ガンッ!
「いったぁ~い!」
絵里はメイク台に思い切り額をぶつけ悲鳴をあげた。
よりにもよって角だよ角。心の中でぼやきながら、絵里は鏡でぶつけた額を確認した。
鏡に映る生田衣梨奈の姿の自分と背後にいる呆れたような表情の聖の姿を見て、そこでようやく絵里は「はて?」と首をひねった。
絵里はメイク台に思い切り額をぶつけ悲鳴をあげた。
よりにもよって角だよ角。心の中でぼやきながら、絵里は鏡でぶつけた額を確認した。
鏡に映る生田衣梨奈の姿の自分と背後にいる呆れたような表情の聖の姿を見て、そこでようやく絵里は「はて?」と首をひねった。
「えええええ?!」
思わず声をあげて口を押える。
またえりぽんに戻ってるじゃん。さっきまでステージで本来の自分、亀井絵里として歌ってたのに。
絵里はがっくりと肩を落としかけてハッとした。慌ててモニターを確認する。
ステージではちょうど2曲目のパフォーマンスに入るところだったが、衣梨奈の動揺がモニターを通しても見てとれる。
「亀井さん、どうしたんだろ?1曲目が終わった後から急にそわそわしちゃって」
聖が心配そうにモニターを見ている。
絵里も心配でいてもたってもいられず、すぐにでも袖に行って衣梨奈を励ましたかった。
でも。と、絵里はその気持ちをぐっとこらえた。
ここをひとりで乗り越えればあの子はまた成長する。あの子なら最後までやり切れる。
手を差し伸べるだけでなく、時には信じて見守ることをしなければ後輩は育たない。
頑張れ、えりぽん。絵里は祈るような思いでモニターに映る衣梨奈を見つめた。
またえりぽんに戻ってるじゃん。さっきまでステージで本来の自分、亀井絵里として歌ってたのに。
絵里はがっくりと肩を落としかけてハッとした。慌ててモニターを確認する。
ステージではちょうど2曲目のパフォーマンスに入るところだったが、衣梨奈の動揺がモニターを通しても見てとれる。
「亀井さん、どうしたんだろ?1曲目が終わった後から急にそわそわしちゃって」
聖が心配そうにモニターを見ている。
絵里も心配でいてもたってもいられず、すぐにでも袖に行って衣梨奈を励ましたかった。
でも。と、絵里はその気持ちをぐっとこらえた。
ここをひとりで乗り越えればあの子はまた成長する。あの子なら最後までやり切れる。
手を差し伸べるだけでなく、時には信じて見守ることをしなければ後輩は育たない。
頑張れ、えりぽん。絵里は祈るような思いでモニターに映る衣梨奈を見つめた。
衣梨奈は心の準備もできないままに突然ステージに立つことになり、動揺する気持ちを落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返した。
司会のまことが声を出さずに「大丈夫か?」と問いかけたのに何とか頷き、マイクを握る。
動揺している暇はない。今は自分のパフォーマンスに集中しよう。
きっかけのリズムが鳴り、衣梨奈は2曲目に選曲した真野恵里菜の『My Days for You』を歌い始めた。
司会のまことが声を出さずに「大丈夫か?」と問いかけたのに何とか頷き、マイクを握る。
動揺している暇はない。今は自分のパフォーマンスに集中しよう。
きっかけのリズムが鳴り、衣梨奈は2曲目に選曲した真野恵里菜の『My Days for You』を歌い始めた。
この曲はファンの人への感謝の気持ちを込めて歌ってるって真野さんは言ってたっけ。
自分なら今誰に今一番感謝の気持ちを伝えたいかと言えば、亀井さんだ。
自分だって生田衣梨奈としての生活が長くなってこの先が不安なはずなのに、いつも近くで励ましてくれた亀井さん。
衣梨奈は絵里への感謝の気持ちを込めて歌った。
自分なら今誰に今一番感謝の気持ちを伝えたいかと言えば、亀井さんだ。
自分だって生田衣梨奈としての生活が長くなってこの先が不安なはずなのに、いつも近くで励ましてくれた亀井さん。
衣梨奈は絵里への感謝の気持ちを込めて歌った。
最後のダンス課題曲にはスマイレージの『有頂天LOVE』を選んだ。亀井絵里の選曲としては意外に思われるかもしれなかったが、得意な曲という点を重視した。
『有頂天LOVE』を完璧に踊る亀井絵里の姿に会場からは最初驚きの声があがったが、それもすぐに歓声に変わった。
2回起こった絵里と衣梨奈の短時間の入れ替わりもその後は再発しないまま、衣梨奈は3曲目のダンス課題曲のステージを終えた。
『有頂天LOVE』を完璧に踊る亀井絵里の姿に会場からは最初驚きの声があがったが、それもすぐに歓声に変わった。
2回起こった絵里と衣梨奈の短時間の入れ替わりもその後は再発しないまま、衣梨奈は3曲目のダンス課題曲のステージを終えた。
「亀井さん、ありがとうござました!続いては鞘師里保の登場です。どうぞ!」
里保がステージに登場し、1曲目に選曲したモーニング娘。の『Go Girl~恋のヴィクトリー』を歌い始めた。里保がこの世界を目指すきっかけとなった曲。原点に回帰した形だ。
ここ数作品のシングルでセンターポジションを務めていたという意識はひとまず置いて、モーニング娘。に加入した当時の初心に立ち返ってこの勝ち抜きバトルに臨んでいた。
続く2曲目は℃-uteの『Kiss me 愛してる』。歌唱、ダンスとともに表現力も要求されるこの曲を、里保は時に激しく時に大人びた表情を見せながら歌い踊った。
最後のダンス課題曲には同じく℃-uteの『涙の色』を選んだ。鋭いターンとダイナミックな動き、さらには指先の細やかな表現などポイントがいくつもありダンスの面でも難曲と言えるこの曲。
短期間でマスターするのは並大抵のことではなかったが、ダンスでは負けられないと練習した成果を里保はステージで存分に見せつけた。
里保がステージに登場し、1曲目に選曲したモーニング娘。の『Go Girl~恋のヴィクトリー』を歌い始めた。里保がこの世界を目指すきっかけとなった曲。原点に回帰した形だ。
ここ数作品のシングルでセンターポジションを務めていたという意識はひとまず置いて、モーニング娘。に加入した当時の初心に立ち返ってこの勝ち抜きバトルに臨んでいた。
続く2曲目は℃-uteの『Kiss me 愛してる』。歌唱、ダンスとともに表現力も要求されるこの曲を、里保は時に激しく時に大人びた表情を見せながら歌い踊った。
最後のダンス課題曲には同じく℃-uteの『涙の色』を選んだ。鋭いターンとダイナミックな動き、さらには指先の細やかな表現などポイントがいくつもありダンスの面でも難曲と言えるこの曲。
短期間でマスターするのは並大抵のことではなかったが、ダンスでは負けられないと練習した成果を里保はステージで存分に見せつけた。
二人のステージが終わり、審査に移った。
つんく♂さんは亀井さんと自分が一瞬元に戻っていたのを気付いただろうかと思いながら、衣梨奈は審査員席の様子を見つめた。
「審査結果が出たようですので、つんく♂さん発表をお願いします!」
まことに向かって軽く頷き、つんく♂はマイクを握った。
「まず亀井絵里の得点は…。歌唱9ポイント、ダンス8ポイント、表現10ポイント。合計27ポイント!」
思わぬ高得点に衣梨奈は目を見開いた。隣に立つ里保は厳しい表情になった。
「続いて鞘師里保の得点。歌唱8ポイント、ダンス10ポイント、表現8ポイント。合計26ポイント!勝者、亀井絵里!」
つんく♂さんは亀井さんと自分が一瞬元に戻っていたのを気付いただろうかと思いながら、衣梨奈は審査員席の様子を見つめた。
「審査結果が出たようですので、つんく♂さん発表をお願いします!」
まことに向かって軽く頷き、つんく♂はマイクを握った。
「まず亀井絵里の得点は…。歌唱9ポイント、ダンス8ポイント、表現10ポイント。合計27ポイント!」
思わぬ高得点に衣梨奈は目を見開いた。隣に立つ里保は厳しい表情になった。
「続いて鞘師里保の得点。歌唱8ポイント、ダンス10ポイント、表現8ポイント。合計26ポイント!勝者、亀井絵里!」
勝った…。衣梨奈は自分の得点が里保を上回ったことを知った瞬間、頭が真っ白になった。
里保に勝ちたいという思いでこの初戦に臨んではいたが、正直本当に勝てる確信はなかった。
実力では同期の中で里保が頭一つ抜けていることは外からモーニング娘。を見るようになって改めて感じていたから。
その里保を僅差とはいえ上回ったことは、途中心が元に戻って絵里が歌っていた時間があったとはいえやはり嬉しかった。
里保に勝ちたいという思いでこの初戦に臨んではいたが、正直本当に勝てる確信はなかった。
実力では同期の中で里保が頭一つ抜けていることは外からモーニング娘。を見るようになって改めて感じていたから。
その里保を僅差とはいえ上回ったことは、途中心が元に戻って絵里が歌っていた時間があったとはいえやはり嬉しかった。
ぼんやりと思いを巡らせていると、ふいに隣の里保に腰のあたりをつつかれて衣梨奈は我に返った。
「亀井さん、つんく♂さんの総評終わっちゃいましたよ。捌けましょ」
よほどぼーっとした顔をしていたのだろう。里保の呆れたような視線を避けるように、衣梨奈はそそくさとステージ袖に捌けた。
「亀井さん、つんく♂さんの総評終わっちゃいましたよ。捌けましょ」
よほどぼーっとした顔をしていたのだろう。里保の呆れたような視線を避けるように、衣梨奈はそそくさとステージ袖に捌けた。
ステージ袖では絵里が出迎えに来てくれていた。
「おめでと、えりぽん!それよりちょっといい?」
絵里は笑顔で衣梨奈に祝いの言葉をかけた後、衣梨奈の手を引いて人目につかない一角に連れて行った。
「おめでと、えりぽん!それよりちょっといい?」
絵里は笑顔で衣梨奈に祝いの言葉をかけた後、衣梨奈の手を引いて人目につかない一角に連れて行った。
「さっき元に戻りました、よね?数分だけど」
衣梨奈は絵里が口を開く前に気になっていたことを確認した。
絵里も「うん」と肯定して「どういうことだと思う?」と衣梨奈に意見を求めた。
「分かりません。さっきの数分間だけじゃ。ただ…」
「ただ?」
「ただ、今後もこんな風に一瞬だけ元に戻るという現象が起こる可能性があるので、いつ戻ってもいいように心構えはしておく必要があると思います」
衣梨奈の考えに絵里も同意した。
「そうだね。これは一歩前進したとも言えるし、もし次に同じことが起こったら前後の状況をできるだけ覚えておくようにしよう」
衣梨奈と絵里は頷き合い、控室へと戻っていった。
衣梨奈は絵里が口を開く前に気になっていたことを確認した。
絵里も「うん」と肯定して「どういうことだと思う?」と衣梨奈に意見を求めた。
「分かりません。さっきの数分間だけじゃ。ただ…」
「ただ?」
「ただ、今後もこんな風に一瞬だけ元に戻るという現象が起こる可能性があるので、いつ戻ってもいいように心構えはしておく必要があると思います」
衣梨奈の考えに絵里も同意した。
「そうだね。これは一歩前進したとも言えるし、もし次に同じことが起こったら前後の状況をできるだけ覚えておくようにしよう」
衣梨奈と絵里は頷き合い、控室へと戻っていった。