る方法なんてあるのだろうか。
絵里と衣梨奈に起きた変化の中に、解決の糸口が見つかるのだろうか。
絵里と衣梨奈に起きた変化の中に、解決の糸口が見つかるのだろうか。
このまま、一生を終えてしまうことだってあり得るかもしれない。
先の見えない未来をどう進んでいけば良いのかが、分からない。
自問自答したところで、解決策が見当たるわけではない。
先の見えない未来をどう進んでいけば良いのかが、分からない。
自問自答したところで、解決策が見当たるわけではない。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
助けてほしかった。
だれか、だれかと、いるはずのない救世主をふたりは探していた。
こういう時にこそ、かみさまは必要なんじゃないかと天を仰いだ。
だが、そこにあったのは青空でもなく、ただの白い天井と蛍光灯だけだった。
だれか、だれかと、いるはずのない救世主をふたりは探していた。
こういう時にこそ、かみさまは必要なんじゃないかと天を仰いだ。
だが、そこにあったのは青空でもなく、ただの白い天井と蛍光灯だけだった。
どうしようもないほどの絶望が襲いかかってくる気がした。
勝ち目のないこの現状を、打破することなどできるのだろうかと、それでも鼓舞するように、絵里は衣梨奈の肩を叩いた。
勝ち目のないこの現状を、打破することなどできるのだろうかと、それでも鼓舞するように、絵里は衣梨奈の肩を叩いた。
奇しくも今日は12月15日。
1年前、絵里がモーニング娘。を卒業したその日だった。
1年前、絵里がモーニング娘。を卒業したその日だった。