VIPロックマンまとめ

ロックマンX -4-

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 15:22:04.00 ID:aICqBPyB0

『エックス……』
北極の端。
戦闘終了から三時間後。エックスを迎えに来たヘリが着陸し、回転翼を回す。
ヘリの乗務員が救急キットやら、エネルギータンクをてきぱきと設置し、仮設のテント型待機所を作った。
エックスに声をかけるのは、その設備の一つである無線からだ。

「アイちゃん………」
『エックス。大体の話は、戦闘中の無線で把握している……その、なんだ……』
声の主、ライトは言葉を紡ぎづらい。

『彼女は……何者かの手によって、イレギュラーにされてしまったんだな………』
「その前に……人間が先にアイちゃんに酷い事をした……!! そうだろ!?」
エックスは自身の沈黙を、大声で破った。
『あ、あぁ……その事については、本部に問い合わせてる。ケイン博士も尽力をつくしてくれるそうだ』
エックスの怒りに、ライトの声は沈痛なものになった。

『その、彼女なんだが……彼女から、妙なチップを確認してな』
「…………………」
興味無いとばかりに、またも沈黙するエックス。

『どうも、まとも思考を分断したり、遮断したりする物らしくて……』
ライトは、気にせず続ける。喋るしか、何もないというのが本当のところなのだろうが。
『<怒り>と<憎しみ>のプログラムを解除する物でも、あるらしいんだ』
「まさか……」

『もともとは、極地基地の人間が彼女に暗い闇を植えつけたのだろう。だが、しかし……』
「アイちゃんから聞いたのは、『至極まともな事』を言ってるレプリロイドだと思ったけど?」
エックスらしくなく皮肉げに言った。
至極まともな事――薄汚い人間に復讐する事という事だろう。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 15:39:20.77 ID:aICqBPyB0

『そんな、エックス………』
ライトが悲しげに呟いた。
「はっきり言えば、ボクだってそのレプリロイドに賛同したいぐらいだ!」
エックスは、自分のやりきれない思いをライトにぶつけた。
「あんた達みたいに、小さな女の子によってたかって乱暴する奴らに尽くすぐらいならね!!」

「だいたい――」
『………グスッ………ヒック……そんな事……言わないでよぉ……ヒック……』
エックスの主張を妨げたのは、ライトのすすり泣く声だった。
「は、博士?」
エックスは怒鳴るのをやめ、落ち着きが無くなる。

『ひどいよぉ……そんな事……グスッ……いわれたらぁ………』
「あ、いや、その確かに……博士は悪くないですよね……その他の人間だって」
少し不本意な意見ではあるが、博士を取り持つエックス。

『ちゃんと説明してるのにぃ……ヒック………わたしだってぇ』
「ごめんなさい! ごめんなさい! ほら、ブーブーですよ! 泣くのはやめてくださぁい!」
映像通信では無いのだが、エックスはどこからか自動車の玩具を取り出し、自らの手のひらで動かした。





「落ち着きましたか? ボクは落ち着きました」
『すまん。取り乱した』
半時間ほどエックスは、泣き出すライトと格闘して、やっと勝利を収めた。

「チップの話を聞きましょう。それが本当なら、そのレプリロイドも許せない」
心を入れ替えエックスは険しい顔をし、虚空を睨んだ。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 16:08:52.69 ID:aICqBPyB0

『チップの形は、Σの文字に似た型でな。本部に検証を急がせているが、とにかく非合法の物であるのは確かだ』
シグマ。一瞬、何かがよぎったがエックスは気にしなかった。

「それで、みんなを操っていると……ヴァヴァもかな…………」
エックスは、この世界のどこかに居る同僚を思い出した。
『解らん。だが、高速道路の事件でも、すべてのイレギュラーにこのチップを確認した』

「という事は……解決しなければならない事は二つあるんですね」
エックスは玩具の自動車を放り投げ、無線に向き合う。
「アイちゃんに酷い事をした連中の処分――こちらは博士に任せます……本当は自分でやりたいけど」
『あぁ、任された』
ライトは厳粛に、その願いを聞き遂げた。

「もう一つは、チップの真意を緑のレプリロイドに聞く事」
『あぁ』
「ボクは、まだアイちゃんに声をかけておきながら、チップを使って操る意味が解りませんが――」
女性にも見える中世的なエックスの顔が、大きな決意に染まる。
「人間だって良い人はいる。それを皆殺しにするなんて酷い事は、ボクがさせません」
『エックス……』

「とにかく、本部に帰ります。――もう、泣かないで下さいね?」
エックスは子供にするような笑いを浮かべ、言う。
『…………バーカ』
ライトもふてくされながらも、どこか笑うような響きのある答えをした。



ヘリに乗り込むエックスの背に、ライトの独り言がテントに響く。
『一つ、疑問がある。情報部はアイシー・ペンギーゴが第13極地部隊の隊長を殺したと報告した』
『だが話によれば、実際に奴を殺したの緑のボディのイレギュラーだ』
『別に……それがどうこうって訳では無いんだが。どうも……」



46 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 16:40:48.63 ID:aICqBPyB0

北極の海を逆戻り。
エックスはハチ型ヘリに揺れ、冷たい北極が小さくなるのを眺めている。
迎えに来たヘリは三機。エックスは三号機に搭乗していた。
残りのヘリは護衛の意味とEタンクなどの物資が積まれている。

「それ、なんですか?」
ヘリのパイロットが、エックスが弄ぶ何かを見止め、声をかけた。
正方形の小さなチップ。ペンギーゴの記憶と記録、そして彼女自身だ。
「お守りです」
エックスは遠景から顔をそらさず、短く答えた。

「お噂は聞いています、エックスさん。B級でありながら、すごい活躍だとか」
「どう……でしょう? 活躍どころか、取り返しの付かないものを失ってると思いますが」
北極の海を抜け、大陸に差し掛かる辺りでまたも声をかけてきたパイロットに、エックスは自嘲するように言った。

「謙遜なんかしないで下さい。俺、エックスさんに感謝がしたいんです」
後半の部分は聞き取れなかったのか、パイロットのレプリロイドは朗らかに感謝の意を述べた。
「感謝、ですか……?」
エックスは予期せぬ言葉に目を白黒させながら、返答する。
「えぇ、高速の事件ですよ。あそこに俺の一人娘が居ましてね。あの駐車場でエックスさんが撃退しなければ、娘が居る道路までイレギュラーが来たって言うじゃありませんか」
「は、はぁ……」
撃退したのはゼロではないだろうか、とエックスは頭をよぎるが、パイロットの口は止まらない。

「家内を戦争で失っていましてね。俺にとって、娘はかけがえのない大切なレプリロイドなんです」
「そう……ですか」
かけがえのない、という所でエックスは身を引き裂かれる思いをした。
ヴァヴァ、ペンギーゴ。彼女達は何故、自分の敵になるのか。
「心から感謝します。エックスさん」
パイロットは操縦してる身でありながら、コクピットでお辞儀をした。



47 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 17:07:55.52 ID:aICqBPyB0

ヘリのルートは、森林の上を通過する形になっていた。
ロボット工学が進む現代に、今だ残る大自然。多種多様な木々と緩やかなカーブを描く川が美しい。

「Aランクも夢じゃないですよ――おっと通信」
パイロットは後ろのエックスに微笑みかけながら言い、操縦席の無線を受けた。

『三号機、聞こえるか』
「感度良好。おや、これはケイン博士。いかがいたしました?」
老体でありながら、威厳を全く損なう事のない声。険しい顔をしたケイン博士が映像通信に出た。

『諸君らの真下にある森林で問題が発生した』
針葉樹などの大木による緑の絨毯が地平線まで続く。

『どうやら森林を捜索していた部隊が遭難したらしい』
無線を良く聴く為、エックスは操縦席に身体をさし入れた。

『連絡が全く取れない状況で、本部は非常に困惑している。エックス君を向かわせてくれ』
「ご冗談でしょう? エックスさんは怪我をした状態で、その本部に帰投するんですから」
パイロットのレプリロイドは、少し憤慨したように反論した。
行きのヘリとオペレーターに比べ、かなり感情が豊かなレプリロイドである。

「ケイン博士」
エックスが声をあげた。

『怪我は北極の所であらかた修理したな。どうだろうか?』
「えぇ、問題ありません。部隊が遭難してるんですね」
エックスは両肩を竦め、青いボディを晒した。

『救助班を編成するにはイレギュラー事件も重なり、かなりの遅れがでている』
「行きましょう。ボクは構いません」
エックスは頷いた。パイロットは何かを言おうとしたが、結局、言葉としては出なかった。

『すまん。無理を言うつもりはないのだが』
表情の変わらないケインが言う。エックスは険しい表情しか見た事が無い。

「そうですか……解りました。全機、問題発生現場までルートを変更」
パイロットは諦め、機体を右方向に旋回させた。



51 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 17:38:45.46 ID:aICqBPyB0

「良いんですよ」
疑問気に見上げるパイロットに、エックスは笑みを返した。
ローターを鳴り響かせ、本部のルートを反れる森林の奥に向かう三機のヘリ。

『ここら辺だな』
巨大な滝を抜け、真下に熱帯林を控える所で二号機からの通信が入る。

『現場付近に到着』
先行していた一号機が前進を停止し、三機共にその場でホバリングする。

『探すったって、どこから――』
一号機の愚痴は、乱入した緊急通信によって遮られた。

『た、助けてくれ!! イレギュラーが……クソっ!』
切羽詰った声が、操縦席に響く。

「調査班か!! おい、大丈夫か!?」
『俺達………捜索隊は、洞窟付近の草原に……早く』
パイロットの声が聞こえないのか、遭難者は自分等の居場所を苦しげに呟く。

「急ぎましょう!」
ブツンと鈍い音を立て切れる通信に、エックスは焦った声で叱咤した。
三機は高度を下げ、慌ててその草原とやらに発進する。速度を上げて突き進むハチの影。

すぐにその草原というのは確認できた。
山を抉る洞窟の前に、大きく開ける草原。手付かずの遺跡の痕跡が、黄緑の広場に散らばっている。

『攻撃を受けている様子は無いが……』一号機が呟く。
『辺りを捜索――っ!?』

「遭難者は無事でしょうか……」
エックスは心配げに、パイロットに問いかけた。

「大丈夫ですって、いざとなったらエックスさんが――」
『三号機!! 高度を上げろ!!』
パイロットの言葉を絶叫で遮断した二号機は、空中で爆発し、破片と炎で草原を真っ赤に染めた。



57 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 18:07:21.53 ID:aICqBPyB0

突然の事態に、驚く三号機の二人。

『――こいつは! 三号機、直ぐに――』
一号機は三号機に注意を促し、そして下方から飛来した『棘』に貫かれた。
貫通し、一瞬だけ全ての動きが止まるヘリ。遅れて爆発しながら重力に引かれ、二号機と同じ運命を辿った。

「な、なにが………」
『間抜けがノコノコやってきた! 馬鹿を引き連れ、やってきた! いやっほう!!』
呆然とするエックスに、緊急通信がかかる。

『救助の通信をしたのは、この俺様さ! 天才的な俺様さ! きゃっほう!』
『第9レンジャー部隊所属、スティング・カメリーオを確認』

『あれあれ、何か悩んでる? お悩みかい? だが、安心しな――』
洞窟から、歩んでくるレプリロイド。その姿はカメレオンの様をしていた。

『死んだら、全て解決するぜぇ!! いっーやっほう!!』
カメリーオは予備動作無しに跳躍し、なんとヘリの操縦席に張り付いた。

「こんちは!!」
左右非対称に回す両目を持つメットが、フロントガラスいっぱいに広がる。
濃緑のカラーのボディの下に、機嫌良く揺れる尻尾。その尻尾の先には無数の棘があり、これでヘリを撃墜したのだろう。

「エックスさん、降りて!!」
前に居るパイロットが叫ぶ。

「え!? あ、あなたは!?」
「俺は大丈夫です! ヘリのパイロットのプロですよ? さぁ、先に下りて!!」
エックスの疑問の声にこの状況でも笑いかけ、レプリロイドは機体を斜めに揺らした。
急激に傾く機体。エックスは足元を取られ、機体から身を投げ出される。――数メートルの落下。

「パイロットさん!?」
落下し、地面と接触と同時に回転しながら止まるエックス。

エックスの問いは、三号機の爆破で答えられた。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 19:24:34.16 ID:aICqBPyB0

機体の破片が散乱し、全てが分解。
火炎と一緒に、焼け焦げたヘリとパイロットの残骸が草原に降り注いだ。

「………なんて酷い事を!」
先ほどまで喋っていたパイロットを思い出し、エックスは空に向かって怒鳴った。

「はーい!!」
能天気な声と共に、濃緑でカラーしたレプリロイドが降ってきた。

「やっほー、元気ー?」
「ふざけないでください!!」
一喝し、カメリーオの馬鹿にした挨拶を一蹴した。

「あーあー、これ? 俺様の戦果の事? 仕方ないじゃないか、君と二人きりになりたかったんだからさぁ!!」
戦闘用の腕がカメレオンのメットが取り、普通のレプリロイドよりかはボケた感じのする少女の顔が現れる。

「きゃー言っちゃった、言っちゃった!」
ニヤリでは無く、意外にも可愛らしくニンマリとしながらカメリーオははしゃぐ。
それと一緒に、髪型のポリシーなのか右だけにある小さな三つ網が揺れた。

「は、はい?」
意味が解らず、この状況の中でエックスは困惑する。

「俺様ことボクは、エックス君。君に用があったのだ!! いやっほう!」
三つ網と尻尾が揺れる。カメリーオは、倒れるエックスを見下した体勢から、飛び跳ねながら踊った。
着地から、身体を地面に引き剥がす事が出来ないエックス。下手に動けば、どうなるのであろうか。

「ボクことワタシは、第9レンジャー部隊! きっての実力者!!」
三つ網が揺れる。

「なのに本部はこう言った! 泣き出すワタシに、ハンター組織はこう言った!」
踊るのをやめ、カメリーオは大人になれない顔を近づける。

「野心家で毒舌! 狡猾な性格! 人望が薄い嫌われ者! 隊長になる資格は無いってさ! ひゃっほい!」
「自分を評価しなかったハンター組織へ復讐するために、イレギュラーになったと?」
自分にある喜劇を話したいのか、悲劇を話したいのか解らないカメリーオにエックスは疑問をぶつける。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 20:32:46.24 ID:aICqBPyB0

「そういう事さ! よくある事さ! いつだって! 誰だって!」
時計の振り子のように、揺れる小さな三つ網と武器である尻尾。

「ありません!! ボクに用があるなら、ボクだけ呼べばいいじゃないですか!!」
「憎むべき組織!! 憎むべき隊長!! こいつらには、一泡ふかせなければならないね!! だよね!」
エックスの怒れる顔から離すと、またも踊りだすカメリーオ。

「そのためには、エックス!! 君が、必要だい!! 必要不可欠なんだい!!」
踊りの最中で、カメリーオは回転し、同時に尻尾を振り薙ぐ。
ボディに引かれる尻尾。その先から無数の棘――カメレオンスティングが発射された。

エックスは地面を蹴り上げ、慌てて伏せの体勢から飛び上がる。
高速で飛来した緑に光る棘は、地面を虚しく貫いた。
エックスは跳びながら射撃。カメリーオの頭部に向けるが、カメリーオも逸早く跳び下がっていた。

「本部から評価されている、お前を殺せば!! 本部も納得!! 納得した本部を、俺様が壊滅!!」
遺跡の一部であった柱だけの建造物に逃げ込んだカメリーオが、叫びながら射撃。

「一人称を定着して下さい!!」
間合いを取る為、カメリーオから離れるエックスが、それを撃ち落としながら叫んだ。

「ちょっと傷ついた!! ボクの涙の分だけ、死ね!!」
傷ついたといいながら、微笑むカメリーオはカメレオンスティングを草原に撒く。
矢尻状に飛ぶ棘を、エックスはバスターを連射し、軽々と全てを弾く。

「これでレンジャー部隊? なんだか手ごたえが無い気が……」
呟くエックス。またも急接近する凶器をエネルギー弾が弾いた。
弾いたそばから、棘が降りかかる。

エックスは急旋回し、目標を失い地面に刺さるスティングを無視して、カメリーオに向かって走った。
数百メートルの距離を駆けるエックス。撒かれるスティングはジグザグに走行し、いとも簡単に避けた。



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/10/07(土) 21:09:03.79 ID:aICqBPyB0

「うわぁ、愛の突進だ!!」
カメリーオは飛び上がり、立ち位置から離れようとするが、もう遅い。
エックスは、ダッシュ中にチャージされたバスターをカメリーオに向け、放つ。
遺跡の柱も爆散させながらも、エネルギー弾は突き進み、カメリーオのボディに当たった。

「……いたいいたい」
カメリーオは吹き飛ばされ、地面に転がる。

「こんなはずじゃ………マンドリラーの姐さーん!!」
脇腹の被弾箇所に手を当てながら、カメリーオは助けを呼んだ。

「馬鹿が……自分で殺ると言っておきながら。とことん使えん奴だ」
不機嫌な声が聞こえたと、意識する前にエックスはカメリーオから離れた。
何かが降り注ぎ、辺りを爆撃する。

吹き上がる土くれ、捲れあがる地表。
エックスは我武者羅に逃げる。

「面倒だから、早めにカタを付けるぞ。恨むな、エックス」
ハスキーな声がかかり、大きな人影が現れる。

『第17部隊所属特A級ハンター、スパーク・マンドリラーを確認』
ピンク色の電撃を両腕に纏いながら、突き進むレプリロイド。
マンドリル型のイレギュラーが、同僚のエックスに向かってエレクトリックスパークを放った。

「お姉さん――ぐっ!!」
雷の球体は、反れる事無くエックスに真っ直ぐ飛び。驚愕していたエックスに直撃した。

『機体異常を報告。ボディ、動作不能。再活動まで――無線サービスダウン』
「簡単だったな。面倒じゃなくて良かった」
満足したのか、マンドリラーの胸部部分が開き、中からピンクの長髪で片目を隠した女性が現れる。

「森林は大嫌いだ……暑くて面倒だからな。クーラーの効く発電所に戻りたい」
継続して雷が纏う青いボディを見つめながら、マンドリラーは右手で自らの顔を扇いだ。



148 名前:Irregular’s Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 21:40:34.76 ID:aICqBPyB0

「おなかが減ったから、電気だ。――おい、使えない奴。電気だ」
「えぇ!? ここ、熱帯雨林!! 電気なんか、ねぇ!! ……………な、ないですよ!!」
こちらも余波で倒れていたカメリーオが、飛び跳ねながら抗議する。

「本当に使えない……暑い」
マンドリラーは失望したように言い放ち、扇がない腕でボディを探ると、団扇を取り出した。

「死んではないな。だが、悪いがここをお前を打ち倒せと命令を受けた」
マンドリラーがボディの両腕に力をこめ、エレクトリックスパークを溜める。

「弟のような奴だったが、それ以前に私は17部隊のレプリロイドだからな」
特に感情のこもらない顔で、マンドリラーは言った。

「さらばだ」
「待ちな」
突然、上空からかけられた声に、凍ったように動作を急停止するマンドリラー。
マンドリラーが空を見上げる前に、何かのタンクが投げつけられる。名称には『液体窒素』と表記されていた。

やっ、とマンドリラーがらしくなく小さく悲鳴をあげるまえに、上からのバスターがタンクを貫通。
そして、物理的に凍る。

「うぉぉぉ!! やっぱり凍った!!」
『バラストタンク、オイルタンク、共に凍結。動作不可能』
「黙れ! そんな事は解っているんだ! 馬鹿AIめ!」
ガチャガチャと操縦桿を振り回すが、マンドリラーのボディは微動だにしない。

「二対一とか、卑怯だぜ? イレギュラーさんよ」
混乱するマンドリラーを馬鹿にした声が、空から降りた。

「お前は…………ゼロ!?」
凍りつき、指一本すら動かせないボディに入る少女が乱入者の名を叫んだ。

『動作不可能』
「黙れ!!」
叫ぶ、マンドリラー。だが、ゼロに遅れ降り立った鷲型のレプリロイドの姿にまたも凍りついた。



170 名前:Irregular’s Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 22:19:56.28 ID:aICqBPyB0
「もう、やめてやってくれ。マンドリラー、カメリーオ」
『第7空挺部隊元隊長、ストーム・イーグリードを確認』
羽ばたきながら、地面に降下したレプリロイド。
ワシの形のメットの下にある藍色をしたポニーテールが風に揺れ、金色の二つの瞳が悲嘆に揺れた。

「イーグリード!! 貴様!!」
マンドリラーが尚も操縦桿を振り回しながら、激しく詰問する。

「――デスログマーはどうした!? 与えられた計画は!?」
疑問を目前のイーグリードに叩きつけるが、その本人は地面にうつむき答えない。
その態度がマンドリラーの怒りを誘い、操縦桿を更に動かした。

「なるほど……そうか。貴様等は友人関係だったな!」
合点がいったのか、マンドリラーは勝ち誇ったように、自分の推理を叫んだ。

「ゼロめ!! どこまでも、私らの邪魔をしおって!!」
「おいおい。俺が悪いのかよ……」
腕を組み突っ立つゼロが呆れたように呟いた。

「たぶらかし、そちら側に引き込むとは――ふざけおって!!」
怒り狂ったマンドリラーは、団扇を二人に投げつけるが、形状のせいか届かない。

「女が女をたぶらかして、何が楽しいんだよ。たぶらかすなら………なぁ?」
意味ありげに笑い、顔を倒れるエックスに向ける。

「ゼロ……」
感電から、若干復活したエックスが苦しげに答える。

「無事かよ、お人よし。……全く無茶しやがって。俺がいなきゃ駄目だな、お前は」
流れる長髪をかき上げながら、ゼロはニヤリとした。

「ボクを忘れないで!! といいながら、暗殺!!」
事態を伺っていたカメリーオが、飛びながら緑に光る棘を発射した。
高速の凶器。それら全てが、巻き上がる竜巻に吹き飛ばされた。

「弱点なのに………ブーメルさんみたいに、うまく暗殺できないね!! だね!!」



188 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 22:51:53.59 ID:aICqBPyB0

「やめな、カメレオン。俺は容赦しないぜ?」
「まだ、メットの舌って攻撃があるよ!! でも、やめる!! ………や、やめます!!」
事の渦中にいる4名から離れ、倒壊していない遺跡の柱に張り付くカメリーオ。
それに向け、ゼロは笑いながらバスターの照準を合わせた。

「殺れ、カメリーオ!! 死ぬまで、攻撃しろ!! 動けぬ私の代わりに!!」
『動作不能』
「何故だ!!」
操縦桿と無線と格闘するマンドリラーは気付かない。
自分の顔を。自分の身体を。そして、この大草原を覆う黒い影。

「ぬにに!! 姐さん!! 姐さん!!」
「何だ、電波!! 私は忙しい――」
マンドリラーは、辺りが薄暗くなっている事にやっと気付く。
慌てて胸のスイッチを押し、ボディに並ぶライトを光らせた。

ペカペカと、赤、青、黄に移り変わる景色の真上。
ゼロが勝ち誇ったように、右手の人差し指を挙げた。

「お前の言ってた奴だよ。これ見て、帰りなダイナモ女」
旗艦デスログマーがその常識を超えた巨大さで、全てを覆い隠していた。
エックスが驚く。マンドリラーが、悔しげに唸る。
突風に揺れるポニーテールを抑える、イーグーリードはずっと悲しげだった。

唸りにも聞こえる突風の中で、舌打ち。
カメリーオだけが、普段の姿とは思えぬ険しい顔し、本当に忌々しげに舌を打った。

「どうするよ、スパーク・マンドリラー。まだ、やるのか?」
ゼロの背中に、降下してきたデスログマーのハッチが垂れ下がる。
イーグーリードは、悲しげにマンドリラーを見ながら、エックスを抱き上げた。



200 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/07(土) 23:21:21.64 ID:aICqBPyB0
「………行け。どこへでも……クソッ、忌々しい私のボディ」
首を逸らし、ふてくされるようにマンドリラーは吐き捨てた。

「では、お言葉に甘えて」
その言葉に満足したゼロは、いち早くハッチに乗り込む。

「マンドリラー……私は」
エックスを抱きかかえるイーグーリードは、未練ある顔でマンドリラーに声をかけた。

「覚えていろ」
そんなイーグリードに気にせず、短く怨嗟の言葉を紡ぐ。

「今度会ったときは、私の電気がお前の神経回路を犯しつくす」
マンドリラーの侮蔑は、イーグーリードを深く傷つけた。

「機械に生まれた事を後悔しながら、死ね。イーグーリード……裏切り者め」
最期の呪いの言葉を背中に受けながら、イーグーリードは段々と上昇するハッチに身を入れた。



「いや、助かったなぁ。エックス、イーグリードに感謝しておけよ? あと俺にもな」
高度2万メートルの世界。旗艦デスログマーは、夜の闇を悠然と突き進む。

「ありがと、ゼロ。イーグリードさんも、どうもありがとうございます」
中にある遊覧室で、三人は円形のテーブルをソファで囲んでいた。
エックスは、ふてぶてしく寝転びながらクッキーを齧るゼロに微笑んだ。
エックスの礼に、イーグリードは言葉にはせず、右手を挙げて答えた。

「ゼロ………」
イレギュラーのはずの、イーグリード。それが、何故かゼロの仲間になっている。
エックスは説明を求めるように、ゼロに視線を向けた。

「ん? あぁ、イーグリードの事か?」
ゼロはその本人の目の前だと言うのに、説明しようとする。

「俺とイーグリードは親友。それだけさ」
寝転び天井を見るゼロは、脚を組み替えながら、簡単に答えた。

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